「この代は、打って勝つという覚悟を誰よりも持っている」
2025年夏、鳥羽は“超攻撃型野球”を旗印に掲げている。昨年の守備力を核としたチームカラーから一転し、今季は打線で突破することにすべてを賭ける。1番から9番まで、全員が一発を狙える。そんな、異色の打線だ。
守備や投手力に不安を抱えるのではない。むしろ「打ち勝つこと」に特化し、そのスタイルを自ら選んだのが、このチームの覚悟の深さである。
打撃こそ最大の武器
村上が「打撃で突破する」と語れば、4番の横谷 乙樹(3年)もそれに力を込める。
「今年は打撃の核になる選手が揃ってる。自分たちの実力を信じて、振っていくだけです」
センターの坂尻 慶裕(3年)も、静かに言葉をつなぐ。
「打撃のキーマンは、横谷、1番の重久 善健、加藤 大河、そして自分。いいときは打線がどこまでもつながって、止まらない」
この3人に共通するのは、「いい時と悪い時の差」を強く意識している点だ。春の大会、西城陽戦では最終回にひっくり返し「後半勝負」の姿勢を体現したが、城南菱創戦では、打線が沈黙し、敗れた。
「そのギャップの差が、僕らの課題なんです。先頭バッターの出塁とか、細かい部分を徹底して、どんな試合展開でも崩れないようにしたい」(横谷)
「打線が沈黙すると、守備のリズムも悪くなる。だからこそ、“いい状態”を継続する準備が、今のテーマです」(坂尻)
その言葉通り、鳥羽の野手たちは結果と真摯に向き合っている。勢いだけの攻撃型ではない。自分たちの“波”を見極め、どう乗せ、どう整えるか。彼らは、勝つための理屈を持っている。
「チームとして勝つ」ために必要なこと
そんな中、村上は「チーム力」こそが自分たちの最大の武器だと語る。
「自分たちの代は、ベンチワークやメンタルを重視している。切り替えの動作を意識して、ミスを引きずらないようにする。帽子を取る、屈伸をする、声をかけ合う──そういう一つひとつをチーム全員がやれるようになってきた」
福知山成美戦では、序盤の苦戦を乗り越え、後半に粘りを見せて勝利をもぎ取った。その背景にあったのは、日頃から取り組んでいるメンタル講習やイメージトレーニングの積み重ねだ。
坂尻はこう語る。
「京都大会で優勝するために、まずは京都国際を倒すことを目標にしてる。そのために、自分たちが応援歌を聞きながらどう戦うか、日本一になった後に何をしているか、そこまで具体的に想像するようにしてます」
チームとして“勝つ”とは何かを、日々問い続ける。村上はそれを「集大成」と表現した。
「高校野球人生、甲子園に行ける最後のチャンス。ベンチメンバーもベンチ外も、3年生全員で戦う夏です」
勝つのは自分のためだけではない。背負うのは、自分以外の時間と仲間の想いでもある。
「崩れない男」の存在
そして、この“超攻撃型野球”を下支えするのが、2年生右腕・正村 翔太だ。
「正村が入ってきてから、試合が大崩れしなくなった」と語るのは松下浩司監督だ。
「まっすぐでも押せるし、制球力もある。ストライクゾーンで勝負できるのは大きい。まだ2年だけど、チームに安定感をもたらしている」
正村自身も「夏までに9回を投げ切る体力をつけたい」と地道な努力を続ける。練習後も帰り道の公園で一人走る。プロ志望を口にしながらも、その目は、今この夏に向いている。
個々の能力を信じるだけでは勝てない。だが、チームとして“支え合う力”があるからこそ、鳥羽の挑戦には、勝算が見える。
彼女たちの「見えない努力」/「この夏が、すべてです」
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