金足農vs鹿児島実
14奪三振完投!大会No.1の呼び声高い吉田が見せたハイレベルなピッチング
大会ナンバーワン投手の呼び声高い金足農のエース、吉田輝星(3年)がどんなピッチングをするかに興味が集まったが、予想通り素晴らしいピッチングを展開した。ストレートの球速は1回表、143キロ程度が多く、速さだけに興味がある人はがっかりしたと思う。しかし、よかったのは投球フォーム。
1回のピッチングに入る前、ステップする位置を丁寧に歩測する姿を見て、「ああ、このピッチャーはいいピッチングをするな」と思った。ちなみに、これまでステップする位置を歩測したピッチャーは生井惇己(慶應義塾)くらいしか思い出せない。
プレートの踏む位置は真ん中。鹿児島実の先発、吉村陸矩(3年)は三塁側を踏み、金足農のスタメンに並ぶ8人の右打者の外角球に横の角度をつけようという工夫が見られたが、吉田は吉村より球速が10キロを上回るので、このあたりの感覚はアバウトだ。また、下半身がステップしてから、時間差で上半身が下半身を追いかけること。つまり、「下半身→上半身」という体の使い方ができているかどうかだが、この体重移動も依然として発展途上。それでいながら吉田の投球フォームには見る者を魅了する美しさがある。
投球フォームで最も重要なのは体(前肩)が開かないこと。これが吉田は完璧と言ってもいいくらいできている。「開かない」ことだけ一生懸命やると動きがぎくしゃくして投球フォーム全体が窮屈に見えるものだが、吉田の場合は動き全体がなめらかで、気になるのは繰り返しになるが、「下半身→上半身」の動きだけである。
体が開かない効用は奪三振の内容にしっかり現れている。奪った14個の三振のうちストレートで取ったのは12個あり、さらにそのうち10個が空振りだった。現代野球においてストレートで三振を奪うというのは多数派ではない。ストレートを見せておいて、フォークボールやチェンジアップで三振を奪うパターンが多いはずだ。それが吉田の場合は14奪三振のうち12個がストレート。これは前肩が開かないことによって打者はボールの出所が見えにくかったのだろ。
試合を振り返ると、3回裏に金足農は先頭の8番・菊地亮太(3年)がヒットで出塁、これを9番打者がバントで送って1死二塁とし、1番の菅原天空(3年)が1ボールからのファーストストライクを捉えて三塁打を放ち先制の1点を奪い、2番打者のスクイズが犠打と野選となりもう1点、さらに3、4番のヒットが続いて3点目が入った。吉田の投球が万全なだけにこの3点で試合は決したと言ってもいい。
吉田の投球にも一度話を戻すと、目をみ見張ったのはギアチェンジしてスピードが上がった場面だ。5回表、1死二塁になり打者は1番の山下馨矢(3年)。1ボール2ストライクになり吉田が4球目に投じた球は内角への148キロをストレート(この日の最速)。山下のバットがぴくりとも動かず見逃がしの三振に倒れるのだが、コントロールの緻密さ、勝負どころで内角勝負する度胸のよさなど吉田のよさがすべて出た場面として記憶に残る。
(文=小関順二)