試合レポート

済々黌vs必由館

2012.08.05

熊本代表・済々黌(18年ぶり7回目)

2012年の熊本大会を制したのは済々黌だった。
2年生の左腕エースの大竹耕太郎が6試合をほぼひとりで投げ抜く激投を演じ、18年ぶりとなる夏の甲子園進出を決めた。

熊本県最古の歴史を誇る1879年創立の進学校は、1958年の第30回選抜大会で優勝。これが熊本県勢としては春夏を通じて唯一の全国制覇であり、九州に初めて紫紺の大旗を持ち帰るという大偉業達成でもあった。

3点を追う2回、1点差に詰め寄るタイムリー二塁打を放ったのが9番安藤太一だった。
「日頃の練習から『左投手の内角球を本塁打できる9番打者になれ』と言われていたので、強く遠くへという打撃を心がけています」

九州学院大塚尚仁をはじめ、左腕の好投手を攻略することが熊本大会を制覇する最低条件だったという安藤。
組合せが決まり九州学院との対戦の可能性が高まったことで、その意識はより強烈なものとなっていく。

安藤は4回の2打席目にもセンター前にヒットを放った。指2本分ほどバットを短く持ち、対角的に入ってきた左腕・平木隆世の直球を鮮やかに仕留めている。

終盤の8回。4対3と緊迫したゲーム展開の中で、安藤の4打席目が訪れた。二死満塁。
「バットを短く持つことで、打球が飛ばなくなるという怖さを感じている選手も多いと思う。でも、グリップを短く持つことでバットはコントロールしやすくなる。スイングが鋭くなることで、かえって強い打球が飛ぶようになるんです」


相手投手は三番手、エースナンバーを背負った屋比久大人に変わっていた。2球目までに2ストライクとなったが、カウントを2ボール2ストライクの並行に戻した時点で打者・安藤の勝利は決まっていた。
内角の直球しかない。案の定の内角直球、やや高め。安藤が振り抜いた打球はレフトの頭上を大きく越える二塁打となり、3人の走者を一掃する事実上の“優勝決定打”となった。

「バットを短く持った打者でも凄いんだという自信を持ちたかった」という安藤が、甲子園を前に手にした収穫はとてつもなく大きい。
この日記録した2本の二塁打を含む3安打(4打点)は、すべて左投手の直球を叩いたものだった。

前日の九州学院戦から連投となる大竹は、2回までに3点を失った。
最速138キロの直球は見る影もなく、明らかに失速していたが、持ち前のコーナーワークは生命力を帯びていた。本人が「スローシュート」というチェンジアップ気味の抜いた球が効力を発揮し、中盤以降は走者を背負いながらも要所を締めた。

自身も1990年の第72回選手県大会にキャッチャーとして出場した経験を持つ池田満頼監督が、勝者でありながらも呆然とした表情で口を開いた。
「準決勝の九州学院戦を1対0でモノにした全員野球が自分たちを強くした。甲子園では(熊本)県代表、九州代表としてひとつでも多く勝ちたい。今日の必由館さんのような粘り強い打撃を磨いていきたいですね」

大いに湧いた[stadium]藤崎台[/stadium]のスタンドが無人になった頃、済々黌のレギュラーメンバーが全力でグラウンド整備に散っていく。
九州高校野球の大金字塔を打ち立てた伝統校は、21世紀最初の聖地で新しい歴史を打ち立てる。

主役を張るのは、前回の夏出場年に誕生した濟濟たる多士である。

(文=加来慶祐)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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