試合レポート

駒大苫小牧vs創成館

2014.03.22

今年から適用された投手規則改正を考察!

 勝った駒大苫小牧・佐々木孝介監督の言葉。「2点目がすごく大きくて、(しかも)押し出しだったので、ウチにリズムがきたなという感じでした」
 敗れた創成館のエース・廣渡勇樹(3年)の言葉。「押し出しで2点目を与えたのが悔しい。長打を警戒しすぎて、際どいコースがボールになってしまった」

 勝者と敗者は、試合のポイントについて同じ部分を挙げた。
 駒大苫小牧が3回に先制した後に挙げた、次の1点。ここが勝負の分かれ目となった。その裏側に、今年から適用された、投手の規則改正が見え隠れする。今回はここを考察してみたい。

 まず、伏線がいくつか存在する。
 3回裏、駒大苫小牧は一死から9番伊藤大海(2年)がセンターオーバーの三塁打を放った。これがこの試合のチーム初安打。立ち上がりに打ちあぐねていた創成館・廣渡の球を、駒大苫小牧の先発投手だった伊藤大が打ち返した所から、試合が動いた。
 続く1番伊藤優希(3年)が、レフト前へ弾き返し、駒大苫小牧が先取点を奪った。

 第一の伏線はここからである。塁に出た伊藤優は、大きくリードを取りながら、マウンドの廣渡の投球モーションを観察した。打席の2番酒井隆輔(3年)の2球目。「常に狙っていました」という伊藤優が盗塁を成功させた。

 酒井はファーストフライに倒れ、二死となって、3番安田大将(2年)の打席となる。
 二塁走者となった伊藤優が、再び廣渡のモーションを観察していた。2ボールからの3球目。「ピッチャーのクセを見つけた」と、自信を持って三盗を敢行。感づいた廣渡とキャッチャー・大田圭輔(2年)が、外角高めへ外したにも関わらず、楽々と三塁ベースを陥れた。「高めに外れた真っ直ぐだったのに、セーフになれてうれしかった」と、してやったりの気持ちを語った伊藤優。さらに、「三盗を決めて、ピッチャーが落ち込んでいるように見えた」と感じた通り、マウンドの廣渡は、打席の安田に四球を与えてしまった。

 駒大苫小牧に流れたリズム。しかも三塁走者・伊藤優、一塁走者・安田という、何を仕掛けてもおかしくないという状況が出来あがって、勝負の瞬間を迎える。


 二死一、三塁で打席は4番若松大地(3年)。
 三塁走者の伊藤優は、「バッターが4番の若松だったので、二死二、三塁で勝負という方が、得点の確率が高い」と考えていた。一塁走者の安田も、「バッターの若松さんに必ず還してやると言われていたので、ヒット1本で還れるように」と二盗を頭に入れた。

 この考えは、守る創成館の廣渡も同じだった。だからこそ、若松に対しては、間の取り方が重要になる。
 昨年までならば、偽投をして走者のリードの取り方、狙いを読み取るという作業ができた。つまり、三塁へ投げるふりをして、一塁へ牽制球を投げる。安田がこの試合で初めての出塁ということもあり、守る方に取っては、情報がほしい。
 マウンドの廣渡は、「(一塁走者を探る意味での)三塁牽制(偽投)を入れたかった」と昨年までの規則にのっとった策が頭に浮かんだことを明かす。

 しかし、今年から適用された規則改正で、投手が投手板(プレート)に触れているとき、走者のいる二塁へは、その塁の方向に直接ステップすれば偽投してもよいが、一塁または三塁と打者への偽投は許されないという文面になった。当然、違反すればボークである。
 ただし、軸足をプレートの後方に正しく外せば、偽投ができる。でもそれでは、一塁走者の情報は得にくくなる。

 結局廣渡は、「普通の牽制しかできなかった」と三塁へ牽制球を投げた。一塁は後ろ向きになるため、安田の動きが見え難い。
 カウントが進んで、今度はプレート後方に軸足を正しく外して、一塁牽制のフリをした。許される範囲で何とか情報収集をしたい。廣渡の仕草にそれが表れていた。
 だが1ボール2ストライクからの4球目に安田がスタート。三塁にも伊藤優がいるため、キャッチャーの大田は二塁へ投げることができず、安田は楽々と二盗が決まった。
 そして、若松の長打を警戒した廣渡は、際どいコースを突くものの、冷静に見極められて、若松と5番釜谷泰葵(3年)に連続四球を与えた。こうして、双方にとって大きすぎる2点目が押し出しという形で入った。

 この一連の場面。昨年までは偽投ができていたため、マウンドの廣渡の脳裏に、規則改正が浮かぶのは致し方ない。むしろ、ボークを犯すことがなかったのは、新ルールを熟知できていたという証拠だろう。それでも、『偽投ができない』という思考がどれだけ影響したかと考えれば、ゼロではないことが廣渡の表情などから読み取れる。

 一方、一塁走者のサイドから見ると、これまでの『三塁偽投からの一塁牽制』という思考を消すだけでも、大きなアドバンテージとなる。

 同じ相手と何度も対戦し、特徴をよくわかっている大人の野球(プロ、社会人、大学など)では、偽投は投手がピッチングのリズムに繋げるためという意味が強い。
 だが、ほとんどが初めて対戦する高校野球、まして甲子園クラスの大きな大会ならば、偽投が駆け引きや情報収集に使われていた部分があった。
 今回の規則改正が何年定着して、選手が慣れてくれば、偽投による駆け引きは少なくなっていくだろう。
しかし、しばらくは、こういった攻撃有利の状況が続くと言えそうだ。特に走塁へのこだわりが強いチームにとっては……

 では、守る方はどうすれば良いのか?
 結局、今はとにかく慣れて、ポジティブに考えていくことが、最良の方策に思える。そして、『これまでならできたのに』という考えを持たないことも重要になる。
 

(文=松倉雄太

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.14

【福岡】九州国際大付は小倉商、東海大福岡は小倉南、春日は大川樟風、福岡大大濠は輝翔館と対戦【2024夏の甲子園】

2024.06.14

15日に夏の甲子園抽選会!超激戦区・愛知が誇る逸材を一挙紹介!素材の宝庫・愛工大名電、中京大中京の149キロ右腕…そしてモイセエフはどこまで成長したのか?今年も全国クラスの逸材が点在!【注目選手リスト】

2024.06.14

慶應&大阪桐蔭が四国の5チームに伝えた「全国で勝つための方法」とは!? 香川・徳島招待試合がもたらした財産

2024.06.14

【群馬】甲子園春夏連覇に挑む健大高崎は勢多農林と藤岡北の勝者と対戦、同ブロックに桐生第一【2024夏の甲子園】

2024.06.14

【北海道】名寄支部では、稚内大谷が名寄と対戦【2024夏の甲子園】

2024.06.14

【福岡】九州国際大付は小倉商、東海大福岡は小倉南、春日は大川樟風、福岡大大濠は輝翔館と対戦【2024夏の甲子園】

2024.06.11

センバツ出場・東北のレギュラー左翼手がプロボクサー挑戦へ! エースはENEOS、主力は國學院大、国士舘大などへ進学【卒業生進路】

2024.06.14

15日に夏の甲子園抽選会!超激戦区・愛知が誇る逸材を一挙紹介!素材の宝庫・愛工大名電、中京大中京の149キロ右腕…そしてモイセエフはどこまで成長したのか?今年も全国クラスの逸材が点在!【注目選手リスト】

2024.06.10

【沖縄】11日に抽選会!春の覇者・エナジック、ノーシードの沖縄尚学の対戦相手に注目<夏の甲子園県大会組み合わせ>

2024.06.11

【北海道】十勝支部は12日に抽選会!帯広大谷、白樺学園の初戦の相手に注目<夏の甲子園予選組み合わせ>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.21

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在33地区が決定、岩手では花巻東、秋田では横手清陵などがシードを獲得〈5月20日〉

2024.05.19

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在30地区が決定、青森では青森山田、八戸学院光星がシード獲得

2024.05.31

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在34地区が決定、佐賀では佐賀北、唐津商、有田工、龍谷がシードに

2024.05.20

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在31地区が決定、宮城では古川学園、仙台南、岩手では盛岡大附、秋田では秋田商などがシードを獲得