試合レポート

都立富士森vs都立深沢

2015.03.16

富士森終盤に逆転、部員10人の深沢健闘及ばず

蛭田投手(都立深沢)

 近年、確実に力をつけてきている都立富士森と、部員わずか10人の都立深沢の対戦は、失礼ながら、一方的な展開になるかもしれないと予想していた。しかし、都立深沢の投手を見て、考えが変わった。都立深沢の右腕・蛭田龍之介は、細身ながら、球は速く、スライダーのキレもいい。「以前測った時は、ストレートは135キロでした」と蛭田は言う。もっともひと冬越して、球速はさらに増している可能性もある。何より、腕をしっかり振っているので、球に伸びがある。

 都立富士森の大原博文監督は、「都立深沢の投手はいいという情報はあったので、気持ちを引き締めていました」と語る。

 立ち上がり、主導権を握ったのは都立深沢だった。1回表四球で出た1番海野翔太を2番諸橋和人が送り、3番桝井秀悟の中前安打で還すという、理想的な攻めで先制した。

 都立深沢の蛭田は1、2回を無安打で切り抜けたが、4回表につかまる。この回先頭の9番森本を四球で出したものの、牽制で刺した。けれども、1番江原、3番小川にも四球で二死一、二塁。そこで4番塩満絢史が左中間を破る二塁打を放ち、2者が還り、逆転した。
「インコースを切って、外を振っていくようにした」という大原監督の指示が功を奏し始める。

 それでも、4回表、都立深沢は四球で出た、打っては4番の蛭田を、7番峰友駿が右前安打で還し、同点。続く8番中村壮海が左中間を破る二塁打を放ち再度逆転。中村も2番諸橋の内野安打で生還して、この回3点を挙げた。

 都立富士森の先発は、サイドよりややアンダーハンド気味の森本。「本当はポンポンストライクを取にいくタイプ」(大原監督)にもかかわらず、初戦の緊張か、回の先頭打者に四球を与えるなど、リズムに乗れない。

 4回裏、都立富士森は、中前安打の7番小早川宗一郎を、1番江原が内野安打で還して1点差に迫ったが、まだ都立深沢のペースであった。

 6回表、都立深沢は、四球、相手の失策で出た走者を、海野がスクイズ(内野安打)で還して、さらに1点を追加した。ここで都立富士森は、先発の森本から、右の本格派・穴澤にスイッチした。穴澤は、最初の打者である諸橋には犠飛を打たれ、1点を失ったものの、その後はスライダーがさえて、都立深沢打線を苦しめる。「穴澤は絶対的な力はないものの、スライダーがいいので、一巡目までは、手こずることが多いです」と、大原監督。

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穴澤選手(都立富士森)

 それでも都立深沢は、7回表に先頭の蛭田が中前安打、続く赤岩大夢がレフト線をゴロで破る二塁打を放ち、無死二、三塁のチャンスを得る。しかし後続の3人が三振、右飛、三ゴロに打ち取られ、チャンスを潰したことで、流れは都立富士森に傾いた。しかも、都立深沢の蛭田は6回を終えた時点で投球数が100球を超えており、球に伸びがなくなってきた。そこを都立富士森が捉える。

 7回裏、都立富士森は、四球、中前安打に盗塁を絡ませた一死二、三塁のチャンスで、4番塩満が右前安打。2者が生還して1点差に迫った。この日塩満は3安打4打点の大当たり。チームの勝利に貢献した。

 さらに8回表には、四球、2本の安打による無死満塁のチャンスで、江原の中前安打により2人が還って、逆転に成功した。この日江原は2安打2四球の3打点。塩満にしても江原にしても左打者。「左は苦手なんです」という蛭間投手の意識も、試合の流れを左右したかもしれない。さらに都立富士森は小川の右前安打で1点を追加して2点差とし、9回の都立深沢の攻撃を穴澤が3人で抑えて、逆転勝ちした。

 都立富士森は、苦しみながらも逆転勝利を収めたことは、この大会はもちろんであるが、夏に向けても、貴重な経験になったことは間違いない。

 一方の都立深沢は、蛭田がエースで4番という、絶対的な大黒柱ではあるものの、部員が10人しかいない割りには、力が劣っている選手はおらず、塩坂直監督が「全員に目が行き届いています」と語るように、全体的によく鍛えられている印象だ。ただ10人しかいないゆえに、紅白戦すらできず、実戦経験は不足している。
「まだ野球を知らない。周りが見えていない」と塩坂監督が指摘するように、まさに勉強中のチームだ。これから新入生も入り、練習試合を繰り返す中で、チームがどう成長するか、期待したい。さらに、エースの蛭田は、筋力をアップして、体の線が太くなれば、まだまだ球速が伸びるはずだ。

(文=大島 裕史

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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