試合レポート

日大三vs加古川北

2011.03.31

日大三vs加古川北 | 高校野球ドットコム

井上(加古川北)

加古川北がお株を奪われた時

 加古川北の持ち味が消えた――。

 そう感じたのは中堅手・柴田の指先からボールが放たれた瞬間である。

 1回裏1死・二塁での場面。日大三の3番・畔上がとらえた打球は中前へのクリーンヒット。ボールを処理した柴田は本塁へ送球したのだが、これがカットマンはおろか捕手も取れない高投となってしまった。打者走者の畔上は、難なく二塁へ進塁した。

隙あらば次の塁を目指す加古川北がやる走塁を日大三に許してしまった。

2回裏にも、2死、1、2塁の場面で、左翼手の小田嶋が同じような送球をしてしまい、さらなる進塁を与えていた。
この好機をきっちりと生かした日大三は2回で大量5点をリード。試合の大勢を決めると、以後、3回に1点5回に3点と積み重ね、これまで金星で勝ち上がってきた加古川北を相手にしなかったのである。

 走塁と守備は表裏一体とよく言ったものだ。

 隙を突く走塁を目指すチームは、守備で隙を与えない。人の隙を見抜けるから、己の隙を締めるものなのだ。
 だが、今日の加古川北は、先に隙を見せてしまったのである。

「本来、我々がやらなければいけない野球を日大三高さんにやられてしまい、立ち遅れてしまった。そうなってしまうと、打つ手がなかった」とは加古川北・福村順一監督である。先手を取られたことが敗因と唇をかみしめたのである。
ただ、この一連のプレーには伏線があったのも確かだ。1回表、加古川北は1死から2番・武田が左翼前安打で出塁、いつもは動くはずが強攻策に出て、併殺に倒れている。逆に1回裏、日大三は1死から出塁した谷口が盗塁を決めている。冒頭のプレーはその後に起きているから、この攻防に差が出たことが、加古川北を追い詰めたとみても間違いはない


日大三・小倉監督は加古川北を警戒していたと語る。
「(加古川北は)これまでの試合で結構、早いカウントから仕掛けているんですよね。試合前にバッテリーには、こっちからウェストのサインも出すよとはいってあった。外さなくても、ボール気味でもいいと。攻撃面では初回に(1番の)高山が出たら、谷口でエンドランを懸けるつもりだった。高山は出塁しなかったけど、谷口が出てくれたんで、相手捕手の肩を考えれば走れるだろうという作戦だった」

 2回を終えての5点の差は、加古川北からすれば攻め手がなくなったと言っていい。大量得点差がある中で、果敢に盗塁を仕掛けるのは無謀と言えるからだ。3回と7回に加古川北は先頭打者を出しているが、ともに併殺打に倒れている。策が打って出るしかなくなってしまったから、そうなってしまったのだ。

 数多くある戦いの中には正攻法で相手を崩していく時もあれば、相手の得意技を先に繰り出して主導権を握るという方法もある。この日は、後者を見事に日大三がやってのけたのだ。

 福村監督は「公立校でベスト8に進出し、よく頑張ったと言われるのですが、違う意味での厳しさを感じたゲームでした。8強を目指すのと、4強を懸ける戦いの違いを身にしみて感じました」と白旗を振った。

「中堅手の守備がまずかった」、「指揮官が先に動くべきだった」と敗因を探ればたくさん出てくるだろう。だが、「内野も外野も気持ちの強い選手ばかりなんです。柴田の送球は悪かったかもしれないですけど、あれも気持ちの表れだと思うので、しょうがないと思います」とチームメイトをかばう捕手の佐藤の言葉が示すよう、ベスト4を懸けた戦いが初体験だった加古川北には荷が重かったのかもしれない。

 加古川北は9回表に2点を返し、反撃に転じている。持ち前の走塁を駆使しての加古北らしい野球である。

 あれをすべきだったのだ…。

ただ、それ以上に、日大三が巧かったのだ。

(文=氏原 英明)

(撮影=中谷 明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.28

春の福岡地区を制した沖学園(福岡)、勝利のカギは異例の「決勝直前沖縄合宿」だった

2024.05.28

【大分】佐伯鶴城は4戦3勝、杵築は4戦で1勝<強化試合>

2024.05.28

【鹿児島NHK選抜大会】錦江湾が1点差勝利!出水工の追い上げ、あと1点及ばず

2024.05.28

【鹿児島NHK選抜大会】川内商工が2試合連続逆転サヨナラ勝ち!雨のため2試合が継続試合

2024.05.28

【北海道】北海が逆転勝利、27連勝で4季連続V達成<春季全道大会>

2024.05.25

【熊本】九州学院、熊本工が決勝へ<NHK旗>

2024.05.25

【関東】白鷗大足利が初、逆転サヨナラの常総学院は15年ぶり決勝<春季地区大会>

2024.05.25

首都2部優勝の武蔵大の新入生に浦和学院の大型左腕、左の強打者、昌平の主軸打者など埼玉の強豪校の逸材が入部!

2024.05.25

【岩手】盛岡大附がサヨナラ、花巻東がコールドで決勝進出、東北大会出場へ<春季大会>

2024.05.25

【佐賀】佐賀北が初戦突破!九州地区大会4強の唐津商は1回戦で姿消す<NHK杯>

2024.04.29

【福島】東日本国際大昌平、磐城、会津北嶺、会津学鳳が県大会切符<春季県大会支部予選>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.29

【岩手】盛岡中央、釜石、水沢が初戦を突破<春季地区予選>

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商