試合レポート

立教新座vs秩父

2011.07.17

立教新座vs秩父 | 高校野球ドットコム

立教新座 星野(左)、山本(右)

新生、立教新座の挑戦

久々に、これだけ大きくリードを取るチームを見た。
実際には土のグランドだが、人工芝のアンツーカーであれば完全に両足が出ているだろう。それぐらい大きなリードを取れる選手が2人。その他の選手も、アンツーカーならば片足が出るぐらい大きなリードを取っていた。

立教新座のことだ。
失礼ながら、以前はそんなイメージはまったくなかった。
付属の立教新座中は軟式野球が強く、2005年秋に埼玉県大会優勝。そのメンバーが高校に進んで主力となった08年夏は決勝で浦和学院に敗れたものの、南埼玉大会で準優勝を果たしている。05年のエースだった戸村健次は立教大を経て、ドラフト1位で楽天入り。準優勝時の岡部賢也(立教大)、翌年の矢部佑歩(立教大)など毎年140キロ近い速球を持つ投手がいるなど、好素材は揃っていた。

だが、監督がいない。

昨年まではOBの立教大生が監督を務めていた。準優勝したときの伊藤界勇監督も、4年生だったためにその秋で退任。翌年からは準優勝時のセカンドだった城崎智弘が指揮を執った。
年齢が近く、意見は言いやすいが、反面、監督としての威厳や言葉の説得力に欠ける。特に1年前まで一緒にプレーしていた先輩が監督では、厳しいことを言うには難しいところがあった。
髪型が自由なこともあり、のびのびと楽しくプレーしているように映る。細かいプレーよりは、打つ力、投げる力で勝つというのが立教新座野球の印象だった。

そんなチームに転機が訪れたのが今年の1月17日。学生ではなく、正式な監督が誕生したのだ。しかも、新監督はビッグネーム。アマチュア界のスター選手だった。

高林孝行。
1985年に一番・二塁手として立教(当時の校名)を夏の甲子園初出場に導き、立教大4年秋には23年ぶりのリーグ戦優勝。
さらに日本石油では福留孝介(現カブス)、井口資仁(現ロッテ)、松中信彦(現ソフトバンク)らとともにアトランタ五輪代表に選ばれ、銀メダルを獲得している。

 これで野球部の雰囲気も変わった。
「最初は戸惑いました。でも、あれだけの実績がある人に教えてもらえるのはめったにないチャンス。素直に聞けますし、野球に対する気持ちが変わりました」(四番・星野友太)


立教新座vs秩父 | 高校野球ドットコム

立教新座 星野(左)、山本(右)

もともと打つ能力、投げる能力がある選手たちはそろっている。高林監督が就任し、口酸っぱく言ったのが走塁。次の塁を狙う姿勢についてだった。
「そこだけはかなり言っています。走塁は安定しているので。リードが大きくなったのも、常に先の塁を狙えということです」(高林監督)

 冒頭の大きなリードが取れるようになったのは夏の大会直前と最近のことだが、個々のリード幅は明らかに変わった。
「足が速いと言われていてなぜセーフにならないのか。なぜかを見直した結果、リードが小さいんじゃないかということになりました」(星野)

春の県大会では、敗れた大宮東戦の初回に太田裕介、新城健太とチームでも足の速い方の選手が続けて盗塁失敗。左投手だったとはいえ、決して強肩ではない捕手相手に刺されたことは大きかった。

どうすればセーフになるのか。
意識が変わり、リード幅が変わったことで、積極性も出てくる。

3回には1死一塁から三塁ベンチ前のファールフライで星野が二塁へタッチアップ。惜しくもアウトにはなったものの、前の塁を狙う姿勢を示した。

6回1死三塁では、ファーストゴロで三塁走者の木下駿がゴロ・ゴーで本塁に突入。好守備に阻まれたが、投手ながら積極的な走塁を見せた。
「負担をかけないために、どこに飛んだらどうとかまでは言っていません。まだ『打ったらゴー』だけです。ただ、走塁に投手だからどうとかは関係ありません」(高林監督)

ゴロ・ゴーの意識を徹底するため、フリー打撃の時間を利用して、各塁でスタートの練習をするようになった。この日は二塁からシングルヒットで2人の走者が生還したが、新城が6秒87と甲子園基準の7秒以内をクリア。山本哲也も7秒09とそれほど悪くないタイムだった。盗塁も4つ成功。就任して半年だが、“高林イズム”が徐々に浸透してきている。

実はこの、先の塁を狙う積極的な走塁は高林監督の経験によるところが大きい。
高林監督は日本石油時代、都市対抗でライトを守っているときに昼間の東京ドームでフライを見失ってしまったことがあった。その翌年、今度は自分がセンターフライを打ち上げた際に「自分は見失ったことがある。相手も見失うかもしれない」と全力疾走。ランニング本塁打にした経験がある。どんなときもあきらめず、先の塁を狙う。選手たちにもその体験談を話し、走ることの重要性を説いてきた。
「社会人という上の戦いでもそれだけ一生懸命に走るんだなと。すごいと思いました。監督が見失ったのは聞いてないですけど(笑)」(山本)

まだ高林監督の求める意識、レベルには達していない。
だが、選手たちに走塁への興味が芽生えてきたのは間違いない。これから先、さらに練習し、磨いて、全力疾走まで徹底できるようになれば――。高林監督が選手だった85年夏以来の甲子園も現実味を帯びてくる。
常々「負けるのが嫌い。勝ちたい」と言う高林監督。攻めの走塁で母校を復活に導けるか。今後に注目だ。

(文=田尻賢誉

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.05.03

【滋賀】近江、滋賀学園などが夏のシード権をかけた準々決勝へ!<春季県大会>

2024.05.03

目指すは世界一!代表候補の座を射止めた6人の逸材たち

2024.05.03

【埼玉】春日部共栄の「反撃」なるか、5年ぶりの関東切符狙う<春季県大会>

2024.05.03

【春季埼玉県大会】山村学園の打線が爆発!エース西川も好投!立教新座を一蹴し準決勝進出!

2024.05.03

【春季埼玉県大会】花咲徳栄、投手陣の底上げに成功!中学時代から注目された左腕コンビの活躍でベスト4へ

2024.04.29

【全国各地区春季大会組み合わせ一覧】新戦力が台頭するチームはどこだ!? 新基準バットの及ぼす影響は?

2024.04.28

【滋賀】滋賀学園、彦根総合が初戦を突破<春季県大会>

2024.04.29

【福井】福井工大福井、丹生、坂井、美方が8強入り<春季県大会>

2024.04.28

【静岡】藤枝明誠、日大三島、浜松開誠館、静岡などが8強入り<春季県大会>

2024.04.28

【長野】上田西、東海大諏訪、東京都市大塩尻が初戦突破<春季県大会支部予選>

2024.04.22

【春季愛知県大会】中部大春日丘がビッグイニングで流れを引き寄せ、豊橋中央を退ける

2024.04.21

【愛知】愛工大名電が東邦に敗れ、夏ノーシードに!シード校が決定<春季大会>

2024.04.23

【大学野球部24年度新入生一覧】甲子園のスター、ドラフト候補、プロを選ばなかった高校日本代表はどの大学に入った?

2024.04.21

【兵庫】須磨翔風がコールドで8強入り<春季県大会>

2024.04.22

【鳥取】昨年秋と同じく、米子松蔭と鳥取城北が決勝へ<春季県大会>