【甲子園】3回戦 仙台育英 vs 履正社
仙台育英が王者らしくないプレーにも、背番号1が空気を変えて8強入り
<第105回全国高校野球選手権記念大会:仙台育英4ー3履正社>◇17日◇3回戦◇甲子園
見応え十分の試合だった。決勝戦のカードといってもいいと呼ばれていたが、まさにがっぷり四つに組み合った試合だった。
3対3で迎えた8回1死三塁。仙台育英(宮城)が尾形 樹人捕手(3年)のスクイズで勝ち越し。その1点を守り切って履正社(大阪)を破った。わずか1点の差。それも終盤でのチャンスを逃さなかった昨年王者の勝負強さが際立った。
この日は「王者」らしくないところもあった。2回に鈴木 拓斗外野手(2年)の2ランで先制すると、ベンチはお祭りムード。強豪相手に序盤から優位に立ったはずだった。しかし、その裏に2死から連続適時打を浴びるなど2点を奪われ同点に。いつもと違う雰囲気だったのかもしれない。
3回に「らしくない」プレーが続出する。先頭打者の左前安打に、本塁打を放っていた鈴木がファンブルして二塁に進まれた。その後、1死三塁となり、1点はOKの守備隊形から遊撃ゴロを処理した山田 脩也内野手(3年)が一塁へ悪送球。続く三ゴロも、湯浅 桜翼内野手(2年)がまたも一塁へ悪送球した。ここまで堅い守りを演じてきた「王者」が珍しく浮き足立った。負の連鎖が続くと、なかなか断ち切れないもの。嫌なムードになったが、履正社がちぐはぐな攻めを見せてくれたおかげで1点勝ち越されただけで終わった。履正社はここで一気に崩せなかったのが痛かった。
いやな流れを断ち切ったのは背番号1を背負う高橋 煌稀投手(3年)だった。3対3で迎えた6回からリリーフ。6回を2者連続三振を含む三者凡退で打ち取り、ナインをピリッとした空気に変えた。勝ち越した直後の8回に招いた2死一、三塁のピンチにも、代打の坂根 葉矢斗捕手(3年)を4球すべて直球勝負で空振りの三振。最後は144キロの渾身の直球だった。
仙台育英は履正社のキーマン、2戦連発中の森田 大翔内野手(3年)に細心の注意を払った。4打席対戦して2四球を与えたが、そのほかは三ゴロ(1つは失策)に打ち取った。内角へ厳しいコースへの直球と、外角の変化球。この2種類を軸に、コースを間違わないように、先発の湯田 統真投手(3年)も、2番手の高橋も森田にだけは打たせなかった。4番だけにとどまらない、打たせるとチームも勢いに乗ることを熟知していた。尾形捕手も含めたバッテリーの勝ちだった。
履正社は仙台育英が唯一、スキをみせたあの3回に、たたみかける攻撃ができていたら。「王者」を倒すにはそこしかなかったように思える。
仙台育英は、15年(準優勝)、17年(8強)、19年(8強)、22年(優勝)に続き夏甲子園出場5大会連続でベスト8進出を決めた。浦和学院(埼玉)、聖光学院(福島)、履正社(大阪)と「死のブロック」を勝ち抜いた今年は特別な価値がある。この自信は揺るぎないものになったに違いない。昨年から続く夏甲子園連勝も8に伸ばした。初優勝からの連覇へ、あと3勝だ。