試合レポート

光星学院vs神村学園

2012.08.18

悲願の優勝へ 光星学院 波に乗る勝ち方でベスト8に進出

 じゃんけんは、負けだった。
「何でか勝てないんですよ。でも、(じゃんけんに)勝つと(試合に)負けるんで、いいです」
そういって光星学院の主将・田村龍弘は苦笑いした。

試合前の先攻後攻を決めるじゃんけん。勝ったのは、神村学園だった。
神村学園初戦の智弁和歌山戦でもじゃんけんに気合を入れていた。「勝っても先攻、負けても先攻」と高嶋仁監督が言うように、常に先攻を取るのが智弁和歌山の戦い方。いつも通りの戦い方をさせないため、「勝って先攻」と決めていたのだ。
「負けたら怒られる」と言っていた弥栄翼主将はパーを出して気合で勝ち、先攻を選択。2回に2点を先制して主導権を握り、リードを保って逃げ切った。1点届かず敗れた高嶋仁監督は、試合後、こう言っていた。
「やっぱりいつもとリズムが違うんよなぁ」

そして、光星学院戦。
勝った弥栄は後攻を選択する。

昨秋の明治神宮大会
光星学院に延長タイブレークの末、サヨナラ負けをしているためかと思ったが、理由はこうだった。
「神宮は(先攻が有利といわれる)タイブレークを見越して先攻を取ったんですが、春のNHK旗ぐらいから後攻がパターンになっていたんです。秋の九州大会までは先攻がパターンだったのでどちらでもいけるんですが、今日は後攻だと」(谷川暁部長)

 だが、それが光星学院に幸いする。初回、先頭の天久翔斗がサイレンの鳴り止まぬうちに先頭打者本塁打。一死一塁からは北條史也が2試合連続となる2ラン本塁打を放っていきなり3点を先制した。

「(仲井宗基)監督からは『後攻を取れ』と言われてたんですけど、自分的には先攻を取りたかったんです。今日の先発は金沢(湧紀)。金沢は立ち上がりが悪いんで、先に点を取りたかった。(神村学園が)後攻を取ってくれて、ラッキーと思いました」(田村)

3点をもらって気楽にマウンドに立てた金沢は、初回の神村学園の攻撃を三者凡退に抑える。2回は一人走者を許したものの、併殺打を打たせ、3人で終わらせた。3回に田村が2ランを放って5点差に広げると、金沢は4回まで1安打1四球のみで12人で片づける好投を見せた。
先攻で、先制パンチ。光星学院はこれで試合の流れを引き寄せた。


 もうひとつのポイントは、7回。3対5と2点差に迫られた光星学院の攻撃だ。先頭の大杉諒暢が二塁打を放ち、無死二塁で打席には七番の城間竜兵が入った。

無死二塁――。
ここでの采配には、監督の想いが出る。1点がほしければ、確実に送って一死三塁を作る。そうすれば、犠打や犠飛、内野ゴロ・ゴー、暴投、捕逸、ボークなど無安打でも1点が入る状況になるからだ。2点以上、あわよくばビッグイニングを期待するなら、“ヒッティング”。打たせてさらにチャンス拡大を狙う。

確実に1点か、2点以上か。

仲井監督が選んだのは、後者だった。
「バントは考えんかった。城間はバントが下手やから。右に打つのもうまいしね」

サインを受けた城間の考えはこうだった。
「最初はバントかな、と思いました。でも、監督が強気の采配をしてるので、別にアウトになってもいいやと思い切っていきました。点差もあったので、ただ単に打とうというだけ。同点や1点差なら右(方向を)意識しようと思いますけど」
城間は、カウント2ボールからストレートを引っ張った。やや詰まった打球は、ショートの田中貢大のグラブをはじいてレフト前へ。3点差に広げる貴重なタイムリーになった。
レフトから本塁への送球間に二塁を狙った城間は、捕手の悪送球で三塁へ進塁。さらに暴投で本塁を踏む。無死二塁から、思惑通り2点を取ることに成功した。

 また、城間の一打は、もうひとつの意味も持っていた。
春のセンバツ以降、光星学院はタイムリー欠乏症に陥っていた。初戦遊学館戦も、4得点したものの、1点は相手の失策、2点は北條の2ラン本塁打で、タイムリーは木村拓弥の1本だけ。青森大会初戦の三沢戦では12安打で2点しか奪えず、13残塁を記録している。春の東北大会準決勝の聖光学院戦では、0対1で迎えた9回表に同点の本塁打を放った田村がこんなことを言っていた。

「後ろにつないでも点が入らないと思ったので、一発を狙いました」
神村学園戦も最初の5点は、すべて本塁打。3本の一発はインパクトこそ大きかったが、3回は二死二、三塁、4回は二死満塁、5回は一死一、二塁、6回は二死一、二塁と4イニング連続で好機を逃し、その4イニングだけで9残塁を記録している。ようやく出たのが、城間の一打だった。

これでふっきれた光星打線は、8回にも北條、大杉にタイムリーが出て2点を追加。ようやく本塁打以外での点数が取れるようになった。

先攻からの入り、城間への強攻の指示ともに、結果的にはいい方向へと働いた。「結果オーライやけど、よかった」と笑った仲井監督。
青森大会から消化不良が続きながら、3季連続のベスト8は底力のある証拠だ。
経験豊富なやんちゃ集団が、運も味方につけて、ようやく波に乗ってきた。

(文=田尻賢誉)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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