試合レポート

春日部共栄vs上尾

2016.07.25

「試合を決めた初回の攻防」

 32年ぶりの甲子園を狙うBシード・上尾とCシード・春日部共栄との一戦、夏休み中の日曜日に埼玉の人気校同士の一戦ということも相まって、[stadium]埼玉県営大宮公園野球場[/stadium]と比べ、ややキャパの狭い[stadium]さいたま市営大宮球場[/stadium]は立ち見に入場規制、外野開放という展開になり、ある種異様な熱気を帯びていた(今後は大阪大会のようにカードによって球場変更するなど柔軟な対応を願いたいが)。この熱気は昨秋の関東大会横浜常総学院戦以来であったといえば察しはつくであろう。

 先発は春日部共栄がエース大道温貴(3年)、上尾山下和音(3年)ではなくこれまで主にリリーフを主戦場としてきた140km右腕渡部勝太(3年)で試合が始まる。これは上尾サイドにとって賭けであったはずだ。というのも渡部は、今大会はもちろん初先発であるが春の大会もほとんど先発をしておらずリスクが伴う。もちろん上尾にとって渡部は完投能力もありアベレージで140km以上を連発する切り札的存在である投手なのは異論がないが、彼が長いイニングを見越してややペース配分を考えてしまうと彼の良さが失われてしまう。もちろん、過去4試合先発している山下の疲労も考慮してのことであろうが、制球力で勝負するタイプの山下が投げた後に、勝負所で球も威力で勝負する渡部が投げた方が、相手にとってその球速差が際立つ。実際この継投がうまく行き、一年間上尾が安定した成績を残していた一つの要因であっただけにそう感じたのが、結果は案の定裏目に出てしまう。

 1回表、春日部共栄上尾・渡部の立ち上がりを攻め立て、先頭の川畑光平(2年)が四球で出塁するが、続く伊藤束紗(3年)はうまく送れず三振に倒れる。だが、3番・関谷将貴(3年)がライト前ヒットを放ち一死一、二塁とチャンスを広げると、さらに続く濱田大輔(3年)が判定は微妙であったが死球で出塁し一死満塁とする。ここで5番・[stadium]又吉一瑳[/stadium](2年)がレフト前タイムリーを放ち1点を先制すると、続く山﨑星夜(3年)がライトスタンドへ値千金となる満塁本塁打を放る。この回一挙5点を奪うビックイニングを作り渡部を早くもマウンドから引きずり降ろす。相手の切り札を早くも打ち砕いた春日部共栄は試合の流れを大きく引き寄せる。

 この回上尾は結局1回もマウンドへ集まらなかったのだが、今大会初登板である渡部の気持ちを察しても、満塁の場面では一呼吸入れる必要性があったのではなかろうか。いずれにせよ、上尾はいきなり5点のビハインドを背負ってしまう。

 上尾もその裏、一死から2番・亘理一世(3年)が左中間へ二塁打を放ち反撃を開始すると、続く山口正悟(3年)の鋭い打球は一塁線を襲うが、ファースト濱田のファインプレーに阻まれる。二死後、今大会全く当たりの出ていない4番・増田陸(3年)も見逃しの三振に倒れ無得点に終わる。

 春日部共栄は、3回表にも二番手・阿部玄太(3年)を攻めこの回先頭の関谷が四球で出塁すると、続く濱田がレフト前へポトリと落ちるヒットを放つと、一走・関谷が一気に三塁を奪い、その送球が逸れる間に濱田も二塁へ到達し無死二、三塁とする。ここで5番・又吉がレフト前タイムリーを放ちさらに2点を奪い、7対0とし阿部をマウンドから引きずり降ろす。

 1点でも返したい上尾はその裏、一死から9番・山下がサードゴロエラーで出塁すると、続く土屋雄真(3年)の所でフルカウントからエンドランを掛ける。ここで投球がワイルドピッチとなり一走・山下が一気に三塁を陥れると、緩慢追い方をしていたキャッチャーの隙を突き土屋も二塁を奪う。さらに一死二、三塁から続く亘理も四球を選び一死満塁とチャンスを広げるが3番・山口、4番・増田が連続三振に倒れ、ほぼ勝負は決した。

 5回表にも三番手・山下に対し春日部共栄は敵失に乗じ二死二塁とすると、6番・山﨑もショートゴロタイムリーエラー(記録はヒット)でさらに1点を追加しコールドペースへ持ち込む。

 投げては、大道がこの日は序盤の大量リードにも助けられたが、上尾打線を4安打無失点に抑える好投を見せ、春日部共栄が7回コールド8対0で試合を終えた。

 まずは上尾だが、まさに悪夢のような展開であったであろう。とにかく、初回の5失点が重過ぎた。頼みの渡部は元々あまり立ち上がりがうまい方ではないが、何もできずに終わってしまった印象ではなかろうか。3回途中からマウンドに上がった山下が結局7回までエラー絡みの1失点のみに抑えたのは何とも皮肉な結果だが、守備も乱れ、打線は不振の4番増田を含め元々そこまで良い状態ではなかったが、打者にも明らかに焦りの色が見えたのは5点のビハインドによる心理的な影響があったであろう。いずれにせよ、秋ベスト8、春ベスト4と安定した結果を出し、前評判で優勝候補と言われながらそのプレッシャーの中、きっちりとベスト8まで進出した上尾の夏が終わった。売りであった3本柱を含めレギュラーほとんどが3年生であるだけに、新チームはほとんどメンバーが入れ替わるが、キャッチャー市瀬が中心となりこの悔しさを活かしてもらいたい。

 一方の春日部共栄だが、とにかく初回の5得点がすべてであろう。表攻めの戦い方のお手本のような初回の猛攻は見事であった。4回戦までの戦い方には非常に不安が付きまとったが、木・金の雨天順延が彼らにとって流れを変える良いきっかけとなったのではなかろうか。大道は時折コントロールを乱す悪癖は相変わらずだが、中4日と休養十分で蘇りつつある。だが、次の相手は昨秋コールド負けを喫している優勝候補大本命の花咲徳栄だ。それだけにこの日一つも決まらなかった犠打を次はきっちりと決めたい所であろう。花咲徳栄高橋昴也(3年)に対し、埼玉大宮工業戦のように磯田など右打者を並べるのであろうか。ピッチャーは大道を立てるのであろうか。状態は上向いているだけに高橋(昴)対策を含め本多監督の手腕が問われる所であろう。

(文=南 英博

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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