「指導者はどこにいる?」九里学園(山形)が 選手主体の”考える野球”で成果着々
保土沢和美ヘッドコーチ(九里学園)
2022年春には、秋季山形大会で準決勝まで駆け上がり、11月に山形県の21世紀枠推薦校に選出。2023年秋季大会も準決勝へ駒を進めるなど、安定して山形県で存在感を出しているのが九里学園である。
そんな九里学園の高橋左和明(さわあき)監督から絶大な信頼を受けるのが、保土沢和美ヘッドコーチだ。今回は保土沢コーチに九里学園野球部について話を伺った。
保土沢と九里学園の出会いは2000年まで遡る。当時、青森の六戸から出てきて山形大学の学生だった保土沢が、学内の球場で練習をしている時に現れたのが、創部したての九里学園の高橋監督だった。1年生だけで、夏の大会に挑戦したいと相談された、保土沢はその熱意にひきつけられ、青森に帰らずに九里学園の野球部をサポートしていくことになる。
保土沢は、九里学園野球部について、「指導者はどこにいるんですか?っていうぐらい、選手たちが勝手に始めて、勝手にやって、勝手に終わるチームです」と形容した。この言葉を聞いて思い出すのが、2019年に高橋監督を取材した時に聞いた「選手には考える力をつけてほしい」という言葉だ。
九里学園の練習は平日は16時から18時の2時間である。どのように効率的な2時間を過ごすかが、結果に繋がることは言うまでもない。そうなると個人が意識を高く持ち自発的に行動していくことが必要になる。「自分たちで考える」に向かい、高橋監督と保土沢ヘッドコーチが同じ方向を向いてガッチリとタックを組んでいることが、九里学園の無形の資産なのであろう。
保土沢の立ち位置は、そんな生徒たちの相談役である。生徒と近い位置で声を聞き、監督の考える自発的に動ける生徒になれるように、そっと寄り添うのである。個別練習で生徒から相談される言葉に真摯に向き合う。なんとなく始まる会話の中で選手の悩みをすくい上げる。
もちろん、生徒たちが常に自身を律して、考えながら行動できるかというと、そうもいかない。
「指導者としてイライラする時もあります。行動が遅かったり、気持ちが切れてたり。高校生なので、ちょっとやんちゃな方に行ったり、そういう空気感もあります…」と話すように、選手にも波はある。そんな時は、直接言葉を掛けるのでなく、チームの中心選手に考えを伝えることで、選手間で解決を促す。これも、保土沢流の「自分たちで考える力」をつけさせる方法の一つだ。
このような、保土沢と選手との心のキャッチボールを繰り返していくことで、九里学園の伝統でもある、自分で考える力がついていく。そうなると選手からの質問の質も違ってくる。自分の役割や、どこを強みにしてチームの中で存在意義を出していくのかの質問が増えてくるのである。
この力は、部活動を超えていく。
「学校の行事、例えば卒業式の準備など、我々が離れた状態でも子供たちが自発的に動いています。先生とくっついて準備や段取りなどを中心となってやっています。他の先生からも、いろんなこと仕切ってやってくれるので本当に助かるって言われます」と、保土沢は目を細めた。
4月、九里学園に新入部員が入ってきた。保土沢はまた、選手たちとの対話を開始しているに違いない。
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