試合レポート

英明vs高松商

2011.07.25

手負いの攻撃を英断しなければばらない瞬間

【試合経過】
 英明の左腕、松本竜也(3年)が毎回の13奪三振を奪い1失点の完投。打線も2ランホームランを含む5得点を挙げ、高松商業を振り切った。

 英明は初回、田中玲(3年)の左前適時打でまず1点。続く2回も、西岡勇魚(3年)の中越2塁打など3本の長短打を集めて2点を追加する。4回、高松商業は笹田仁(2年)の左中間を越える2塁打で1点を返すも、7回。西岡がこの試合3本目となる2ランを放ち、得点差を4点に広げそのまま逃げ切った。

 193cmの身長を誇る英明の大型左腕エース・松本は毎回の13奪三振を奪い、被安打6・四死球1の完投勝利。ストレートは最速143kmを記録し、変化球もスライダーを主体に時折キレのいいフォークも交えるなど、数字以上に完璧なピッチングを披露した。

【ピックアップコラム】

 肉を切らせて骨を断つ、高松商業の指揮官・黒坂季央監督はそんな心境だったのかも知れない。

 高松商業、2点のリードを許した7回表の攻撃。先頭打者の6番・谷川宗(2年)が初球で倒れると、次打者の7番・黒原佑太(1年)が左中間越えの2塁打を放ってチャンスを作る。続く8番・藤谷頼二(2年)に期待が集まるが、初球を引っかけてファールフライに。2死2塁。9番は、それまでの2打席で全くタイミングの合わない三振を喫しているピッチャーの出下潤(3年)だ。

 この日の出下は尻上がりに調子を上げ、内容は上出来だった。
 序盤、わずかに甘く入ってしまった球を英明打線に捕らえられ3点を失うが、3回から6回までは四死球なしの1安打ピッチング。左腕から繰り出される130km前半のストレートと、ストレートと同じ軌道から変化するスライダーを武器に、打たせてとる丁寧な投球を披露。守備のリズムを築き、そのリズムを攻撃に結びつけようと我慢強く投げていた。

 そんな中、いよいよ決断の時が訪れる。

 続投か、代打か。

 黒坂監督は代打を送り、もう一度、勝負に出た。


 苦渋の決断だったと思う。残りイニングを考えると、どうしてもここで点差を詰めておきたいケース。まして6回表。無死から右前安打で出た走者を動かし、盗塁死で好機を潰していた。

 1点が遠い。
 英明・松本の出来を考えると、勝負所はあとわずかしか残されていない。ここで流れを変えたい。出下自身も納得の交代だっただろう。自分のピッチングは攻撃へ繋げる布石。見事な引き際だった。

 9番・代打、蓮井悠人(3年)。
 蓮井が指揮官とエースの気持ちをバットに刻み打席に立つ。初球を見送った後、2球続けて果敢にスイング。そしてカウント1-2からのスイングは、非情にも虚しく空を切った。

「どうしても流れを引き込みたかった。守りよりも勝負を選んだ。結果は仕方ない。選手たちは本当によくやってくれた」。試合後の黒坂監督。

 その裏、出下からマウンドを引き継いだ谷川は、英明西岡勇魚(3年)に2ランホームランを打たれる。8、9回の高松商業の攻撃。1番から始まる好打順だったが、気落ちしたかのように3者凡退で終わった。

 共同インタビューが終わると、黒坂監督は泣きじゃくる選手たちを見つめる。その悔しさに同調するように吐き出した目線は、いつまでも行き場を探していた。
 甲子園に行くためには何かが足りないと復活させた志摩供養。今年も高商の甲子園への道は遠かったが、勝負を分かつ満ち足りたドラマをファンに与えてくれた。

(文=編集部

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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