専大松戸vs木更津総合
ラストのドラマだけでない。専大松戸には「組織力」と「守備力」があった
ダイヤモンドを回ってきた吉岡道泰を迎え入れる専大松戸ナイン
2年ぶりの夏の甲子園を目指した専大松戸と木更津総合の決勝戦は、夏の暑さ以上の大熱戦となった。
先攻の木更津総合が、3回までに3番・大西 智也のホームランなどで3点を先取する形で、試合が進んでいた。しかし専大松戸も4回に1点を返すと、5回には2番・苅部 力翔のタイムリーなどで一挙5得点で6対3と試合をひっくり返した。
そのまま専大松戸が3点リードを保って終盤に突入し、優勝まで残りアウト6つから、木更津総合が反撃する。
2番・菊地 弘樹のヒットなどで、無死一、三塁を作ると、3番・大西や6番・水野 岳斗のタイムリーで3点を奪い6対6とした。
そのまま9回でも決着がつかずに延長に入るも、延長12回でも雌雄を決することなく、タイブレークに突入する。
先攻として点数を取りたい木更津総合だが、専大松戸・岡本 陸の踏ん張りで無得点に抑えられ、裏の守備に入る。逆にチャンスを迎え、「ここで終わらせよう」と専大松戸・持丸監督も勝負に出た13回裏、9番・深沢 鳳介のバントヒットで無死満塁とする。
ここで「千葉で一番悔しい思いをしてきた」と自負する1番・吉岡 道泰が打席に入る。打席に入る前にもバットに祈りを捧げ、打席に入ると、2ボール1ストライクからバットを振り抜き、ライトスタンドへ突き刺した。
「スコアボードに4が刻まれたときに涙が出てきました」と打った吉岡も溢れる思いを抑えきれないサヨナラ満塁ホームランで専大松戸が3時間56分の死闘に終止符を打った。
吉岡道泰のサヨナラ満塁ホームランの瞬間
試合後、吉岡も「小さいころからの夢の舞台。リベンジする場所」と言っていた甲子園に専大松戸が行くことになったが、決勝戦は戦国千葉を改めて再確認させられるほど、素晴らしかった。
試合中盤までは専大松戸に勢いがあり、木更津総合を追い詰めた。ただ、木更津総合も後半に執念の攻撃で追いつき、延長戦に突入する。最後は劇的な幕切れだったが、技術以上の執念、気持ちと気持ちのぶつかり、火花が散った延長13回の死闘は、両チームの攻撃力があっただろう。
この試合、専大松戸は深沢、木更津総合は島田 舜也と今年の千葉を牽引する好投手で、どちらも最速144キロを計測する速球投手だ。その投手相手に、各打者は振り負けることなく、バットから快音を響かせ、投手陣を援護し続けてきた。
ただ、その戦い方は別だ。
木更津総合は「ライナー性の低い打球を目指して普段から意識しています」と山中海斗主将が中央学院戦後に話したように、木更津総合は各打者がオーバースイングをすることなく、全員が鋭くシャープなスイングでボールにミートしていく。
センター方向中心にはじき返し、野手の間を切り裂いて長打を記録する。強烈にミートをすれば、外野の頭を越していき、フェンスオーバーも記録する。俗に言うヒットの延長がホームランを体現するスイングといっていいだろう。
雄たけびを挙げる木更津総合3番・大西 智也
対する専大松戸も各打者の能力はもちろん素晴らしいが、注目すべきは組織力だ。
選抜で中京大中京に敗れてから、畔柳 亨丞を想定して「実践練習の中で各打者がそれぞれ役割を考えて練習をしてきた」と専大松戸の選手たちは春季県大会から何度も口にしていた。
簡単にアウトになるのではなく、センターから逆方向への打撃を意識して粘り、相手の失投を確実にはじき返す。そこに木更津総合戦でも見せた、エンドランなど塁上からもプレッシャーをかけて、相手守備に楽をさせない。様々な作戦を考えさせて、そこに対するケアをさせ、打者への集中力を分散させて援護した。
形は違えど、両チームが1年間かけて磨いてきた打力をいかんなく発揮したことで、最後まで展開が読めない緊迫の試合が実現したのではないだろうか。
こうした技術、そして甲子園への思いの強さも同じで、甲乙つけらない両チームだが、強いて勝敗を大きく分けたのは、守備力ではないだろうか。
専大松戸が無失策に対して、木更津総合は失策3を記録している。特に5回の専大松戸の5得点には2つのエラーが絡んでおり、勿体ない失点だったと言える。山中主将も「エラーをしていたら勝てない」と試合後に改めて実感をしていた。
ガッツポーズする専大松戸・岡本陸
逆に専大松戸は粘り強く守り抜きチャンスを呼び込んだが、その守備の中心であり、優勝の原動力は岡本の好投だろう。
持丸監督も「今日は岡本の踏ん張りが大きかったです」と背番号11の力投を勝因に挙げた。ライトに回った深沢も「守っていて安心感がありました」とライバルのピッチングを称賛したが、振り返れば秋までは深沢を中心としていた。
しかし選抜を終えてから、「2枚目以降を育てなければならない」という持丸監督の考えから、春の県大会から岡本の登板が次第に増え始めた。春の関東大会でも優勝投手になるなど、着実に力を付け、集大成の夏の大事な一戦で、試合を作る快投を見せた。これは、春からの取り組みが間違っていなかったことを証明したといっていいだろう。
秋は県大会3位、春の県大会で準優勝と、関東大会で優勝はしたものの、千葉の頂点には手が届いていなかった。石井主将が「1日1日課題を克服して」という言葉が試合後取材であったが、まさに着実に一歩ずつ前進したことで、遂に千葉の王者に輝いた。
「千葉県で名門になるには、選抜や春、そして夏で勝てないとなれないぞ。だからここで勝てないと名門になれないぞ」と持丸監督は選手に伝えてきたそうだ。それに応えるように想像以上に選手が成長した。この夏、専大松戸が真の千葉の名門となって甲子園の舞台でどんな野球を見せてくれるのか楽しみだ。
(記事=田中 裕毅)