試合レポート

履正社vs総合技術

2011.03.26

履正社vs総合技術 | 高校野球ドットコム

先発した渡辺(履正社)

「背番号18がもらったチャンス」

驚いた。

履正社の先発投手がエースの飯塚孝史ではなく、背番号「18」の渡辺だったことに、である。

これまでも、幾度となく、履正社・岡田監督と接してきたが、大会の1回戦で絶対的エースを先発させないなどという大英断を選択する指揮官に思えなかったからだ。

思い切ったな、という意見と
エース・飯塚がどこかに故障を抱えたなという意見。

結果は後者だった。

とはいえ、怪我の功名とはよく言ったもので、これまで責任を与えられてこなかった投手にとっては大きな好機ともいえる。

特に、履正社は、昨秋以降、2番手投手の成長が鍵となっていただけに、なおさらだった。
「飯塚の後でいい。特に3年生はそれでもベンチに入れそうだから、競争しようという気持ちがない」。
大会前に岡田監督が話していたものである。

しかし、この緊急事態に抜擢された左腕・渡辺は周囲の期待を超える活躍を見せる。
5回までをノーヒット5三振を奪う好投を見せ、試合を見事に作ったのだ。
「賭けに近かった。いつでも、後ろを準備していた」という岡田監督の危惧も杞憂に終わり、2安打無失点の完封勝利。渡辺が公式戦で初めて上げた完封勝利はチームの窮地を救ったのである。

渡辺は「2番手でずっと結果を出せてなかった。飯塚だけじゃない、僕だって投げられるんだって、悔しい想いで練習をしてきた。結果が出て良かった」と笑顔を見せた。
「飯塚は細身だし、連投となるときついので、これからも、助けられたらと思う」と自信を口にした。


とはいえ、この起用を「怪我の功名」と片づけて欲しくない。

今日の履正社のように、エースの存在が大きすぎると、なかなか2番手以降を育てられないという現状に目を向けなければいけない。

そこには、指揮官の長期的な育成というのを考えなければいけないし、多くの逸材を抱える強豪私学こそ、もう一度、選手の育成を考える必要がある。

岡田監督は「どれだけ練習するよりも、公式戦での経験が何より大きなものになる」と話している。
公式戦でしか得られないものが、選手の成長にとっては大きいのである。その飯塚だって、昨春の大阪府大会で好投し、自信をつかんだ口なのだ。

だが、指揮官自身が「負ける怖さ」を知っていれば知っているほど、そうした経験を積ませられないのが、今の高校野球の現状ではないだろうか。

高校野球の各大会はあらから、トーナメント方式である。負けたら終わりの大会を春夏秋と繰り返していては、育つものも、育たないと筆者は思うのである。

渡辺のピッチングは見事だった。エース・飯塚の穴を埋める好投だったと言えるだろう。
ただ、果たして、喜んで良いものだろうか。
決して、履正社の育成方法に苦言を呈しているのではない。
むしろ、こうやって怪我で生まれた采配は、育成は何かを考えさせてくれるいい機会だった。

1勝に固執しなければ、選手は育つ。

抜擢された渡辺の好投を見ながら、育成について考えさせられた。

(文=氏原英明)


(撮影=中谷明)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.06.08

慶應義塾が15安打12得点で強打健在も投手陣に不安 先発小宅は5回途中で降板【香川招待試合】

2024.06.07

【夏の甲子園地方大会抽選日&開幕日一覧・近畿地区】近畿一番乗りの抽選は17日の大阪、4府県が7月6日に開幕

2024.06.07

【夏の甲子園地方大会抽選日&開幕日一覧・北信越地区】新潟で21日に抽選会、7月5日の富山で組み合わせが出揃う

2024.06.07

【夏の甲子園地方大会抽選日&開幕日一覧・東北地区】24日に宮城、秋田の抽選!7月6日の宮城が東北一番乗りで開幕

2024.06.07

明日夏の組み合わせ抽選! 今年の神奈川は「投手王国県」だ!東海大相模の198センチ左腕を筆頭に、ノーシードにも140キロ超え投手が続出【神奈川注目投手リスト】

2024.06.04

神村、鹿実の壁を破れ! 国分中央は「全力疾走・最大発声・真剣勝負」で鹿児島の頂点を狙う

2024.06.02

【鹿児島NHK選抜大会】神村学園が期待の2年生エース・早瀬の完投勝利で決勝進出!

2024.06.02

福岡に逸材現る! ケガから復帰後即144キロ! 沖学園2年生エース・川畑秀輔に注目だ!

2024.06.05

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在36地区が決定、徳島の第1シードは阿南光!第2シードに池田!<6月5日>

2024.06.06

大阪桐蔭が選抜ベスト8の阿南光ら4チームと対戦!<招待試合>

2024.05.21

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.05.15

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.05.21

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在33地区が決定、岩手では花巻東、秋田では横手清陵などがシードを獲得〈5月20日〉

2024.05.13

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在29地区が決定、愛媛の第1シードは松山商

2024.05.19

【24年夏全国地方大会シード校一覧】現在30地区が決定、青森では青森山田、八戸学院光星がシード獲得