猛暑の甲子園、「クーリングタイム」がアルプススタンドも救った
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仙台育英(宮城)と慶應義塾(神奈川)の決勝戦となり、慶應義塾の優勝で終わった「第105回全国高校野球選手権記念大会」(夏の甲子園)。その新たな試みとして、大きな注目を集めたのが「クーリングタイム」だ。5回終了後の10分間、選手らが水分を補給し、冷房や送風機が設置されたベンチ裏のスペースで体を冷やすという、選手の体調を鑑みた施策である。
これまで選手側、運営側など様々な視点から論議が交わされてきた「クーリングタイム」。では、現地甲子園の観客側から体感した「クーリングタイム」とはいかなるものだったのか? 一観客としてアルプススタンドで計6試合を観戦した筆者が、見えたもの・感じたことを率直に記していきたい。
慶応は控え選手が観客に「ミストシャワー」のサービス
〈なお、スタンドの皆さんも通路や日陰で休憩するなど、熱中症にはくれぐれもお気を付けください〉
そんな場内アナウンスを聴きながら、大勢の観客が足早にスタンド下の売店スペース、エアコン設置スペースへ向かう。それが今大会、アルプススタンドにおける5回裏終了時の日常風景であった。
それでも……。今大会大流行した応援の歌に乗せれば「す!すぃ!すいぶ!水分が足らない!」。これがアルプススタンドの現実だ。
午前8時の第1試合開始時から容赦なく降り注ぐ直射日光と、コンクリートの反射光は容赦なく皮膚を焼き、アイスはすぐに溶け、2リットルのミネラルウォーターはあっという間にぬるま湯へ。当然、試合前半で飲み干しても乾きが満たされるわけはない。
加えて母校、ふるさとにゆかりがある高校の応援とあれば、こまめな水分補給をしたとしても、自然に熱を帯びてしまうのも致し方ないところ。今大会は前半、猛暑日が続き体調不良でアルプススタンドを試合中に後にする応援生徒も1人や2人だけではなかった。
賢い暑さ対策を講じてきたチームもあった。慶應義塾は試合の合間合間にユニフォーム姿の控え部員がミストシャワーを観客たちに振り撒くサービスで、大声援をサポート。これには私も大いに助けられた。
17時間の観戦で、熱中症に
しかし、6試合約17時間、灼熱のアルプススタンドで過ごせば、結末は明らかだった。大会8日目ですべての観戦日程を終えるなり、筆者は熱中症を発症してしまったのだ。
この日もこれまで通り、甲子園入り前にシャーベットを口に放り込み、観戦中もミネラルウォーターを適時飲み続けた。もちろんクーリングタイムにはエアコンスペースで休憩したものの、2試合目からおかしくなった。地面がぐるぐると回り始め、呼吸が荒くなりはじめたのだ。意識も朦朧としてきて、試合が終わったあとの記憶は曖昧だ。ちなみにこの8月13日、神戸市の最高気温は36.8℃であった。
もし「クーリングタイム」がなかったとしたら、私はもっと早く倒れていたことだろう。クーリングタイムは選手側ばかりでなく、観客側にも必要不可欠な時間であった。
アルプススタンドからでもわかった「選手たちの異変」
ところで、アルプススタンドは選手の動きが一望できる格好の空間である。特に中段から上に観戦場所を構えると、内外野のポジショニングなどが一目瞭然となり、各校の戦術面がよく理解できるのだ。今大会はグラウンドから少し離れたこの場所からでも選手たちの異変を感じ取ることができた。
足の変調を感じたのか、試合前半から足を伸ばす仕草をする外野手。本来の脚力であれば抜かれていないはずなのに、足が動かず、たやすく抜かれる右中間、左中間。ステップがおぼつかず、悪送球してしまう内野手……。こうしたケースは数多くあった。猛暑の影響であることは、言うまでもないだろう。
2回戦で智辯学園(奈良)に敗れ、地元徳島に戻った後、電話取材に応じてくれた徳島商・森影 浩章監督が語る。
「(2回戦の)智辯学園戦は大変でした。試合中、キャッチャーの真鍋 成憧(3年)はリードが満足にできないほど、熱さに苦しんでいました。智辯学園は2巡目からはしっかり、森 煌誠(3年)のボールに合わせてきていたので、本当はリードに変化を与えたかったんですが、それすらできなかったほどです。試合後には複数の発熱者も出ました。ウチは徳島大会から僅差の試合が続いていたこともあって、選手の疲労が溜まっている状態だった。その中であの炎天下での試合は限界でした」
実際、徳島大会で最速149キロを出しながら、甲子園では147キロに留まった徳島商右腕・森をはじめ、この甲子園でベストパフォーマンスを出せた選手は例年より少ない印象も拭えない。選手たちの健康を守る観点からも、ベストパフォーマンスを引き出す観点からも、さらなる熱さ対策は来年以降必須と言えるだろう。
クーリングタイムの回数を増やすべき
では、具体的に何をするべきか?一案として提示したいのがここ数年、徳島大会などいくつかの地方大会で導入されている3回終了時、7回終了時の「給水タイム」の採用である。今大会のクーリングタイムを2回にわけて行うというものだ。
徳島大会でいえば、3回と7回終了時に5分ずつの給水タイムを導入。これにより以前より格段に体調不良に陥る選手は減り、試合自体のクオリティーも上がった。この2年間、徳島県には140キロ以上を投げる投手が10人以上現れているが、これも2度の給水タイム導入と無縁ではないだろう。
恐らく来年以降もこの酷暑との闘いは避けられない。限られた日程と天候、選手たち、観衆の体調管理を天秤にかけながら、日々頭を悩ませる大会関係者の皆さまの尽力には心から敬意を表しつつ、より多くの方々に応援して頂ける甲子園大会への歩みをもう一歩進めてほしい。
取材・文 寺下友徳