【東東京】準決勝 共栄学園 vs 岩倉
まさかの落球で共栄学園が奇跡の逆転サヨナラ!主将・横田執念の走塁が勝利を呼ぶ
<第105回全国高校野球選手権東東京大会:共栄学園5ー4岩倉>◇28日◇準決勝◇神宮
野球の怖さをまざまざと感じた試合だった。そして野球選手が教訓とすべきことを残した試合でもある。
岩倉と共栄学園の一戦は、7回までと8回、9回は全く別の試合と言っていいほど、異なる展開になった。1回から7回までは岩倉の大野 巧成投手(3年)と共栄学園の茂呂 潤乃介投手(3年)の息詰まる投手戦になった。
共栄学園は2回に6番・早川 飛翔外野手(2年)の二塁打があり、4回に岩倉は内野安打が2本続いた。それでも得点が入る気配は全くなかった。共栄学園の原田健輔監督は、岩倉の大野投手について「いままで当たったピッチャーでナンバーワンと言っていいくらいです。打てないと思いました」と語る。
7回が終わって両チームの安打は2本ずつ。緊迫の投手戦はタイブレークも視野に入れながら、8回表を迎える。この回先頭打者、岩倉の8番・浅沼 奏吾外野手(3年)が四球を選び、9番・赤星 幸弥外野手(3年)の犠打で二塁に進み、1番・川上 智史内野手(3年)の内野安打で一死一、三塁となる。一塁走者の川上は捕手の送球を誘うようにゆっくりと二塁に進むが、ダブルスチール狙いの走塁にひっかからない。ここで2番・高橋 梁内野手(2年)がスクイズ。三塁走者の浅沼だけでなく二塁走者の川上も生還するツーランスクイズになり、岩倉が2点を先制する。点の入り方も劇的なだけに、これで勝負あったかと思われた。
その裏、共栄学園はこの回先頭の代打・渡邊 修(3年)が死球で出塁し、続く6番・早川の遊ゴロを岩倉の遊撃手・島﨑 裕嵩内野手(2年)の失策で一、二塁。続く7番・茂呂は一ゴロ。これを岩倉の一塁手の川上が三塁に悪送球。二塁走者が本塁に還り、1点差となる。2死後1番・笹本 裕樹内野手(3年)の遊ゴロを岩倉の遊撃手が取り損ない同点に追いつく。
守備の乱れで同点に追いつかれた岩倉だが、9回表2死一塁から7番・小林 莉久外野手(2年)が右前安打を放ち、一、三塁。小林が二盗して二、三塁とし、8番・浅沼 奏吾外野手(3年)の中前安打で2人が生還し、再度2点差とする。
今度こそ勝負は決まったかと思われた。9回裏も2死一塁。ここで好投している8番の茂呂が執念の左前安打で出塁する。ここで打席は8番で主将の横田 優生内野手(3年)。やや打撃不振で8番にいるが、本来は3番を打つ打者だ。横田は中堅手の前で大きく弾む打球を打つ。単打かと思われたが、「センターの動きが見えたので、これはいけると思いました」と言う横田は、二塁にヘッドスライディングして二塁打にした。これで1人生還して1点差となる。これがドラマの伏線になった。なおも2死二、三塁で続く途中出場の齋藤 開心内野手(3年)は粘ったが、最後は三飛を上げてしまう。共栄学園の原田健輔監督は、「終わったと思いました」と語る。二塁走者の横田も「あっ」と心の中で思い、負けも覚悟したが、足は動いて全力で本塁に向かっていた。そして岩倉の三塁手が落球(記録は三塁内野安打)し、三塁走者の茂呂に続き、横田も一気にホームイン。共栄学園が逆転サヨナラで初の決勝進出を決めた。
岩倉の選手はその場で泣き崩れる。岩倉の豊田浩之監督は、「結果として何が足りなかったのか。普通ではないプレッシャーがかかったように思います」と語る。
昨年秋、共栄学園は1次予選の初戦で敗れた。そこから厳しいトレーニングの日々が続いた。原田監督は、「生徒たちに苦しい思いをさせてきた。積み重ねてきたことが、こんな形で返してくれた」と言いながら声を詰まらせた。この勢いを、次にどうつなげるか。そこが決勝戦の勝敗の行方にも影響しそうだ。
最後は思わぬ形で敗れたが、今年の東東京大会を盛り上げたのは間違いなく岩倉の大野だった。試合終了後のあいさつで、大野は共栄学園の横田主将に、「頑張ってくれよ」と声をかけ、横田主将は「ありがとうございます」と答えたという。「あんな状況でも声をかけてくれて、すごい人だと思いました」と横田主将は言う。30日の決勝戦は岩倉の選手の思いも受けて戦うことになる。