「甘い言葉をかけてます」 野球教室開催、丸刈り廃止、WEBでのPR……部員不足と闘う都立高野球部のいま
都立江戸川ナイン(23年夏撮影)
「春は単独チームで臨みたい」
都立のそこまで強くはない学校と自認している都立千歳丘の秋本則彦監督は、学校の生徒募集対策の代表も務めているが、「中学時代に活躍したことのない生徒が多いので、高校からでもチャンスがあるし、上下関係もないと、甘い言葉をかけている(苦笑)」というところから始めている。そして、高校でも野球をやりたいけれども強豪では自信がないという生徒に対して「もう一度、一から野球にチャレンジしていこう」という声掛けはとても大事だと実感しているという。
かえつ有明との合同チームとして参加した秋季大会後に1人の新入部員が増え、9人で活動できることになったのは、江東区南砂に学校がある都立東だ。藤田康平監督は、「春の大会は単独で臨むことができるようになり、部員も必死に練習している」と、1人の加入を喜んでいる。合同チームでの参加については、他校と1つのチームを作っていくということで、コミュニケーションを深め、独自のサインを考え、練習方法を話し合う姿勢を学べたと、その意味もあったという。しかし、一方では双方の学校行事の兼ね合いなどで揃って練習できることも少なかったなど、面白さと難しさの両面を実感したという。
さらに藤田監督は、「知名度や実績のない学校なので、見学に来てくれた中学生には、現役生が積極的に学校生活や勉強法について話して、学校の魅力を伝えていくようにしている」と言う。そのためには、OBなどとの繋がり作りなども大事だとしている。そして、「少しでも多くの選手が入試を突破し入部してくれて、チーム内の競争が活発になりモチベーションを高め、少しでも良いチームにしていきたい」という思いも強い。
「実績を残せば注目される」
指導スタッフも充実していて、毎年15~20人ほどの入部者がおり、都立校としては恵まれている方だというのは都立葛飾野だ。それでも「葛飾野は野球も野球以外でも厳しい」「丸刈りが嫌だ」などの理由で、最終的には入学しなかったり入部しないということもあるという。
才野秀樹監督は、「やはり、実績を残せば中学生はもちろん、保護者や中学野球の指導者は注目してくれる」と、実績を残すことの大切さを強調する。その一方で、「夏の大会以外の結果や、日々の取り組みを広く伝えていく。そのために、ホームページも充実させていくことも大事」という思いである。また、昨夏から丸刈りは特に強制はしないということになったという。それでも、新チームは生徒たちのミーティングで、丸刈りで通すということを決めたという。
そうした結果かどうかは分からないが、スポーツ特別推薦入学希望者は例年に比べて大幅に増加している。
こうした取り組みをしながら、都立校の指導者たちは、試行錯誤しながらも何とか部員減少に歯止めをかけて行きたいという思いで活動している。
野球に限らず…「部活動」は曲がり角に来た
もっとも、野球に限らず、高校部活動の現場では部員不足が現実となっている。先の全国高校ラグビーでは、合同チームの全国大会出場も認めていたが、福井代表は若狭東と敦賀工との合同チームだった。それだけではなく、高校ラグビーでは地区大会では初戦がいきなり決勝という地区も少なくない。参加校が2、3校程度しかないというところもいくつかある。
また、高校駅伝も暮れの都大路を目指す都道府県の大会でも参加校は年々減少してきており、全国で1000校程度だという。よく、「野球はお金がかかりすぎる」とか「少年野球でも早い段階から親の負担が大きすぎる」などということも、言われ続けてきて久しい。しかし、他の競技の現実も見てみるとそういうことだけでもないような気がする。
社会的には、多様化という言葉がよく聞かれるようになり、オリンピックの種目もスケートボードやブレイクダンス、サーフィンやボルダリング、スノーボードなど、本来遊びの要素だったことが競技スポーツとして認められるようになった。このことで、インターナショナルステージで戦う場を得られてきている。
今の時代は、早くから自分が好むスポーツを選択して取り組んでいくというケースも多くなっている。かつてのように、子どもの遊びと言えば三角ベースも含めた野球型の競技がドッジボールしかなかったという時代ではなくなっているのも現実だ。そういう時代になっているともいえる。
さらには、公園や広場などでもキャッチボール禁止、ボール投げ禁止という場所も増えてきている。そのことにも伴って、親子でキャッチボールなどという、かつては各地の広場や街角で見られた光景もほとんど見られなくなってきてしまった。
勢い、野球をやろうとすると、あるいは親が子どもに野球をやらせたいとすると、学童野球や地域クラブの少年野球チームに入団させるということしかない。そこでは、指導者が熱心なあまり、早くから専門性の高いことを求めたり、ポジションが固定されていってしまうということもある。このことが、子どもによっては野球離れを繋がって行ってしまうということもあるだろう。
更には、中学の部活動の現場でも働き方改革などもあって、現場の教員の部活指導離れが進んでいるという問題もある。そんなことで、中学の部活動としての野球部はどんどん減少傾向となっている。その一方で、野球に取り組みたい中学生は地域のクラブチームに入団するということになるのだが、そこでも二極分化が進んでいる。
そうした中で、今後の高校の部活動そのものも、見つめ直していかないといけない。部活動そのものの在り方も曲がり角に来ているのかもしれない。