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都立総合工科・有馬 信夫監督が語る「一流の控え選手の共通点とは?」

2016.04.01

 今の高校2年生が生まれた1999年。この年、東東京からは都立城東甲子園に出場した。甲子園に導いたのは有馬 信夫監督である。都立保谷を経て、現在は都立総合工科で監督を務めている有馬監督はこれまでいろいろなチーム、選手を見てきたが、今回は一流の控え選手というテーマでお話を伺った。

試合で活躍するよりも、チームとしてどうプラスになったか?

有馬 信夫監督(都立総合工科)

 一流の控え選手というテーマを挙げると、有馬監督はしばらく首をかしげ、
「難しいですね。私の場合、試合で活躍したというよりも、チームとしてどう貢献していったのか、チームにとってプラスになったかを大事にしています。1人挙げると、今、うちでコーチをやっている扇原 進はまさにそうですね」

 扇原氏は、有馬監督が都立保谷で監督をしていた時の教え子。中学時代は成績が優秀で、東大、京大、一橋大、東京工大と難関国立大の合格者を輩出する都立国立へ行ける学力を持っている選手だったが、都立保谷を選んだ。最初、有馬監督は都立国立へ行くべきだと何度も言っていたようだ。
「僕は反対でした。だって国立ですよ?国立に進学して、そこで頑張れば、良い大学に行けますし、それが君のためになるよと何度も言っていたんです。それでも保谷にきてくれたんです」

 それだけ有馬野球に憧れがあったということだろう。扇原氏は、入学時は投手だったが、後に捕手へ転向。だがなかなかベンチに入ることができなかった。しかし最後の夏でベンチ入りを果たした。

「野球が好きだという気持ちが一番で、技術的なことよりも、精神的な面で評価した選手でした。試合の活躍よりも、チームのためにいろいろなことに尽くしてくれる選手でした。チームを運営する立場として、そういう選手の存在は欠かせません。私は本当に意識が高いチームを見ていた時もありますし、なんでこんなことをするの?と思うチームを見ていたこともあります。一体感があるときは、扇原のような選手がしっかりとまとめている。だから扇原の存在は大きかったと思いますよ」

 こう扇原氏の活躍をたたえていた。その後、扇原氏は東京学芸大へ進学し、現在は教員となり、都立総合工科で指導している。夢は母校・都立保谷で監督を務めることだ。今でも有馬監督は扇原氏に厳しく接している。
「僕は何度も彼に監督に向いていないと言います。だからそれがつとまるように、しっかりとキャリアを積んでほしいと思います。彼は僕以上に『保谷愛』を持っている。OBとしていろいろ気にかけているようですし、そこは立派だと思いますよ」

 今回、扇原氏のような一例を紹介したが、指導歴が長い有馬監督はいろいろなチームを見てきた。控え選手の存在の大きさは、都立城東を出てから気付いたという。

■注目動画
「いつか、僕と戦うかもしれないライバルへ。」

「生きる道は、どこだ。」

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都立城東時代はレギュラーと控えの区別がなかった

1999年の都立城東ナイン

 都立城東時代、レギュラーと控え選手の区別はなかったという。
「背番号が10~20になっているだけで、力の差はなかったかなと思いますし、レギュラーと控えの区別がなかった。生徒たちもその気持ちは一緒だと思いますよ。みんな試合でも活躍ができていたんです」

 都立城東で甲子園出場した際、表彰をいただく機会があったが、辞退した。その理由を聞くと、
「賞状をもらえるのは、レギュラーだけだと聞いて。うちは3年生全員にもらってほしいと思ったけど、レギュラーだけと。そうじゃないんだよなと思って辞退したんです。でもまああんなにレギュラー、控えと仲が良く、団結力があった年も今まで指導をしていた中でもなかなかないんじゃないかな」

 その団結力をどう築いたのか?それは有馬監督が嫌われ役になることだった。
「今も変わらないですけど、嫌われ役に徹することです。とにかく厳しい事を言っていた記憶があります。その中でも生徒たちは『有馬には言われたくない』と思っていたのかなと思いますけど、僕が敵になることで、選手たちはまとまった」

 有馬監督がこのスタイルを貫くようになったきっかけは、徳島池田の故・蔦 文也監督の影響がある。
「蔦監督が大好きで、蔦監督の考えをまねていたところがありました。一番大好きなエピソードで、水野 雄仁氏が、テレビで誰がライバル?という質問を受けた時に、水野氏は『ライバルはいないですけど、強いて言えば、蔦監督には言われたくないですね』と言ったんですよ。自分もこんなことがあればいいなと思っていました」

 そしてその機会が実現する。1999年夏の甲子園時、ある選手がマスコミから誰がライバル?と聞かれたことがあった。
「その時、『有馬監督には言われたくない』と言ったんです。ただその選手、慌てて言い直していて、でもこの時、テレビが回っているから直しようがない(笑)。みんな慌てていたと思いますけど、僕は『しめた!』と思いながら見ていましたよ」

 レギュラー、控え選手と力量の差がない。そして嫌われ役に徹し、選手が「監督には言われたくない」と公言。甲子園出場時の都立城東は有馬監督が理想とするチームになっていたのである。

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一流の控え選手の共通点とは?

有馬 信夫監督(都立総合工科)

 レギュラーと控え選手の力量、モチベーションに差がなく、団結力があった都立城東と比べ、今は控え選手の意識が低いと思うことが多いようだ。
有馬監督によると、ベンチ入りができないのが怖くて、メンバー発表日に休んでしまう選手がいたこともあったという。そのほかにも、普通では考えられない行動をした選手のことも話していただき、著者は思わず絶句してしまったが、いろいろな感情が入り交じった中で一致団結して運営していくのは難しいということが伺えた。

 その中でも一流の控え選手になるのはどんな選手なのか?と聞いたところ、
「まずは野球が好きなこと。都立保谷でしたら、扇原もその1人ですし、都立総合工科にきても、姿勢が素晴らしい選手も何人かいましたが、彼らも野球がとことん好きで、中にはマニアか?と思わせる選手もいました。そして何よりチーム愛があること。都立総合工科に来た生徒の中でも、わざわざ私を慕って来ていただいた選手もおりましたし、それはありがたいことですよね。そういうチーム愛を持った選手が多いとまとまるんです。それが控えの立場になっても保てるか?という話です」

 確かに控えならば試合に出場できない。そのチーム愛を貫くのは難しい。でもそういう選手はどうやって一流の控え選手になっていくのか?
「競争を行えばレギュラーになる選手、控えになる選手はどうしても分かれます。控えになった選手は自分の現状を受け入れて何ができるかを見つけていける選手でしょうね。違うチームですけど、もともと背番号1をつけていた選手が不調で、指導者が今回は背番号10にしようとしたらそれに腹を立てて、野球部を辞めてしまった話を聞いたことがあります」

 この話も驚きだった。有馬監督にお話を伺う前に、専大松戸持丸修一監督に伺った、背番号10ながら千葉大会優勝に貢献した角谷 幸輝投手の話を紹介したが、活躍できる選手に背番号は関係ない。
「一流の控え選手は作るものではなく、なっていくものだと思います。それは試合に出る以前に、野球が好きであること、チーム愛があること、自分の役割を理解していることが大前提になります」

 それが常日頃からできている選手には、野球の女神が微笑んでくれるということだろう。控えで活躍した選手のエピソードを聞くと、日頃からしっかりと取り組んでいる選手ばかりだ。
強いチームを取材していくと、控え選手も意識が高い。そこには「自分は●●(学校名)の選手。恥ずかしいことができない」というプライドが感じられ、自分の役割を理解することが当たり前となっている。その事を有馬監督に話すと、「指導者がコントロールするのではなく、選手自身が気付くことが大事」と語った。

 有馬監督が都立城東時代に感じたレギュラーと控えの区別がないという状態は、まさに理想的なチームだろう。誰が出ても主役になれる可能性を持ったチームにするために…。有馬監督は大きなヒントを与えてくれた。

(取材・文=河嶋 宗一

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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