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【高校野球ベストシーン’23・香川編】公立校の親子の夏、悲願は夢と消えたが、決勝の日は永遠に忘れることのない日に

2024.01.21


2024年が幕を開け、センバツの足音も聞こえはじめてきた。昨年、高校球界でもさまざまな印象的な出来事があったが、都道府県ごとにベストシーンを思い出してみよう。

香川大会決勝の3回。英明に0-6とリードを許した志度のマウンドにいた新鞍 護投手(3年)は、限界を感じていた。3回までに2本のアーチを浴びていた新鞍は、右人差し指のマメがつぶれ、監督に交代を直訴した。甲子園を決める大事な一戦。この夏の悲願達成にすべてをかけていた背番号1は、目前で力尽き、チームも5対13で敗れ準優勝に終わった。

夢があった。降板したエースは、新鞍 幸一監督の次男。「親子鷹」で挑んだ最後の夏だった。父は高松西(香川)で甲子園出場経験はあるが、初戦敗退。護の夢は甲子園で1勝することだった。

2年秋は香川大会準々決勝で高松商に7回コールド負けした。6回8奪三振も9失点の完敗だった。そこから這い上がる。3年春は決勝まで勝ち進み、丸亀城西に1点差惜敗。7回まで1失点の好投も8回に逆転を許した悔しい負け方にも、優勝まであと一歩のところまできた。自信を胸に最後の夏に挑んでいた。

5試合33.1回を投げ、イニング数を上回る35奪三振をマーク。これが新鞍の最後の夏の成績だ。準々決勝、準決勝と2戦連続して2ケタ奪三振を奪った。準決勝の藤井学園寒川戦の奪三振は13にも上った。優勝に向けてムードは最高潮だったが、準決勝までの3戦連続完投の疲れで、体は限界に達していた。決勝は3回をもたずに降板。この夏投じた601球目で、父に「限界」であることを告げた。

親子である一方で、監督と選手の関係。難しい距離感を保っての、高校野球生活だったが悔いはない。決勝では万全のコンディションで投げられないことは「阿吽の呼吸」で互いに分かっていた。しかし、護はマウンドに上がり、父は弱音をはかずにマウンドに上った次男が誇らしかった。決勝の日は、監督でもある父の誕生日。結果は残せなかったが、永遠に2人の心に刻まれた日になった。

志度・夏香川大会決勝のスタメン
(中)市場 琉宮(3年)
(二)瀬尾 常成(3年)
(右)大川 周真(3年)
(投)新鞍 護(3年)
(捕)瀬尾 麗希(3年)
(一)長谷 捷希(3年)
(左)池本 翼(3年)
(三)市ノ瀬 生光(2年)
(遊)山本 翔永(1年)

この記事の執筆者: 浦田 由紀夫

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