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ランニング障害を未然に防ぐために【セルフコンディションニングお役立ち情報】

2023.11.15


こんにちは、アスレティックトレーナーの西村典子です。

オフシーズンが近づき、多くのチームでは技術練習と並行してトレーニングやランニングを行っていることと思います。この時期は「技術力のアップ」と同時に「体づくり」にも取り組むために、トータルの運動(練習)量が多くなる傾向にあり、体力レベルを超えて疲労回復が間に合わなくなるとケガにつながることもあるので注意が必要です。今回はランニングの機会が増えることによって起こるランニング障害を未然に防ぐために、選手自身が取り組めることについてお話をしたいと思います。

ランニング障害は運動器のオーバーユースによって起こる

ランニング障害とは

ランニング障害とは文字どおり「ランニング(走ること)」によって関節や筋肉、腱などの運動器に繰り返し負荷が加わり、疲労が蓄積されてさまざまな不具合が生じること、ランニングによって引き起こされるケガのことを指します。ランニングは歩く動作とは違って脚が地面についている立脚期(りっきゃくき)と、脚が宙に浮いている遊脚期(ゆうきゃくき)が交互に繰り返されます。そのため、着地の時には地面から受ける床反力は体重の2~4倍に達するとも言われており、膝や足首など下肢には大きな負荷が繰り返しかかることになります。

ランニング障害の多くは運動器の使い過ぎ(オーバーユース)によって起こると考えられています。代表的なものとして脛(すね)の前側が痛くなるシンスプリント、膝の外側が痛くなる腸脛靱帯炎(ちょうけいじんたいえん:通称ランナーズ・ニー)、脛や足の甲部分などによく見られる疲労骨折、アキレス腱の炎症、足底部に痛みを伴う足底腱膜炎(そくていけんまくえん)などが挙げられます。この他にもランニング量や強度が増えることで腰痛や股関節痛が見られることもあります。こうしたランニング障害を引き起こす要因として、個人の持つ身体的要因、路面やシューズといった環境要因、そしてランニング量や強度によるトレーニング要因があり、これらの要因を一つ一つ見直していくことがランニング障害予防につながると考えられます。

片足着地の衝撃に耐えうる下肢筋力があるか?

ランニング時の足の動きを考えると、足が宙に浮いている遊脚期から地面に着地する際には下肢に大きな衝撃が加わることがわかっています。繰り返される衝撃に対し、その負荷を受け止めて支えるだけの下肢筋力が必要となってきます。もちろんスクワットやカーフレイズといったエクササイズを用いて筋力アップをはかることは当然行わなければならないものですが、特に片足の状態で体を支えて維持できるだけの筋力・筋持久力を養うことが求められます。片足で行うシングルレッグスクワット、前後・左右へのランジ動作など、片足に荷重をかけながら行うエクササイズを取り入れて強化していくことも合わせて行いましょう。また片足でも安定して体を保つことができるかどうか、片足・閉眼状態でのバランスチェックなども参考になります。片足を上げた状態でふらついたりしないか、左右差なども含めてチェックしてみましょう。

手と足指を組み合わせた状態でゆっくりと足首を回す

足首の背屈動作を可能にする柔軟性

ランニングの着地時には、足首が背屈(はいくつ:足指が自分の方に引き寄せる動作)しながら、下腿三頭筋(かたいさんとうきん:ふくらはぎの筋肉)が伸ばされることで着地時の衝撃を和らげています。この時に、下腿三頭筋の柔軟性が低下していると、膝や足首にかかる負荷は大きくなります。ランニングを行う前のウォームアップや、普段のセルフコンディショニングとして足首の動きをよくするためのエクササイズ(足首の前後動作や手と足指とを組み合わせて足首をまわす等)や、下腿三頭筋のストレッチ(膝を伸ばして行うパターンと膝を曲げて行うパターンの2種類)を行う習慣をつけましょう。もともと足首が硬いと感じている人は、入浴時に浴槽内で正座をすると脛の前側の筋肉が伸ばされるため、足首の動きそのものの改善にもつながります。

ランニングフォームの安定につながる体幹

ランニング障害を引き起こす一因に、ランニングフォームが挙げられます。たとえば体に負担の少ないフォームで走っていたとしても、ランニング量や強度が個人の持つ体力レベルを超えてくると、ランニングフォームに少しずつ変化が生じ、体幹の回旋や側屈、骨盤の後傾など体幹筋力の弱さから体がブレてしまうようになります。こうした走り方はランニング効率が悪いだけではなく、結果的に膝や脛、足首などに大きな負担をかけることになります。体幹のブレによる「ねじれ」の動きがランニング障害にもつながると考えられるため、同じ動作を繰り返しても安定した体幹を維持できるだけの筋力・筋持久力を養うようにしましょう。たとえばスタビリティトレーニングとして体を支えて維持するプランクなどは、筋持久力の強化につながるエクササイズの一つです。

ランニング障害を引き起こす要因は今回挙げたものにとどまらず、さまざまありますが、身体的な要因で、かつ自分自身で取り組むことができるものを中心に紹介しました。オーバーユースをなるべく避け、練習後のクールダウンやセルフコンディショニングなどを実践しながら、ケガ予防とパフォーマンスアップの両立を目指しましょう。

参考資料)運動器疾患とスポーツ外傷・障害(ランニング障害・前編) 日本スポーツ整形外科学会

【ランニング障害を未然に防ぐために】
●ランニング障害とはランニングによって繰り返される負荷や、疲労の蓄積などによって起こるケガのこと
●ランニング障害の多くは運動器の使い過ぎ(オーバーユース)によって起こる
●着地時に地面から受ける床反力は体重の2~4倍に達し、下肢には大きな負荷が繰り返しかかる
●片足着地の衝撃に耐えられるだけの下肢筋力を鍛えよう
●ふくらはぎの筋肉の柔軟性を高め、足首の背屈動作をスムーズに行えるようにしよう
●ランニング動作で安定したフォームを保つためには体幹の強化が必要

文:西村 典子
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この記事の執筆者: 西村 典子

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