Column

初戦でコールド負け寸前からの日本一! 星稜が本命不在の大会で見せた「成長力」<明治神宮大会総括>

2023.11.23


佐宗翼(星稜)

絶対的な優勝候補が不在の神宮大会は、予想以上に波乱含みだった。
2年連続で優勝の大阪桐蔭、準優勝の広陵が軸になるとしながらも、両校を優勝候補に推す声は例年に比べて力強さを欠いていた。

「こりゃ、コールドかもしれんな」
12月並みの冬風が吹く11月15日、神宮大会初日の第2試合。星稜広陵の1回戦は、名門対決ながら一方的な展開になるかと思われた。先攻の広陵は初回、先頭打者・濱本遥大外野手が初球を振り抜いた左翼へのライナーは捕球ミスを誘い、二番・田村夏芽外野手のバントの構えからの遊撃ゴロは野選となる。続く三番・土居湊大内野手は投球がすっぽ抜ける死球で無死満塁。

星稜ベンチは伝令を送ったものの、流れは止められない。4番・只石貫太捕手は初球のストレートをフルスイングし、打球は弾丸ライナーで左翼を越えていった。走者一掃の二塁打で、早くも3点を先制。星稜は、打者を抑えながら一つのアウトもとれていない。三塁側で観戦していると、こんな声が聞こえるのも当然のように思えた。

星稜先発の佐宗翼投手は立ち直り後続を断ったが、初回の先制攻撃は重くのしかかる。広陵の先発は今春のセンバツでチームをベスト4に導いた髙尾響投手。調子を落とし気味とはいえ、今大会注目の右腕だ。星稜は1、2回と抑え込まれた。

しかし、星稜は3回、先頭打者を安打で出すと髙尾のバント処理の失策と連打で5対3と逆転。広陵の11安打に対し星稜は6安打にもかかわらず、終盤の反撃をしのぎ7対6で辛勝した。佐宗は先制二塁打を打たれた只石に対して、その後も走者を抱えながらの投球となったが、変化球で入りながら打ち気をそらし封じた。

そして17日、近畿大会3連覇、大会2連覇の大阪桐蔭が登場。140キロ超右腕4人を抱える大阪桐蔭は、関東一に序盤からリードを奪われ、中盤追いすがるも5失策が響き、5対9で初戦敗退した。「足りないところが露呈しましたね。総括して鍛え直さないといけない」と大阪桐蔭の西谷浩一監督は、チームの現状を分析した。

大阪桐蔭を破った関東一は、準決勝で作新学院の江川二世と評判が高い小川哲平投手のリリーフの前に6対8と敗退。星稜は、準々決勝でダークホースと目されていた青森山田に3対2で競り勝ち、準決勝では豊川に15対3と圧勝。星稜は決勝に駒を進め、作新学院との対決となった。

試合は、作新学院・小川、星稜・佐宗と両エースが先発。大会を通じて安定した投球を続ける小川と、コーナーを突く佐宗の投げ合いで0対0の緊迫戦となった。ともに3回まで1安打ピッチングが続く中、先制したのは星稜だった。

4回表に3、4番が打ち取られた後、服部航内野手が右翼席に本塁打を打ち込む。これまで相手野手の間を抜く打撃が多かったチームにとって、値千金の先取点となった。星稜は6回に追いつかれながら、小川から継投に入った作新学院に襲い掛かる。
8回に一死二、三塁とし、3番・芦硲 晃太外野手のタイムリー右前打で2点を勝ち越し、そのまま逃げ切った。

佐宗は、9回1失点完投勝利。星稜はあの松井秀喜を擁した1991年以来、32年ぶり3回目の優勝を果たした。広陵との初戦の初回、「コールド負けやな」と揶揄された投手は、決勝で強打の作新学院を6安打に抑え優勝投手になっていた。
松井を擁して優勝した山下智茂監督を引き継いだ息子の智将監督は、「全国の舞台で4試合できて大会に入る前とあとで違うチームになった」と語った。
文=合馬 龍一郎

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.07.26

新潟産大附が歓喜の甲子園初出場!帝京長岡・プロ注目右腕攻略に成功【2024夏の甲子園】

2024.07.27

昨夏甲子園4強・神村学園が連覇かけ鹿児島決勝に挑む!樟南は21度目の甲子園狙う【全国実力校・27日の試合予定】

2024.07.26

名将の夏終わる...春日部共栄・本多監督の最後の夏はベスト4で敗れる【2024夏の甲子園】

2024.07.26

報徳学園が3点差をひっくり返す!サヨナラ勝ちで春夏連続甲子園に王手!【2024夏の甲子園】

2024.07.26

「岐阜県のレベルが上がっている」県岐商が2年ぶりの決勝進出も、岐阜各務野の戦いぶりを名将・鍛治舎監督が称賛!【24年夏・岐阜大会】

2024.07.25

まさかの7回コールドで敗戦...滋賀大会6連覇を目指した近江が準決勝で涙【2024夏の甲子園】

2024.07.24

享栄、愛工大名電を破った名古屋たちばなの快進撃は準々決勝で終わる...名門・中京大中京に屈する

2024.07.21

【中国地区ベスト8以上進出校 7・20】米子松蔭が4強、岡山、島根、山口では続々と8強に名乗り、岡山の創志学園は敗退【2024夏の甲子園】

2024.07.21

愛工大名電が今夏3度目のコールド勝ちでV4に前進!長野では甲子園出場37回の名門が敗退【東海・北信越実力校20日の試合結果】

2024.07.21

名将・門馬監督率いる創志学園が3回戦で完敗…2連覇狙う履正社は快勝【近畿・中国実力校20日の試合結果】

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.07.08

令和の高校野球の象徴?!SJBで都立江戸川は東東京大会の上位進出を狙う

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.27

高知・土佐高校に大型サイド右腕現る! 186cm酒井晶央が35年ぶりに名門を聖地へ導く!

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」