星稜vs藤蔭
数字で藤蔭を圧倒した星稜
私が計測するストップウォッチでは星稜が藤蔭を圧倒した。まず走力を打者走者の各塁到達タイム「一塁到達4.3秒未満、二塁到達8.3秒未満、三塁到達12秒未満」で見ていくと、これらのタイムをクリアしたのは藤蔭の1人1回に対して星稜は3人5回。この走力が3回の勝ち越し機に生きた。
1対1で迎えた3回裏、星稜は先頭の9番山本伊織(2年)が四球で歩き、1番の東海林航介(2年)がバントで送り、このときの一塁到達が3.76秒。1死二塁になって打席に入った2番河井陽紀が2ボール1ストライクから放った打球は右中間を抜く三塁打打となり、このときの三塁到達が11.76秒。これで2対1とリードし、続く3番内山壮真(1年)が二塁打を放って1点、さらに5番竹谷理央(3年)がライト前に弾き返して1点加え、序盤にして4対1とリードした。
投手は星稜がU-18日本代表候補の奥川恭伸(2年)に対して、藤蔭は大分大会でベンチ入りすらしていなかった吉村紘宇(3年)を先発に立てた。吉村は1回裏、2つの四球をきっかけに併殺崩れで先取点を許し、3回に3点を許したのも先頭打者の四球がきっかけだった。187センチの長身から投げ下ろす最速139キロのストレートは数字以上の威力があったがコントロールが不安定で、さらに外角一辺倒のピッチングでは打者の踏み込みも許してしまう。3回の1死二塁の場面で2番手の市川晃大にマウンドを譲り、その市川に対しても星稜打線は7安打を絡めて5点を奪い、勝敗を決した。
投手陣に目を向けると、先発の奥川は8回を投げ、4失点されながらストレートの最速が150キロ、最終回の1イニングだけ投げた寺西成騎(1年)は186センチの長身を生かした力の投球で最速が143キロを計測した。速ければそれでよしということではないが、スピードは変化球を生かす第一要素でもある。
速いストレートに狙いを定めた藤蔭打線は奥川のストレートをよく捉えた。2回表には5番打者が140キロのストレートを捉えたところからチャンスを作り、8回には2死二塁の場面から4番奥園颯(3年)が148キロのストレートをセンター右に弾き返して1点返している。右打者が横変化のスライダーを追いかけなければもう少し拮抗した戦いになっていたと思う。
最後のストップウォッチの要素とは捕手の二塁送球である。星稜の山瀬慎之助(2年)は奥川のクイックタイムが1.2~1.3秒と遅いこともあり、3つの二盗を許しているがイニング間の二塁送球で1.8秒台が3本あり、2回に二盗を阻止したときには1.97秒という矢のような鋭い送球だった。これらのタイムはもちろん超高校級と言っていい。
さて、ここまで名前を挙げた星稜の選手の多くが下級生だったことに気づかれただろうか。投手の奥川が2年、寺西が1年、捕手の山瀬が2年、二塁手の山本2年、遊撃手の内山が1年と、センターラインが見事に下級生で形成されているのだ。
石川大会で5本のホームランを放った南保良太郎、4本のホームランを放った竹谷、さらに打率5割の鯰田啓介という3年生も注目されているが、今年の星稜はあくまでも主力が1、2年生の下級生たちである。ちょっと気が早いが、来年甲子園大会に出場すれば、優勝候補の一角に名前が挙げられるだろう。
(記事=小関順二)