智辯和歌山vs智辯学園
智辯和歌山エース中西と中谷監督の絆でつかんだ栄冠、前川プロへ「次に活かしたい」
優勝を喜ぶ智辯和歌山の選手たち
◆序盤の攻防で流れが決まる
智辯学園と智辯和歌山。史上初となる「智辯」対決による決勝戦が29日に行われることとなったが、この試合も大事になったのは序盤の試合展開だ。
まず智辯和歌山側から考えると、準決勝まで3試合すべてで、序盤3回までに点数を奪う試合展開を見せてきた。決勝でも同様の試合展開を繰り広げ、これまで通りの智辯和歌山ペースで優勝への道を切り開きたい。
智辯学園側は、準決勝で温存できた西村 王雅をマウンドに送りだした。とはいえ疲労がどれだけ取れているかわからない。継投も視野に入れての戦いになることを考えれば、投手中心に粘り強い守備で強力打線に繋げていきたい。
序盤の攻防が鍵を握る「智辯」対決は、想定した通り、初回から動くことになった。
◆エースの好リリーフが試合を変えた
初回、先攻の智辯和歌山が1番・宮坂 厚希のヒットからきっかけを作ると、2番・大仲 勝海も連打で繋いだ。いきなり智辯学園・西村に襲い掛かると、4番・徳丸 天晴の犠牲フライで智辯和歌山に1点が入った。
さらに6番・渡部 海と7番・髙嶋 奨哉にもタイムリーが生まれ、4対0と智辯和歌山としてはこれ以上ない幸先よいスタートを切った。
決勝の大一番で智辯和歌山は伊藤 大稀をマウンドに上げると、初回こそ無失点に抑えたが、2回に6番・植垣 洸と8番・谷口 綜大にタイムリーを許し、2点を失った。
4回にもランナーを背負う苦しい展開となったところで、エース・中西 聖輝がマウンドに上がる。一死二、三塁だったが、中西は二者連続三振に斬って取り、1点も与えることなく0点で切り抜けた。
すると6回から流れが変わった。
相手のエラーなどでチャンスを作った智辯和歌山。ここで1番・宮坂がタイムリーを放ち中押しに成功。5対2と智辯学園を突き放した。
その後は、一気に流れを掴み智辯学園2番手・小畠 一心から毎回得点で点数を重ね続けた。智辯学園を少しずつ突き放していき、9対2で9回裏へ入る。
リリーフ登板の中西は9回もマウンドに上がり、智辯学園を三者凡退。9回16安打9得点の攻撃で優位を保った智辯和歌山が21年ぶり3度目の栄冠を手にした。
[page_break:勝負所でも発揮した制球力の高さ]◆勝負所でも発揮した制球力の高さ
試合のポイントをとなったのは中西の4回からの好リリーフだっただろう。
2点差に詰め寄られたなかで迎えた4回、一死二、三塁と先発の伊藤はピンチを招いた。そんな厳しい場面で中西がマウンドに上がったわけだが、今大会から光っていたどの球種でもカウントを取れる制球力が大きかった。
一死二、三塁の場面で、智辯学園6番・植垣 洸を2球で追い込むと、外角高めに真っすぐが外れるが、最後は高低を活かしながら、得意の低めのフォークボールで空振り三振に抑えて、二死まで来た。
続く7番・中陳 六斗は3ボール1ストライクと中西不利なカウントだったが、アウトローへの140キロのストレートでフルカウントにすると、ここも最後はフォークボールで空振り三振。5球目に投じたストレートとほぼ同じコース高さにフォークを投じて、中陳から空振りを奪った。
先発した初戦の高松商戦、準決勝・近江戦でも発揮した制球力の高さを、決勝戦最大の山場といってもいいところで、最大限に発揮した。
エースにふさわしい好投を見せた中西が優勝の決まる最後の瞬間までマウンドにい続けた理由も納得できる投球内容だった。
◆投球術もメンタルもエースにふさわしくなった
エースにふさわしい投球を見せた中西は「ブルペンからベンチを見た際に監督と目が合い、『頼むぞ』と言っているような目線を感じて、マウンドに行きました」と中谷監督からの信頼の眼差しを受け止めてマウンドへ向かった。
ピンチの場面だったが、「慌てると野手に心配かけるので、心は燃やしながら堂々と投げるようにしました」とまずは気持ちでピンチの場面を乗り切ったようだ。
しかし、ここには甲子園での経験が関係していた。
「初戦の高松商との試合で、あとアウト1つ取れずに降板した後に、監督に厳しく叱られたんです。その時に、チームのために投げるのがエースなんだと再確認できたことで、今日の結果だったと思います」
中谷監督もエースの精神的な成長を感じ取っていた。
「本当は甘えん坊なところがあったんです。ですが、県予選から含めて1試合ごとに人間性も投球内容も良くなりました。準決勝の試合を見て心から任せられるエースになりました」
今日もピンチの場面だったが、「今の中西 聖輝なら任せられる」と中谷監督は自信を持って送り出したそうだ。甲子園のみならず、地方大会から成長し続けたエースの奮闘が、智辯和歌山に21年ぶりの栄冠をもたらしたのだった。
[page_break:世代No.1スラッガーは高卒プロへ]◆世代No.1スラッガーは高卒プロへ
初の決勝の舞台まで駆け上がったが、兄弟校・智辯和歌山の前に優勝を阻まれた智辯学園。小坂監督は「初回に浮いたボールを叩かれた4失点が痛かったですし、6回のエラーによる1点も余計だったと思います」と試合を振り返った。
この4失点によって、「流れ、試合の主導権も握れなかったので思うように試合ができませんでした」と小坂監督の中でのダメージは大きかった。
ただこの世代は新チーム結成時より、「日本一を目指してきたので、選抜での負けから成長して、結果的に日本一になれませんでしたが、よくやったと思います」と労いの言葉を贈った。
世代No.1スラッガー・前川の目には涙がなかったが、「日本一を掲げてきたことは無駄ではなかったので、負けましたが今日まで頑張ってきたので、次に活かせればと思っています」と次のステージ、目標である高卒プロに向けて前川は前を向いていた。
そんな前川は1年生から起用してくれた小坂監督への感謝の思いを語った。
「入学してすぐに試合に使ってもらって、打てない時もずっと心にしみる声をかけてくださりました。監督の指導があってここまでこられたと思っています」
世代NO.1スラッガーの最後の試合は4打数3安打。打点はなかったが、3年間の成長を見せられたのではないだろうか。
◆今大会を次の100年に繋がるものに
これで2021年世代の高校野球が全て終わった。
未だ続く新型コロナウイルスの脅威に加えて、例のない季節外れの長雨で、異例の大会だったが、何とかやり切れたと言うことは、後世の高校野球界の財産ではないだろうか。
ただ今大会は宮崎商、東北学院の参加辞退など次への課題も出てきた大会だったはずだ。また、未だ続く感染拡大による練習の制限など、高校野球100年へ繋げるためにも、高校野球界のやるべきことは多い。
次の選抜、そして夏の甲子園も、より良い大会となるように。そして事態の収束が進むことを願いたい。
(記事:田中 裕毅)