西 隆聖選手 (倉敷商)
寸評
今大会、桐光学園の松井 裕樹が大会記録の22奪三振を達成して大きな話題になった。その原動力になったのが縦割れのスライダーで、西 隆聖の勝負球・シンカーも松井のスライダーによく似ている。 松井は22奪三振中、スライダーで奪ったのが15個。その内訳は空振り10、見逃し5。西は10奪三振中、シンカーで奪ったのが9個。そのすべてが空振りだった(他の1個はストレートの見逃し)。 このシンカーが序盤、圧倒的な威力を発揮した。1回は1番から3番まですべてシンカーを決め球(結果球)として、三振、三邪、三振に斬って捨てたのである。シンカーの威力が松阪打線にインプットされたのか、西はシンカーを多く投げながら「多投」というほど多くを投げなかった。 どういうことかというと、続け球にしなかった。たとえば2回、2番岸洸也にはシンカー、カーブ、シンカー、ストレート、シンカーで空振りの三振という攻め方であった。間にストレートあるいはカーブ、スライダーを挟んでシンカーの軌道に慣れさせないという配慮があった。 6回以降、西はシンカーを多投しなくなった。ストレートとカーブ、スライダーを軸にした緩急の攻め、という投手の基本に立ち返ったピッチングをめざしたのである。これが功を奏した。 6回には7番上東亮介に対してカーブ、カーブ、ストレートで中飛、8番坂本耕哉にはスライダー、ストレート、スライダーで三振という具合である。シンカーを抑制することで、打者の心理状態の中に「いつシンカーがくるのか」という疑心暗鬼が生まれ、これがボールゾーンに逃げるシンカーを空振りする伏線になった。もちろん、ストレートは腕を振って魂を込める、という絶対的な原則がその前提にあった。 投手の基本は魂のこもったストレート――これを技巧派の西に教えてもらった試合であった。
更新日時:2012.08.16
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