九州国際大付vs伊万里農林
松岡怜(伊万里農林)
主張するオープニングヒッター
試合後、伊万里農林・松岡怜が、控えめながらも自らの主張をぶちまけた。
「個人的には1番を打ちたいと思っています」
佐賀県第3代表として九州大会初出場を果たした伊万里農林。打線のキーマンはこの試合で3安打を放った松岡である。
三振が少なく「バットコントロールには絶対の自信がある」というチーム一の巧打者の松岡は、不動の斬り込み隊長として昨年夏の佐賀大会を戦った。しかし、新チームの起ち上げ以降は、その確実性を買われてクリーンアップの一角(3番)を任されるようになる。
ところが、2012年の春季大会開幕と同時に、松岡は不振に陥った。
松岡のミートセンスを持ってすれば、振ればなんとかなる。ただ、バットが出ないのだ。首を傾げる松岡。
「チャンスで迎える打席は、ちょっとどこかが違うというか……」
見かねたのは4月に就任したばかりの杉原周平監督だ。
「この男には背負わせるよりも、チャンスを作る役割の方が向いている」
と、それまで好調を維持していた市川裕人と打順をそのまま入れ替え、松岡を再びトップバッターに指名したのだった。
「起用な打者だし、松岡の気持ちが乗ってくるとチームに活気が生まれる」
「思い切っていってこい」と、松岡の尻をポンと叩くように送り出した杉原監督。この期待に見事に応えた松岡は、九州国際大付先発の安藤幸太郎が投じた2球目の直球を左中間に運び、華々しいオープニングヒット(二塁打)を記録した。
松岡怜(伊万里農林)
松岡は続く原田貴章の初球送りバントで三進すると、続く市川が二球目をスクイズに出て、この投球が大きく逸れたことであっという間の生還を果たした。
これが杉原監督の言うチームに活気をもたらすチャンスメイカーの仕事か。
試合には敗れたが、九州国際大付ベンチが「あの1番打者は何者だ」と目を白黒させたほどの躍動感を見せたのだ。
3安打はいずれも「狙っていた」という直球を叩いた。とくに2打席目の中前打はカウント3-0からストライクを取りに来た変化球を見逃し、その後再びストライクを取りに来た直球を捉えたものだった。
「次打者になるべく多く球を見せてあげるというのも1番打者の仕事ですから」
「50mが6秒4なので、決して足が速い方ではありません。自分の求める理想像は、小技ではなく打って出塁してこその1番打者です。やっぱり、自分は1番打者がいいですね」
主張することは罪ではない。松岡怜は何をどうすればチームに勝利ももたらすかを知っている。だからこそ、きっぱりと言いきれるのである。
(文=編集部)