Interview

木更津総合時代は高校日本代表も経験。野尻幸輝(法政大)が振り返る五島監督との高校3年間【前編】

2022.09.08

 9月に入り、各地で大学野球の秋季リーグがスタート。9月10日から東京六大学が開幕するが、ラストイヤーでプロ入りを狙うスラッガーがいる。

 それが法政大の野尻幸輝外野手(4年=木更津総合)だ。高校時代は、1年春からベンチ入りし、2年夏、3年夏と2度の甲子園出場を経験。強靭な肉体を生かしたパワフルな打撃を武器に、高校通算21本塁打をマークした。投手としても140キロ前半の速球を投げ込み、最後の夏は投打で躍動した。さらに高校日本代表にも選ばれた。

 法政大でも順調にその素質を伸ばしている。今回はそんな野尻の野球人生について振り返っていきたい。

中学時代は通算本塁打20本超えで二塁送球最速1.89秒 東海地区屈指の強肩捕手は、なぜ千葉の木更津総合に進んだのか

木更津総合時代は高校日本代表も経験。野尻幸輝(法政大)が振り返る五島監督との高校3年間【前編】 | 高校野球ドットコム
野尻幸輝(法政大)

 取材日に現れた野尻は、何もかも昔と変わらず健在だった。178センチ、92キロの体は、ガッシリとした体格をした選手が多い法政大の選手の中でも明らかに抜けている。そして打球速度が優れている。同校ではフリー打撃の時にラプソードを使い、打球速度を計測する。雨天練習場だと足場が軟らかいため、多少、打球速度が落ちて、主力選手は135キロ〜145キロ前後だが、野尻の場合は、145キロ〜155キロ。グラウンドで測ると、150キロ後半〜160キロ前半は当たり前で、ジャストミートした時は170キロを出すという。

 顔つきからも意志の強さが伝わる。ドラフト候補として注目すべきポテンシャルは備わっているだろう。

 岐阜県・山県市出身の野尻は小学校1年生から野球を始めた。いろいろなポジションを経験したが、小学校から中学校までは捕手として活躍。当時は捕手の面白さを感じていた。
「当時、オリックスでプレーしていた伊藤光捕手(現・DeNA)などに憧れていました。
伊藤選手の所作がかっこいいなと思っていて、スローイングの形も好きでした」

 関ボーイズでは4番捕手として活躍。さらに中日本選抜でも4番打者を務め、中学では通算20本塁打を超えていた。体全体を使ったパワフルなスイングが代名詞だが、本人曰く力任せに振っているわけではないという。
「自分の中では力任せで振るというよりは、体全体を使ってスイングすることを意識していました。それが自然と周りからフルスイングをしているように見えていたと思います」

 もともと体は大きく、大学に入るまでウエートトレーニングは一切していない。
「とにかく食べること、走ること、打つこと、投げることという感じでした。」

 

 捕手としても二塁送球1.89秒をマークする強肩として注目され、県外の強豪私学から多く誘われた。なかなか決められなかったが、木更津総合へ入学するきっかけは五島監督の人柄に惹かれたことが大きかったという。

「五島監督が岐阜の出身の方で、自分が高校選びで迷っていた時に、その話を聞いた五島監督がすぐ岐阜に飛んできてくれて、喫茶店で話す1時間のために来てくれて、そこで話して、この監督と一緒にやれば必ず上達できると思ったので、木更津総合に決めました。自分の中でも迷っていて、五島監督の熱意に惹かれました。」

 こうして野尻は岐阜を出て、千葉の強豪・木更津総合に進学することを決めた。

[page_break:不調を乗り越え、最後の夏は投打の柱として甲子園へ]

不調を乗り越え、最後の夏は投打の柱として甲子園へ

木更津総合時代は高校日本代表も経験。野尻幸輝(法政大)が振り返る五島監督との高校3年間【前編】 | 高校野球ドットコム
野尻幸輝(法政大)

 入学した野尻は捕手ではなく、打力の高さ、強肩を生かし、外野手へ転向。当時の木更津総合では早川隆久投手(楽天)をリードする大澤翔捕手(オールフロンティア)が守備面で絶対的な存在だった。

「チームとして必要とされるポジション、試合に出場できるのならば、どのポジションでも良かったです」と外野手として1年春の県大会からベンチ入りを果たし、豪快な打撃を見せていく。順調なスタートを切ったかのように見えたが、高校野球で対戦する投手は、中学で対戦してきた投手と比べてもハイレベルだった。思うような打撃ができない日々が続いた。

「最初はうまく行くことが多くて、1年の春から5番を打たせてもらって、ヒットも何本か打ちましたが、そこから高校の壁にぶつかって、いろいろうまくいかなくなっていきました」

1年夏は千葉大会でベンチ入りも、甲子園ではベンチを外れ、悔しい思いを味わった。そこからベンチ入りし、スタメン起用のたびに強打を発揮したが、満足の行く結果を残せない。悩む野尻を奮い立たせたのが五島監督だった。

「調子の波はありました。ただ五島監督はずっと使い続けてくれて、自分のことを叱ってくれて、その中でやらないといけないという自覚はかなり芽生えました」

打撃が良くなったのは3年生からだ。

「高校3年生の春の時に進路で迷っていて、その時にプロに行きたいという風に五島監督に伝えたら、大学でやった方がいいと言われて、自分の立場もまだまだでしたので、誰よりも練習して朝一番にいったり、練習は最後までして帰る生活を夏まで続けて、その期間に一気に向上しました」

 練習中で大事にしてきたのが、自分の考えをしっかりと体現した打撃をすることだった。

「練習では、踏み込んで自分の感覚と実際の打撃をすり合わせることが大切で、自分のやりたいことを体現できるのが大切だと思っていたので、できないではなく『まだできてない』という感覚で、できるようにしていきました」

 強打を思う存分に発揮し、最後の夏では、東千葉大会準決勝・東海大市原望洋戦でサイクルヒットを達成する。達成の瞬間は自分からでは気づかなかったと振り返る。
「サイクルヒットの時は気づいていなくて、セカンドベース上で、対戦相手のショートに言われた時に気付きました」

 圧倒的な実力で東千葉大会を勝ち上がり、木更津総合は3年連続の夏の甲子園出場を決めた。

[page_break:投打の柱として甲子園ベスト16、高校日本代表にも選ばれ、最後の夏は濃密な時間に]

投打の柱として甲子園ベスト16、高校日本代表にも選ばれ、最後の夏は濃密な時間に

 3年夏はレギュラーとして甲子園出場を決めた。主軸打者ではなく、3年春から投手として活躍することも多くなり、二刀流として注目された。甲子園初戦の敦賀気比(福井)戦で、4打数2安打の活躍を見せ、投げては7.2回を投げて、1失点の力投。続く2回戦の興南(沖縄)戦では5打数1安打に終わったが、投手としては7.1回無失点の好投を見せ、ベスト16入りした。
3回戦で下関国際に敗れ、ベスト16止まりとなったが、投打で活躍を見せた。最後の夏の甲子園について野尻はこう振り返る。
「甲子園は、最高の舞台でした。ただ、自分がチームを勝たせたいという自覚を持って臨んだ甲子園でベスト16で負けてしまいました。

 もう1回勝つことができれば、国体に出場することができたので、もう少し仲間と野球ができる環境を作ることができたのですが、自分の都合で最後投げられなくて、申し訳なさと悔しさが残りました」

 肘を痛め、3回戦では登板できなかったことを悔やんでいた。

 「県大会の決勝で肘を痛めてしまって、甲子園では2試合に登板したのですが、優勝を目指すためには自分がずっと投げるわけにはいかないと言われて、自分自身も限界を超えそうだったので、そこは肘を管理してくれた監督さんに感謝しています」

 それでも甲子園で魅せた投打のインパクトは十分だった。高校日本代表入りし、同校では3年連続の代表選出となった。

 高校日本代表での期間は「早川隆久(楽天)さん、山下輝さん(ヤクルト)と偉大な先輩たちが代表で実績を築き上げたからこそ経験させていただきました。とても楽しく、そして、とても良い経験をさせていただきました」と振り返る。その後、プロや大学のトップレベルの選手たちとプレーできていることについて、喜びを感じていた。
「トップレベルの環境でずっとやりたい思っていたので、場所が整って、自分がやりたい野球ができて、最高な時間でした」

 この舞台でも投打ともに活躍。卒業後は「東京六大学でやりたいと思っていたので、その中で法政という名門で磨きたいと思っていました」と選り抜きの高校球児しか選ばれない法政大の特別推薦入学試験に合格し、法政大で目標のプロ入りへ向けて実力を磨くことになった。

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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