試合レポート

日大三vs光星学院

2011.08.21

日大三打線の印象

 「日大三打線は凄い」
光星学院のエース秋田教良が使った言葉だ。実は前日の準決勝で、関西水原浩登投手も同じような言葉を使った。
決勝での大量失点。マウンドで孤独に立ち続ける投手の心境はどんなものなのだろうか。

 この日、秋田の立ち上がりは悪くなかった。いや、逆に球は走っており、調子は良かったというべきか。
その象徴が1回、1死1、2塁での4番横尾俊建の場面。
1ボール2ストライクから横尾がファウルで2球粘った後の6球目。秋田が3回首を振って投げた球を、横尾はビックリしたような様子で空振り三振を喫した。球種はカーブ。
準決勝(作新学院戦)で「タテの変化球を多めにいれないと」と、捕手の松本憲信が考えて取り入れた球が、日大三には情報が入っていなかった。
秋田は2回にも、味方のミスで走者を背負ったものの無失点。3回も三振とセカンドフライで簡単に二死を取った。

だが、わずか“一球”が日大三に隙を見せることになる。
3番畔上翔への1球目、内角を突いた146キロの球が畔上の体に当たってしまった。
続く4番横尾が2球目を打ちあげたが、これがポテンヒットに。すでにスタートを切っていた畔上が三塁を陥れ、2死1、3塁となった。

打席は5番の高山俊
「焦りはなかった」という秋田だが、外を狙ったスライダーが甘く真ん中に入ってしまった。
高山はそれを見逃さずに振り切る。打球は鋭いライナーでグングン伸び、センターバックスクリーンへ飛びこんだ。先制となる3ラン。
時間(球数)を要さず、わずか一発で仕留めてしまう相手打者のスイングに、投手が恐れはじめる瞬間でもあった。
ただ、それでも秋田は次の打者を三振に取り、4回も3人で切り抜けた。
「打って取り返してやる」というチームメートの言葉を勇気に、秋田は怯んでいなかった。


だが、日大三のエース吉永健太朗も、今大会で一番と言えるピッチングをみせていた。光星学院がどんなに強いスイングで吉永を圧倒しようとしても、吉永の球を芯で捕えることはできなかった。

5回に併殺崩れで1点を追加したのは日大三。これも秋田にとっての『気持ち悪い』1点になっている。
そして7回裏、日大三のクリーンアップが秋田に襲いかかった。早いカウントからドンドン振ってくる。ここまで圧迫されてきた秋田の気持ちが球に乗り移り、日大三打線のバットが次々と捕えた。
このイニング、わずか15球。気がつけばスコアボードには「5」という数字が灯っている。

ここで、秋田はマウンドを降りた。
「コースに決まった球だったけど、バッターがそれでもあの球をもっていくのはすごいなと感じました。コースを突こうという気持ちが強かったけど、逆に力んでしまいました」
完敗を実感した秋田は9回、涙を流していた。
日大三打線の魔力。それは好球必打の鋭いスイング。バットの振りが他のチームとは違った。
そして、たとえ点が取れなくても、相手投手に与える圧迫感。終盤は各投手の気持ちが持たないほどのインパクトを持っていた。さらに、それはバックの守備陣とて同じ圧迫感。鋭いスイングに知らず知らずのうちに野手の守備位置が下がり、本塁で刺せそうな当たりでも投げるだけの余裕を奪うものだった。

1試合平均10.2得点、6試合全てで二桁安打、難しいことを考えずに、『ストライク』を打つ。
4014校が参加した夏は、〝強スイング〝と〝支えられたエース〝が覇者となった。
しかし、決勝まできた光星学院の戦いぶりも色あせることはない。そして昨日までに敗れた4012校の戦いぶりも立派だった。

(文=松倉雄太)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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