主動筋と拮抗筋を知る
野球の動作を観察し、主動筋と拮抗筋の役割を理解しておこう。
筋肉は筋線維が短くなる「収縮」と筋線維が伸びる「伸張」を繰り返しながら力を発揮します。トレーニングを行うときにもメインとなる筋肉は収縮し、ギュッと縮まりますが、一方でその裏側にある筋肉は引き伸ばされながらその動きをサポートしています。このメインとなる筋肉のことを主動筋と呼び、その反対側の動きを行う筋肉を拮抗筋(きっこうきん)と呼びます。肩の筋肉である三角筋など、拮抗筋が特定できない筋肉もありますが、大半の筋肉には骨や関節をまたいで拮抗筋が存在します。拮抗筋の役割を知っておくと、トレーニングを行うときはもちろん、野球の動作を考える上でも非常に参考になります。代表的な主動筋と拮抗筋の組み合わせをご紹介しましょう。
●上腕二頭筋と上腕三頭筋
上腕二頭筋(前側)と上腕三頭筋(後側)はとてもわかりやすい組み合わせです。たとえばアームカールのように上腕二頭筋を収縮させると、裏側にある上腕三頭筋は伸びながら力を発揮しています。投球動作ではボールをリリースするときに腕が前方に投げ出されないように上腕三頭筋は伸びながらブレーキをかけるように力を発揮し、前側に位置する上腕二頭筋は収縮します。毎回この動作を繰り返すので、筋バランスを整えるためには上腕三頭筋を収縮させるようなトレーニングがより必要となります。
●大胸筋(胸)と広背筋(背中)
ベンチプレスの動作を行うと胸の筋肉である大胸筋が収縮し、背中にある広背筋はそれに対抗して伸張します。投球動作においてもボールリリースからフォロースルーにいたるまで大胸筋は収縮し、広背筋は伸張します。このため大胸筋は縮む動作が多くなり、柔軟性が低下してしまうと肩が前方へと丸まった状態をつくりやすくなります。このためトレーニングでは大胸筋を伸ばすように、拮抗筋である広背筋のトレーニングをより多く行うようにします。「投手にベンチプレスが不必要である」といわれるゆえんはこのあたりにあるのかもしれません。もちろん筋バランスを考慮した上で、適切なフォームを維持しながらトレーニングを行うことは問題ないと考えられます。
●大腿四頭筋(太ももの前)とハムストリングス(太ももの裏)
太ももの前側にある大腿四頭筋と太ももの裏側にあるハムストリングスもわかりやすい組み合わせです。特に大腿四頭筋はハムストリングスに比べて筋力が大きく、この差が2:1以上に開いてしまう(ハムストリングスが大腿四頭筋の50%以下の筋力)とハムストリングスの肉離れを起こしやすいといわれています。柔軟性を高めるとともにハムストリングスのトレーニングはしっかりと行っておきましょう。
文:西村 典子
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