選抜の裏側に迫る!習志野の投手事情
東邦の優勝で幕を閉じた第91回選抜高等学校野球大会の振り返り。
今回は準優勝の習志野の投手起用と、チーム事情に着目してみたいと思います。まずはこちらの表をご覧ください。
今大会の習志野は秋までと同様、エースの飯塚脩人投手を全試合リリーフで起用しました。
先発は1回戦と準決勝、決勝の3試合が左腕の山内翔太投手。2回戦と準々決勝は右アンダースローの岩沢知幸投手です。
1回戦と2回戦の先発投手起用は予定通りだったと言えるでしょう。
ただ準々決勝は岩沢投手が1回で降板し、2回戦と同じく飯塚投手がロングリリーフとなりました。試合を見ながらふと疑問がわいてきました。『2回という早いイニングを考えれば、なぜ二番手に山内投手を使わないのか???』
色々考えるうちに、ある仮説にたどりつきました。『ひょっとすると、山内投手をマウンドに上げることはできない状況にあるのかもしれない』
チームには2回戦の星稜戦でアクシデントが起こっています。3番打者でセンターの根本翔吾選手が足に死球を受けていました。
試合途中で病院に向かった根本選手のかわりに、この試合ではライトでスタメン出場していた山内投手がセンターにまわりました。そして、根本選手が欠場した準々決勝でも、山内投手はセンターでフル出場。
『結果として、二番手で使えるのは、ロングリリーフを承知で、飯塚投手しかいなかったのではないか』
準決勝まで勝ち進んだ習志野。幸い打撲で済んだ根本選手が日に日に回復し、休養日の練習をほぼこなせる状況になりました。そして、準決勝の先発は山内投手で、根本選手はセンターで復帰します。
準決勝の試合前取材で私は小林徹監督に、根本選手の状態とともに、「ここ2試合は根本選手のアクシデントで、山内投手をセンターで起用せざるを得なかったのではないでしょうか」と、仮説のことを聞いてみました。
小林監督は、「根本は一昨日より昨日、そして昨日より今日と良くなっている。違和感はあるが、痛みはないと言っています」と話した後、仮説についてこう答えてくれました。「おっしゃる通りです。限られた戦力の中で、そうしてきた。(根本の復帰で)違う形もとれるかなと思います」。
小林監督の話を聞くと、根本選手が使えない以上、センターの一番手は山内投手ということが読みとれるのではないでしょうか。
アクシデントに関しては、選手たちが一生懸命やった結果なので仕方ありません。根本選手は不幸中の幸いにして、打撲で済んだ。準決勝でダブルスチールを決めるなど、その後は見てのとおりの活躍でした。
ここで言いたいのは、昨今話題になっている投手への負担という部分で、今回の習志野のようなケースもあるということです。
結果として、投手は誰一人ケガをしていないのに、他の選手のアクシデントで計算できる投手が3人から2人になってしまった。こういうことも、野球にはあるのです。
複数投手制を確立できているチームでも、計算できる投手が2人なのか3人なのかでは選手やベンチの気持ちの持ち方がかなり変わると思います。
無事に復帰できたので、あえて、たらればの話をしますが、もし根本選手の復帰がもう少し時間がかかっていたとしたら・・・準決勝の起用法は少し変わったものになっていたのかもしれません。
今月スタートする投手の障害予防に関する有識者会議では、投手に限らず、試合の中で野手に何かあった場合まで踏み込んで議論していただきたいと願いたいです。
(文=松倉雄太)