如水館vs崇徳
如水館が試合巧者ぶりを発揮!県大会決勝にコマを進める
のらくらと崇徳打線を一点に抑えた藤原睦飛
暑い暑い夏の前哨戦としての春県大会もいよいよ佳境に入っている。広島県ではすでに気温が20度を超えるなど、前段階にふさわしい暑さも備わりだした。春の時点でも強烈な日差しが差し込み、選手たちのコンディションが心配されるが、そこは若さで乗り切ってくれればと思わざるを得ない。
広島県春季大会2回戦は、ともに強豪として名が知られている如水館高校と崇徳高校の一戦だ。如水館は、佃-達川バッテリーを要して広商野球を全国に広めた名将、迫田穆成監督が79才の高齢をもって引退し、新しい体制でのチーム作りを余儀なくされるなか、ここまで勝ち上がってきた芯の強さがある。崇徳はバンカラ男子校の伝統的な強打のチーム。春選抜を全国制覇した全盛期からは遠ざかってしまったが、自由闊達、大胆不敵な魅力ある選手たちがそろっている、広島県下ではある種異色な存在感を放っている高校である。
迫田イズムからの新体制を図る如水館か、大胆に我が道を行く崇徳か。シードが確定していたとしても、おとなしく敗北を受け容れるような選手は1人もいないと断言できるほどの競争激しい強豪同士の戦いが、13時30分に始まった。
先制したのは如水館。一回、先頭打者の松本英士(3年)がポトリとレフト前に運ぶと、すぐさま盗塁し、二塁を陥れた。二番尾崎憲悟(3年)が粘ったうえ三振。三番の箱崎蓮(3年)もサードゴロで、チャンスメイクしたものの先制点を奪えないかと思われたが、四番で主将の山下尚(3年)がセンター前に打ち返し、如水館が先制した。
ジャブを入れられた崇徳はすぐさま追いつこうと躍起になるが、それを止めたのが如水館先発の藤原睦飛(3年)だった。ひょろ長い腕をふらふらさせながら投げる軟投派の藤原のストライクゾーンを広く使う投球術の前に、崇徳の打線が沈黙する。二回は2つの四球で、好機を作るが、そこまで。なかなか本塁が遠い。
しかし、四回。崇徳の三番、名越流星(3年)が藤原の球を思い切りひっぱたき、それがレフトスタンドに飛び込む同点本塁打になる。一気に流れに乗りたい崇徳だが、マイペースに投球を組み立てる藤原の投球の前に後続が凡退し、波に乗れない。
対照的に、エースが好投を続ける如水館は、停滞していた試合の流れをじりじりと手繰り寄せつつあった。如水館・藤原、崇徳・藤田悠汰(3年)の投げ合いが七回まで続いたが、ここで少しだけ試合が動く。七回、如水館の六番打者として打席に立つ藤原がストレートの四球をもらうと、次打者の井口友貴(3年)の打席でランエンドヒットを仕掛ける。サードゴロだったが、進塁。八番小田大輝(3年)がセンター前にはじき返し、一死一塁三塁。
ここで、如水館が取った選択はスクイズ。1点がモノを言うと見たからか、それともここで確実に決めたいという焦りからか、打席に立った九番濱谷はスクイズを失敗。万事休す、と思われたが、少々外し過ぎたのか、崇徳の捕手池上が外したボールを前に弾いてしまう。スタートを切っていた藤原が決死の本塁突入、クロスプレイになったが、判定はセーフ。揺れ動いていた主導権に、如水館の指先が触れた。
円陣を組み、気合を入れる如水館ナイン
そうなると、勢いは如水館の方に一気に傾く。八回、二番の尾崎が二塁打を放ち、無死二塁。これに三番の箱崎がレフトへ単打を打って続く。突き放すチャンス。ここで打席に立つのは先制打を打った山下だったが、止めたバットに当たってしまう中途半端なスイング。結果的に打球が死んだため、一死二、三塁。まだまだチャンスは続く。五番の香本陽向(3年)は、最大警戒の山下を打ち取った安ど感を見たのか、初球にスクイズを敢行。まんまとこれが決まる。スキを完璧につかれたせいか、打球を処理した藤田の動きが緩慢になった。それを見抜いたのか、二塁ランナーの箱崎までもが生還。ツーランスクイズが成功し、崇徳にとどめをさした。
崇徳にはすでに気力もなかったのだろう。特に1点をリードされた終盤は終始淡白な攻撃に終わり、結果4対1で如水館の勝利に終わった。
野球の変遷たるや、長い歴史がある。昭和の黎明期、質が悪く飛ばないボールを使っていたため、選手たちや監督には守備を中心とした野球が求められた。金属バットの登場で平成は一気に筋力トレーニングを中心とした打撃力が求められ、平成年代の強豪チームの共通点は打てるか否かだったように思う。しかし、年号が変わると共に、また高校野球の分岐点が見えはじめ、走る野球。走塁に比重が偏り始めたようにも思う。これから始まる令和の野球はどのようになるのか。どのようなチームが令和最初の県代表になるのか注目が集まる。
(取材・写真=編集部)