Interview

早実エース→早大アメフト部→独立リーグ入団 常識外れな挑戦のルーツは? vol.1

2022.01.09

 エンゼルス・大谷 翔平投手(花巻東出身)のMVP獲得の影響で、二刀流がこれまで以上に注目を集める時代となってきたが、他競技との二刀流、マルチスポーツの経験者として、プロの世界へ挑もうとしている選手がいる。

 最速150キロを誇る吉村 優投手。早稲田実業時代は中学軟式出身ながら、エースとして最後の夏はベスト8進出を果たした。早稲田大進学後は、野球から離れ、米式蹴球部に入り、アメリカンフットボールの世界へ進む。一からのスタートだったが、3年生からは主力選手として活躍。全国の舞台も経験した。そして2021年からは再び野球の道に戻り、2022年からは独立リーグの徳島インディゴソックスへ入団する予定でいる。

 高校、大学ともに華々しくスタートを切ったわけではない。それでも、地道な努力を通じて大舞台で活躍した。吉村投手が取り組んできた努力の仕方、積み重ね方は、厳しい練習に打ち込む現在の球児にも学べるところもあるはずだ。

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早稲田実業で「エースナンバーをつけて全国制覇する」

早実エース→早大アメフト部→独立リーグ入団 常識外れな挑戦のルーツは? vol.1 | 高校野球ドットコム
徳島インディゴソックスからNPB入りを目指す吉村優

 野球界へ足を踏み入れたのは、早稲田実業の偉大な先輩の姿が始まりだ。

「小学2年生の時、斎藤 佑樹さんが甲子園で優勝しました。それを見て、『早稲田実業に入学して、全国制覇をするんだ』と思って、4年生からはクラブチームへ入りました」

 友達のいたクラブチームで楽しく野球をやっていたが、6年生に進学したと同時に1度野球から離れる。中学受験をするために、小学校最後の1年は勉強に集中する時期になった。

 周りの友達が遊んでいる中、自分は受験勉強のために塾へ行く。「ストレスはありました」と苦笑いをしながらも、我慢できたわけをこう語る。

早稲田実業で全国制覇するんだ。エースナンバーをつけて、斎藤 佑樹さんと同じ景色を見たいと思って、何が何でもやるつもりでやっていました」

 その一心で苦しい受験勉強を乗り越えて、晴れて早稲田実業の中等部に合格。軟式野球部に入部し、「1年間のブランクもありましたので、とにかく3年間楽しんでやりました」と様々なポジションを経験しながら3年間を過ごした。

 そして、いよいよ高等部へ進学する際、吉村投手はあることを知った。

「その世代の戦力によって違うとは思いますが、中学の軟式から硬式へ進んでも、ベンチ入りするのが2人くらいだったんです」

 試合に出るどころか、ベンチすら難しい。厳しい現実を知った吉村投手は考えた。「中学生の時に硬式球に慣れておこう」と。そこで知り合いに相談していき、八王子ボーイズへ入部させてもらった。

 そんな八王子ボーイズで、出会った河合雄也氏の存在が人生を大きく変えた。

[page_break:2つの視点をもって目標を立てる大切さ]

2つの視点をもって目標を立てる大切さ

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高校時代の吉村優(早稲田実業)

「人生を振り返っていく中で早稲田実業に進学したわけを聞かれたときに、『エースになって全国制覇するんだ』ということを再認識しました。そのうえでベンチ入りすら難しい現実があるから、『計画を立ててやらないといけないぞ』ということになり、目標を明確に立て始めました」

 最終ゴールは3年生夏にエースで全国制覇。そこに基づいて2年生までにはどうなるべきか。考えられる大会、予定をすべてかき出し、その予定ごとにどんな選手になるのか。1つ1つ決めていき、そのうえで現時点やるべきことは何か。高校入学まで残された日数を確認し、毎月、毎週のテーマを決めて実行。できる限り細分化した目標をもって高校への準備を進めていった。そのとき大事にしたのは「2つの目標」を立てることだ。

「明確な数字や結果など、定量面の目標を書き出すことは大事ですし、そこにフォーカスしがちですが、それは相手に依存する部分です。相手によって変わってくるところなので、自分ではコントロールできません。だから、自分が仲間からどう見られているかなど、自分でコントロールできる部分、定性面の目標も作るようにしていきました」

 河合コーチの指導を受けながら1つずつ目標を決め、練習も着実に積み重ねてきた。「引き出してもらった要素を、繋げてもらった」と中学時代を振り返る。そしていよいよ高校野球が始まった。

[page_break:チャンスをもらえるようにアピール]

チャンスをもらえるようにアピール

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最近のノート

 八王子ボーイズでの練習を経て、硬式球に十分慣れた吉村は「自信はなかったですが、スタートラインには立てたと思っています」と中学時代に懸念していた課題はクリアになっていた。

 次は試合に出場することだ。当初の予定では秋季大会でベンチ、試合出場のチャンスと捉え、当時の3年生がいる間は、「自分の技術を磨こう」と心に決めていた。

 しかし、スポーツ推薦で入学してくる仲間たちが多く、何かしなければプレーでアピールするどころか、監督に覚えてもらうこともできない。ふとした時に使ってもらえるようにするには、何かやらなければならなかった。

 そこで「頭に焼き付ける行動をしていきました」と、ダイヤモンドの外、グラウンドの外での行動を大事にしてきた。

「とにかく監督の近くにいようと思って、ノックの時にはボール渡しをしていました。あとは試合の際、監督室の近くにアナウンス室や記録室があったので、積極的に仕事をやって、まずは覚えてもらおうとしました」

 中等部の軟式からベンチに入るのは2人ほど。それだけ周りに比べると見劣りする立ち位置からスタートしたからこそ、「日常生活からアピールは始まっている」と言い聞かせ、些細なところからアピールしてきた。

 すべては自身が目指す、「エースで全国制覇」のために。チャンスをもらってから頑張るのではなく、チャンスをもらえるように頑張る。当時は「同じ失敗を繰り返さない」と定性面を中心に目標を立て、淡々とベンチ入りに向けてグラウンドの中でも外でも監督へ必死のアピールを続けた。

 すると、武器だった制球力の高さで徐々に登板機会を増やしていき、2年生春ごろにはベンチ入りの当落線上まで浮上。そして「想定よりも早かった」と驚きもあったベンチ入りが2年生の夏にやってきた。

(取材:田中 裕毅

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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