試合レポート

八王子vs早稲田実業

2016.07.23

八王子、組織で早稲田実業を翻弄!チャンスをモノにし準決勝へ!

 西東京大会準々決勝、2回戦は東京八王子と早稲田実業の対戦。
互いにこの夏[stadium]ダイワハウススタジアム八王子[/stadium]を主戦場として戦ってきた。5回戦、4回戦は日程も同じで、戦い方はその目でしっかり見てきたかもしれない。

 東京八王子・早乙女 大輝早稲田実業吉村 優というエース対決で始まった試合、序盤はチャンスのつぶし合いとなる。
1回表、早稲田実業は1番・金子 銀佑が当たり前のようにヒットで出塁すると、2番・橘内 俊治がきっちり送りバントを決め一死二塁で清宮 幸太郎へ。この夏幾度となく繰り返されてきた光景だ。だがここで東京八王子バッテリーは落ち着いて一つ呼吸を置く。そして、外へと構える細野 悠のミット目掛け、低めながら外し気味に投げる早乙女。ほぼ敬遠と言っていい四球に球場からは高校野球とは思えないようなヤジが飛ぶ。それでも顔をあげ次なる強打者、4番・野村 大樹と対峙。ショートゴロに打ち取ると、続く工藤 航輔を三振に切って取る。清宮を乗せてしまえば、チームはおろか球場も早稲田実業側に一気についてしまう。であれば、ここの四球は勝つためには自然なものだ。そうわかっていても出来ないのが普通だが、思えばこの場面で見せた東京八王子ナイン、そして早乙女の肝の強さが、東京八王子の勝利を予感させていたものだったかもしれない。

 東京八王子は攻撃でも初回から怯まない。1回、2回とチャンスを演出。2回裏は先頭の6番・川越 龍、7番・石塚 冬汰が連打で出塁。無死一三塁とチャンスを作る。8番・細野 悠はスクイズを試みるもこれは失敗。続く9番・早乙女がバントを成功させるも、二塁に到達したランナーが大きく飛び出してしまい、こちらもアウトに。バタバタとした攻撃というか粗削りにも程があるとも思えたが、選手やベンチの表情を見てみると、序盤だからOKという余裕のようなものすら伺えた。「何だか知らないけど勢いがある」そのアグレッシブさに早稲田実業ナインのほうに少々戸惑いが見えるようだった。球場も徐々に東京八王子の底知れなさに魅せられていく。

 それでも、先制したのは早稲田実業だった。
5回表、一死から1番・金子が四球で出塁。二死一塁となり、打順は清宮へ。3回表の2打席目はランナー無しで勝負し、ツーベースを打たれた。だからこそだろう、清宮は第1打席同様敬遠気味の四球で歩く。
またかと騒然となる神宮球場だが、東京八王子先発・早乙女は怯まない。清宮と勝負をしなかったことで自分が楽になるわけではないからだ。その証拠に、続く4番・野村は3球目をセンターオーバーの2点タイムリースリーベース。早稲田実業が先制に成功する。

 その裏、東京八王子は満を持して反撃に出る。先頭の8番・細野が死球で出塁し、9番・早乙女のバントをキャッチャーが悪送球。ノーヒットで二三塁のチャンスを得る。ここで5回の守備からサードに入った1番・加藤が冷静に四球を選び無死満塁となったところで早稲田実業はピッチャーを服部に交代。早稲田実業が慌てているとみるや、2番・竹中 裕貴は服部の代わり端を捉え、左中間を破る2点タイムリーツーベースを放ち一気に同点。さらにたたみかける東京八王子。続く3番・椎原 崚はレフトへタイムリーを放ち、逆転。さらに4番・保條 友義が犠牲フライ、6番・川越もタイムリーツーベースで続きこの回5点を奪う。
東京八王子は続く6回表の攻撃をゼロに抑えるとその裏、四死球や執念のポテンヒットでランナーを溜め押し出しの死球で貴重な1点を得る。


 7回を終了して6対2で東京八王子が勝っている。その事実に誰よりもプレッシャーを受けていたのは早稲田実業ナインだった。
8回表、4番・野村のツーベースと代打・清水 俊貴のヒットで無死一三塁とチャンスを得る。続く代打・渡部 貴大が犠牲フライを放ち1点を返す。だが、ここまでだった。いつもの早稲田実業であれば、たたみかける場面だったが、後続がライトフライ、ショートゴロに倒れ1点どまり。勝負所と見た早乙女の気迫に飲まれたようだ。

 それでも、最後まで怖さが途切れることが無いのが早稲田実業打線だ。6対3と東京八王子3点リードで迎えた9回表、先頭の代打・西田 燎太がライトへのヒットで出塁。1番・金子もヒットで続き、無死一二塁。ここで東京八王子はここまで好投の早乙女から米原 大地にスイッチ。この緊張感あふれる場面にも米原は堂々と立ち向かい、2番・橘内はショートゴロに抑え一死一三塁。そして、打順は清宮。一発出れば同点というこの大ピンチに東京八王子ナインはマウンドに集合。一呼吸置く。

 そして清宮は初球を振りぬく。大きな打球がライトへと飛び、あわや同点ホームランかと球場が沸いたが、あと一伸びが足りずライトがキャッチ。犠牲フライとなり1点を返す。
二死一塁、なおも一発出れば同点で打順はこちらも強打者・野村という場面だったが、球場は清宮の犠牲フライにざわついたまま。その隙を見て…ではないだろうが、冷静に素早くプレーを再開させた東京八王子ナイン。4番・野村が放った打球はサードへのゴロ。東京八王子サード・加藤がこれを丁寧にファーストへ送り、アウト。東京八王子が早稲田実業を下し、4強入りを果たした。

 昨今、早稲田実業と対戦する際は、「早稲田実業」というチーム自体から発せられる圧力はもちろん、超満員の球場とたくさんのカメラ、というおよそこれまで体験したことのない環境で戦うこととなる。だが東京八王子はホームである[stadium]ダイワハウススタジアム八王子[/stadium]と同様[stadium]神宮球場[/stadium]でも負けじとスタンドを埋め尽くし、大声援を送り続けてきた。
その盛り上げ方が絶妙で、ここ一番と見るや、ナインの活躍の前にその音量・声量を上げチームの奮起を促す。ピンチと見るやどっしりと構え、声にも動揺を決して出さない。その応援団の力もこの勝利に一役買っていたはずだ。球場全てが早稲田実業の勝利、活躍を望むという状況を作り出さなかった。
グラウンド、ベンチのメンバーはもちろん、スタンドも一体となっての勝負勘の鋭さは底知れぬパワーを生みだす。「ありんこ軍団」の強さは組織力にあるのだ。

(文=青木 有実子)

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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