小豆島vs土庄
2回裏小豆島3番・赤澤慎吾(3年)の2点適時打で二塁から土居優馬(3年・主将)が生還
「島」対決制した小豆島の「ウエイトトレリーダー」
サッカーなどでのダービーマッチでよく使われるフレーズは「街を二分する」であるが、今回は正に「島を二分する」一戦だ。小豆島東側の小豆島町に立つ「香川県立小豆島高等学校」と西側の土庄(とのしょう)町に位置する「香川県立土庄高等学校」。
何たる因縁か。2012年の両者公式戦初戦の相手は最もお互いを知る、かつ最大のライバルであった。2月27日の組み合わせ決定から一番の話題となったこのカード。試合当日には100人程度が入れば満員の[stadium]香川県営第二野球場[/stadium]ネット裏には観客が鈴なり。明らかにこの試合のために島から駆けつけた人々が集う中、決戦ムードは徐々に高まっていく。
そこに土庄・長谷川博紀監督、小豆島・杉吉勇輝監督と共に30歳を切る青年指揮官による真逆のアプローチが拍車をかける。一塁側ベンチ前で「絶対勝つぞ!」と雄たけびを挙げて気合を入れる土庄に対し、三塁側ではいつも通り笑顔を交え飄々と準備を進める小豆島。
チームスタイルを決して崩さない両者の矜持がプレーボールの声と共にぶつかった瞬間、試合は随所に見どころ多き好勝負へと変化していった。
1回裏に小豆島は4番・塩田薫右翼手(3年)の犠飛で先制すれば、2回表に土庄は8番・岡本貴也中堅手(3年)、岡井勇樹投手(3年)の連続適時打ですかさず逆転。小豆島はその裏に敵失と3番・赤澤慎吾(3年)の2点適時打で再逆転するも、その後は各打者の打球方向を完全に見切った土庄外野陣の攻守に阻まれ、試合は膠着状態に突入する。
5回裏小豆島4番塩田薫右翼手(3年)が右越2ランを放ち生還
5回裏、その状況を打破したのは「この回絶対1点取るぞと監督からも言われたし、ランナーを帰そうと思った」4番のバットであった。1死2塁の場面で打席に立った塩田は「監督から教えてもらったルーティーンの動きの1つ」であるイチロー(シアトル・マリナーズ)そっくりのバット回し、バット立てから構えを固め、フルカウントからのストレートをフルスイング。
その打球は「ウエイトトレーニングのリーダーとして自分の体重を7キロ増やしただけでなく、部員の食事指導もしてきたし、2月には3万スイングの目標を達成した」(杉吉監督)達成度がわかる力強い弾道で右翼フェンスを越え。小豆島は貴重な、そして試合を決定付ける2点追加した。
それでも必死の形相で食い下がらんとする土庄。ただ、そこに立ちはだかったのは昨秋から明らかにアンダーハンドから投ずるボールのスピード、威力が増したエース・長町泰地(3年)である。上下左右に相手を揺さぶる長町の好投で完全に主導権を手にした小豆島は6回にも2番・角井亮介(2年)の犠飛で1点を追加し、結局7対2で快勝。
杉吉監督は開口一番「相手の術中にはまりかかって打たされてしまった。情けないです。すいません」と謝罪の言葉を口にしたものの、なかなかどうして、その戦いぶりは昨秋ベスト8、今大会シード校にふさわしい堂々としたものであったといえる。
その横で「これが高校通算4本目で、公式戦ははじめてのホームラン」と照れる塩田。しかし次の瞬間には顔を引き締めこう決意を述べた。
「この春から優勝を目指しているし、最後には香川県の頂点に立ちたい」。
その思いはこの試合を最後に丸亀城西に転任する大西哲也部長を惜しみ、試合後のミーティングで涙に暮れた土庄も同じはず。島民にとって春の夢は2つから1つになったが、夢はまだまだ終わらない。そして2校があくまでも目指すのは小豆島から瀬戸内海を隔てた100km先にある「あの夢舞台」である。
(文=寺下友徳)