Interview

西武5位指名を受けた“北大生”独立リーガー「NPB入りのためのしたたかな戦略」<インディゴソックス ドラフト指名6人全員インタビュー③後編>

2023.12.17


左から西武に入団する谷口、宮澤、シンクレア

今年のドラフト会議で「11年連続&6人同時指名」という快挙を達成した徳島インディゴソックスの育成力の秘密に迫る本企画。西武からドラフト5位位指名を受けた宮澤 太成投手(長野高-北海道大)の後編をお届けする。

北海道大で輝かしい成績を残し、注目を浴びていた宮澤 太成。が、留年したことで公式戦出場もできない、就職して社会人野球に進むこともできない「空白の1年」が生まれてしまうことに。そこで宮澤が選んだのが徳島インディゴソックス。自ら志願して大学に籍を置いたまま、徳島に向かった。

徳島に来て味わった「人生で一番つらい時期」

宮澤 太成

「ダメなら1年で野球を辞める」と決めていた宮澤だったが、シーズン序盤、苦しんだ。オープン戦からアピールし続けていたのだが、前期シーズン(四国アイランドリーグplusは1シーズンが前期後期に分かれている)は出場機会が少なく、ベンチを温める日々が続いたのだ。10年連続ドラフト指名を達成していた球団の層の厚さとレベルの高さを痛感する毎日。それでもプロへの想いが宮澤を奮い立たせた。

「僕はプロになるために徳島に来たので。そのためにはまず試合出なくちゃいけないじゃないですか。それなのに、なかなか試合に出られなかったのですごく悔しい思いをしました。
どんな結果になっても今年で白黒つける覚悟で入ったので、NPBを目指す最後のシーズンで諦めたりする考えはなかったです。」

辛い時期だからこそ野球から逃げることはしなかった。
「プロ野球選手はいつか野球以外の職業に就く時がありますよね。レジェンド級に活躍できたとしても40歳ぐらい。それ以降の人生は、プレイヤー以外の部分で歩んでく。ここで逃げたら、人生でちょっと嫌なことがあったら目を背けちゃう人になってしまうって思っていました。
苦しい時ほどその人の人間性が垣間見える、ってよく言うじゃないですか。自分は苦しい場面で楽な方向に行く人間になるのが嫌でした。そういう自分になりたくないという思いがあったからこそ、人生で1番苦しいタイミングだったけど、ここは逃げずに踏ん張ろうと決めていました。」

人生で一番苦しい時期を支えたのは、学生生活で得た経験だった。
「勉強で点数を取ることとかが、野球の技術向上に繋がると思います。逆に野球をうまくなるために色々考えたり行動したりすることが、勉強で点数を取ることにも活きると思っています。野球と勉強って対立するものっていうより、お互いにプラスに関係しているものだと考えています」

もちろん、支えになっていたのは本人の気持ちだけではない。インディゴソックスのYouTubeチャンネルで試合を見てくれていた両親の存在も大きな活力だ。
「両親はずっと応援してくれましたね。独立リーグ行くという決断をしたとき、気持ちよく応援してくれましたけど、心の中では大丈夫なのかなとか思っていたと思います。そんな中で、よくインディゴソックスさんのYouTubeでやっている試合中継を見て、応援してくれていたみたいです。その期待にも応えたいという思いはありましたね」

「トレーニング」と「仲間の教え」で最速155キロ!フォークも一級品に!

悔しい日々を送りながらも、宮澤は必死に練習を続けた。球団が運営するトレーニング施設『インディゴコンディショニングハウス』に毎日のように通った。

「『コンディショニングハウス』をフル活用しましたね。だいたい何でもそろっていますし、トレーニングメニューも用意されています。その中から自分に必要なメニューをやっていました。
ウエイトトレーニングで身体を大きくしながら、同時にVBT(Velocity Based Training)で、スピードや出力の出し方、素早く力を伝える能力などをレベルアップさせていきました」
VBTとは詳細なデータが出せる速度に主眼を置いたトレーニングだ。

また、宮澤はチームメイトにも積極的にアドバイスを求めた。
「椎葉(剛・阪神2位指名)は前期からずっと成長しているのを見ていたので、『何が良くてそうなってるの?』と聞きましたし、朝陽(谷口 朝陽・西武育成2位指名)にも変化球の握りだったり、投げる時の意識だったり、ほんとによく質問していましたね」

充実した施設とメソッドで身体を鍛え、意識の高いチームメイトたちから学ぶ。徳島インディゴソックスの長所を存分に活用した宮澤は、後期リーグで登板機会が増え始めた。徐々に首脳陣の信頼も勝ち取っていった。
「後期リーグ戦の8、9月は本当に一瞬でした。2ヶ月間必死に食らいついていたので、1日1日があっという間でしたね。」

ストレートは、トレーニングの成果で最速155キロへと成長。チームメイトへの質問攻めでフォークにも磨きがかかった。
「フォークは今年1年良くなった変化球の1つです。もともと投げてはいましたが、色々な投手に教えてもらいながらフォークの割合を増やして、重点的に練習したんです」

驚いたのは、フォークを増やそうとした意図だ。
「試合に出るために何が必要か考えたときに、フォークが良いピッチャーはうちにいなかったんです。『フォークが良ければ目立てるな』と思って磨きをかけました。自分自身でメニューを考え、VBTを使って、変化量が出るように改善してきました」

北大で得た自主自立の考え方と、徳島の充実した時間が宮澤の中で融合していく。そしてドラフトの日を迎えた。

対戦したい選手は、元インディゴ戦士・茶野

指名を受けた瞬間の宮澤太成

ドラフト当日、ファンに見守られながら指名を待った。西武から5位で支配下指名を受けた瞬間、どよめきと同時に拍手で会場が包まれた。
「あんまり支配下は期待してなかったので、びっくりしました。指名があってすぐ両親から電話が来て、『おめでとう』と言ってもらいました。支配下で行くことができて、恩返しできてよかったです」

独立で夢を叶えた宮澤はチームや同僚への想いもかけがえのないものとなった。
「支配下でいけたことはインディゴソックスでプレーしてきたからこそ達成できたことだと思います。NPBへの想いが強い選手が多く、プロに向けて成長することができた環境でした。シンクレアと朝陽が同じ西武に指名されたのも心強いです。一緒に頑張ってきた仲間と、またこれからできるっていうのはすごく嬉しいですし、苦しいことがあっても、一緒に力合わせて頑張っていきたいなと思います」

対戦を夢見るのも元インディゴ戦士だ。
「西武は自分が小さいころ、物心がついて野球を見始めた時から強い球団でした。日本一の回数がパ・リーグの球団の中で1番多く、そうした名門球団に入れてとても嬉しいです。パ・リーグなので、徳島インディゴソックス出身の茶野 篤政選手(オリックス)と対戦してみたいです。一緒にプレーはしていないですけど年齢は一緒なので、いつか対戦出来たら嬉しいです。
今後は1年でも長くプロ野球界でプレーできる、息の長い選手になりたいです。そのためにもまずは開幕一軍を目標に今取り組んでいます。厳しい世界だと思っているんですけど、 この舞台に立てたってところの喜びを噛みしめて、まずは1日1日を必死にプレーしていきたいと思います」

異色の経歴を持つ独立リーガーは、どこまでも野球にどん欲な投手だった。様々な立場を経験してきたからこそ、活躍するためのすべを知っているのも強みだ。春からスタートを切るプロ生活も自らの力で切り開いていくことだろう。

(取材・文 塩沢 風太)

▼インタビュー前半はこちら
名門国立大生兼独立リーガーが西武5位指名! 宮澤太成が自ら「徳島インディゴソックスに入れて欲しい」と入団を願った理由<インディゴソックス ドラフト指名6人全員インタビュー③前編>

【徳島インディゴソックス指名6人全員インタビュー】他の記事はコチラから

この記事の執筆者: 田中 裕毅

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