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【高校野球ベストシーン’23・和歌山編】日本中を衝撃が走った!高野山が智辯和歌山を初戦で撃破

2023.12.06


高野山

2023年もあとわずか。ことしも高校球界ではさまざまな印象的な出来事があった。各都道府県ごとにベストシーンを思い出してみよう。

【選手権和歌山県大会2回戦・高野山vs.智辯和歌山】
この夏一番の「衝撃」だったかもしれない。甲子園で春夏通算4度の優勝を誇る智辯和歌山が、22年ぶりに夏初戦敗退を喫した。全国高校野球選手権和歌山大会2回戦、7月15日の出来事だった。
第1回大会から出場している創部110年を誇る高野山が「ジャイアントキリング」を成し遂げた。その「快挙」をもう1度振り返ってみたい。試合の流れとしては、智辯和歌山が初回に1点を先制し、5回にも1点を加えた。しかし7回に高野山が3点を奪って逆転。9回にも1点を追加して、4対2で逃げ切った。
高野山はどうして「ジャイアントキリング」を起こせたのか。4つのポイントがあったと見ている。1つ目は、先発、酒井 爽投手(2年)の好投、2つ目は高野山の鍛え抜かれた攻守、3つ目は自然現象。最後は「ラッキーボーイ」の存在。その4つの要素がうまくからみあって、格上のチームを倒すことができた。

先発の酒井は、真正面から立ち向かった。130キロ前後の直球に、スライダー、カーブを主体に打たせて取るタイプだが、強打の智辯和歌山打線相手に「逃げ」の投球をしていない。右、左打者ともにしっかり内角を攻め、ファウルを打たせてカウントを取り、外角球で勝負した。初回に犠飛で1点を取られたが、4回まで無安打に抑えた。5回に初安打を許すも7回2死までは1安打。最初から最後まで内角を攻めることをやめず、智辯和歌山打線に立ち向かったのだ。

メンタル面でも負けていなかった。カウント3-0からでも、大きなカーブでストライクを奪うシーンもあった。変化球のコントロールには、よほどの自信があったに違いない。3対2と逆転した直後の7回裏。先頭打者の4番の青山 達史外野手(3年)に対しても、内角直球でストライクを取る。その後、スライダーが甘く入り、左翼左の場外へと消える「大ファウル」を見せられたが、結局最後は外角のスライダーで三振を奪った。抑えないといけない勝負どころで、強気の姿勢をさらに強めていた。終わってみれば、失点は犠飛と自らの暴投で失った2点。適時打は許さず、わずか4安打に抑えた。智辯和歌山は完全に酒井の術中にはまった。

高野山は7回に3点を奪って逆転に成功しているが、適時打は1本だけで、あとの2点は押し出しの四球と死球だった。智辯和歌山の投手陣の「自滅」ではあるが、それを引き出したのは、6回まで相手バッテリーに見せてきた攻撃力だった。大振りするのは中軸だけ。それ以外の選手は確実にミートに徹し逆方向を狙っていた。送りバントがファウルになっても、エンドランに切り替えてチャンスを広げる攻撃も見せていた。得点には結びつかなかったが、相手バッテリーにプレッシャーをかけていたのは間違いなかった。7回に1点を返してなおも一、三塁と攻め立てた場面。ファウルになったが初球スクイズも敢行した。何をしてくるか分からない。意識過剰になった投手が、制球力を乱すのは当然だった。

守備でも鍛え抜かれていたことが分かるシーンがあった。4回に1死一、三塁とピンチを背負った。ここで酒井が「偽投」して走者を刺そうとした。酒井は一塁に「偽投」した瞬間、身軽に180度回転して三塁へ投げた。三塁走者は頭から返ってギリギリセーフになっている。サインプレーと思われるが、練習を積んできた証拠だ。
その後の一ゴロで、併殺を完成させてピンチを乗り切った。ここでも感心させられた。二塁からの送球で一塁ベースカバーに入ったのは、一塁手でもなければ投手でもなかった。二塁手だった。やや前進守備だったとはいえ、一番近くにいた浅田 崇人内野手(2年)が臨機応変に一塁に入った。鍛え抜かれた守備でなければ併殺は完成せず、追加点を許していた。

気象条件も微妙に影響した可能性はある。この日は「強風」が吹いていた。センターポールに掲げられた日の丸が一時、外れかかっていたほどだった。マウンドに置かれたロジンも飛ぶこともあった。乾燥した夏の土のグラウンドで投手、打者、捕手がタイムをかけるシーンが多く見られた。高野山が逆転した7回の攻撃中は、特になぜか風が強かった。風の影響からか、球場の警報機も誤作動してプレーが中断したこともあった。智辯和歌山の投手にとっては不運な風だったかもしれない。しかし、高野山の酒井は、最初から最後まで、あまり自らタイムを要求することがなかった。それだけ投球に集中できていたのだろう。

こういう「ジャイアントキリング」にはありがちな、「ラッキーボーイ」も、やはりいた。高野山の背番号16、長谷川 準泰内野手(1年)は、8番・三塁でスタメン出場。2回にゴロを弾く失策をしてしまったが、その後は三遊間のゴロを上手くさばいたり、三塁側内野席のフェンス際の難しい邪飛を捕球するなど、ファインプレーを連発した。打っては7回の逆転の糸口となる左前への適時打。9回は2安打目を放って出塁し、ダメ押しのホームを踏んでいる。72歳の伊藤 周作監督の1年生起用がピタリと当たった。
その後、高野山は、3回戦で桐蔭に9回サヨナラ負けを喫して夏は終わったが、今秋からの新チームには、その粘りはしっかりと引き継がれている。初戦では延長タイブレークの末に勝利、2回戦では8回に逆転して勝利した。3回戦で敗れたが準優勝した田辺に2対5の接戦を演じた。一方、智辯和歌山は、その田辺に準決勝で逆転負けを喫し、来年春のセンバツも絶望的となっている。
快挙を経験した高野山のスタメンに、3年生は2人しかいなかった。快投を演じた酒井をはじめ、残り7人のメンバーが、来年こそ「主役」に躍り出ることを期待したい。

<全国高校野球選手権:高野山4-2智辯和歌山>◇2023年7月15日◇2回戦◇紀三井寺球場
高野山スタメン
(二)浅田 崇人(2年)
(右)寺内 大翔(2年)
(捕)関戸 凌羽(3年)
(投)酒井 爽(2年)
(遊)太田 一旗(2年)
(中)鴨島 輝汰(2年)
(一)小川 龍輝(3年)
(三)長谷川 準泰(1年)
(左)安蘇 絢太(2年)

智辯和歌山スタメン
(左)多田羅 浩大(3年)
(遊)小畑 虎之介(3年)
(中)濱口 凌輔(3年)
(右)青山 達史(3年)
(一)中塚 遥翔(3年)
(二)湯浅 孝介(3年)※東海大進学予定
(三)松嶋 祥斗(2年)
(投)吉川 泰地(3年)
(捕)上田 潤一郎(2年)

この記事の執筆者: 浦田 由紀夫

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