野球へ真摯に向き合い、勝利と育成を成立させる

とはいえ、田本監督が大事にしているのは選手と同じ目線になって、野球に向き合うことだ。

「試合中も一緒になって声を出しています。それがいまの選手たちに必要な気がしています。
SNSが発達して文字でコミュニケーションが取れるので、グラウンドで感情を出せるようにしないといけないと思っています。そのために怒ったり、褒めたりするだけではなく、一緒に戦って笑ったり、吠えたりするのが良いのかなと思っています。そうすれば自然に感情表現が豊かになって、選手間でも叱咤激励ができると感じています」

そして何よりも田本監督が伝えようと考えていることは「心で勝つこと」だ。
「私たちの指導法の第一に掲げるくらい大事にしている部分です。
うちの場合は剛速球を投げる投手、豪快なバッティングが出来るスラッガーといった派手な選手はいないです。それでも強豪チームにも勝てるのは、ポテンシャルで勝負しているわけではなく、心といった大切な部分を教えているからだと思っています。
なので、選手たちの能力を100%発揮できるような起用をする。指導をすればいいと考えています。そうすれば選手たちも力を発揮して、感情を爆発させることが出来る。心で勝てると思います」

田本監督が強く推す心の部分、上野主将も過去に指導を受けたことがあったと振り返る。

「以前、『心でプレーしろ』という言葉をかけてもらったことがあります。心の底から野球で勝ちたい、と言う思いをプレーで伝えてこいということで、その言葉がありましたが、気持ちがあれば何でもできる。熱い気持ちですべてのプレーをして、辛いことも楽しむことが出来ています」

勝利至上主義の上に成り立つ選手主体。その原動力となる心を育てること。それが田本監督の指導論であると同時に、勝利と育成のバランス、そして江東ライオンズというチームを成立させているのだ。

江東ライオンズというチームは、一言で表せば「真摯」という言葉だと感じた。野球というスポーツに心から向き合い、選手たちと指導者が一緒になって戦う。だからオープン戦でも涙が流せるんだろう。

2025年で節目の50年を迎えた。記念すべき1年を戦うにあたり、「絶対に勝利にこだわりたいですし、悔いを残さずに姿で見せる、一生懸命、全力でガッツあふれるプレーが魅せられるチームにしていきたい」と上野主将は意気込みを語った。

取材後、挨拶を済ませると、田本監督はこんな言葉を残した。
「綺麗ごとかもしれないですが、選手たちには将来の日本を担ってほしいなと思っています。そう思える選手たちなので、人生かけても良いと思っています。それぐらい価値があります。なので選手たちに文句があることは許さないですし、何かあれば命がけで守ってあげたいと思っています。それくらいの覚悟です」

ここまで断言できる覚悟を持った監督に出会ったことが無い。と同時にこれほど大きな愛情を感じたことが無い。

これからも結果を残しながら、高校野球のみならず、社会で活躍する選手たちを送り出し続けるだろう。田本監督という熱き指揮官が率いる江東ライオンズから今後も目が離せない。