森下が「紙一重」で村上封じ、九州男児の対決は伝説になる

森下暢仁（大分商-明治大-広島）

　九州の高校野球ファンなら、たまらない対決だったと思う。ヤクルトと広島の試合で、マウンドで広島・森下暢仁投手が投げ、打席にはヤクルト村上宗隆が構える。元大分商右腕と元九州学院のスラッガーだ。九州出身のプロ舞台での対決なんて、やまほどあるとは思うが、この2人にちょっとレベルが違う。ともに今年の東京五輪金メダリストである。「打ちたい」「抑えたい」のプロの意地が、ガチでぶつかる。

　軍配は森下に上がった。

　2打席目までは内野ゴロに抑え、3打席目は空振りの三振。そして、最後は内野ゴロに仕留めた。150キロの直球と大きく縦に割れるカーブ、落ちるスプリット系の球。この3種類をうまくつかって、「史上最年少100号」という大きな肩書がついた年下のスラッガーを手玉にとってみせた。

　3種類の球種を使うということは緩急をうまく使うことだが、森下はもうひとつ「緩急」をつけた。

　第一打席、第1球は大きなカーブで107キロ。その後、2球連続して外角の直球を続け、ファウルをもらう。そして再び115キロのカーブ。低めにワンバウンドしたが、村上のバットはハーフスイングでなんとか止まった。普通は空振りの三振だが、村上は止まった。ならばと森下は奥の手を使う。セットからのモーションをそれまでより一転、素早く投げ込んだ。クイックで直球を投げ込んだ。球速は151を表示したが、村上の体感はもっと速かったのではないか。「史上最年少」のバットの鈍い音とともに、打球が森下のグラブに収まった。

　この「緩急」は最後まで村上のタイミングを狂わせた。2打席目も直球、3打席目はカーブで空振り三振、勝ち越されるピンチで迎えた第4打席は初球のカーブを打ち損じた。村上は一塁ベースを駆け抜けた後、天を仰いだ。

　今季、2人の対決は4試合目だった。

4月6日　四球　右安　空三振　一ゴ（森下完封〇）
4月20日　左飛　見三振　左2（森下7回●）
5月12日　四球　左飛　空三振　（森下7回）△
9月20日　投ゴ　一ゴ　空三振　二ゴ（森下8回）
14打席　12打数2安打4三振2四球　打率.167

　「先輩」森下がなんとか面目を保っている。しかし、この結果はおそらく、見た目以上に差はないと思われる。ほんの少しのズレが原因なのだろう。村上も黙ってないはず。今後の森下のローテーションを考えれば、今季の対決はない可能性が高いが、「九州の金メダリスト」同士の対決は、今度も語り草になるはずだ。

（記事：浦田由紀夫）