前橋育英にコールド勝ち 県内屈指の進学校・太田(群馬)の大躍進の裏側
7月10日より開幕する群馬大会。シード校は8チームとなっているが、そのうちの5校が公立校。選抜に出場した健大高崎はシード権を掴んだが、前橋育英や樹徳、そして桐生第一とした強豪私学はノーシードに回っており、群馬県内は群雄割拠にあるといっていい。
そんな群馬県内では偏差値68の進学校として知られ、春は前橋育英からコールドで勝利してベスト4入り。夏をシード校として迎えることで多くの注目を集めているチームが、県立太田だ。
公立校の強みを生かした練習スタイル
太田のキャッチボールの様子
甲子園での優勝実績もある強豪・前橋育英にコールド勝ちするなど、26年ぶりのベスト4進出。太田は夏に向けて弾みを付ける結果を春の大会で残した。ここまで勝ち上がれた背景には何があったのか。その答えは、指揮官であり、同校OBの岡田監督の口から出てきた。
「秋に負けた常磐に勝利したことで、それまでやってきたことが間違いなかったと自信を持てたことが大きくて。チーム内で化学変化が起きたことで、前橋育英戦に繋がったと思います」
春は4強入りしているものの、秋は県大会1回戦で同じ太田市内の常磐に5対10で敗れていた太田。そんなチームがここまでどんな道のりを歩んだのか。
公立校である太田は、新型コロナウイルスの影響で、昨年6月から練習を再開。まもなく夏の大会に入ったことで、1年生は技術だけではなく、チームのルールや礼儀から教えるところから始まった。また澤田大和主将など経験者がいたものの、チームとしての結束には欠けていた。
そうした状態であれば、練習量を増やして時間をかけてチームをまとめ、個人のスキルを伸ばす。こうした練習形態を考えるところだが、太田が選んだ方法は真逆。選手たちから時間を短縮することを提案したという。
「練習量や環境では、公立校は私立に勝つことが出来ません。ただ、頭を使ったプレーや短い練習時間の質を高めること。やりたいことを削るのではなく、圧縮させる。そういった工夫1つでいろんなことが出来るのが公立メリットだと思って、夏休みもやりました」(澤田主将)
[page_break:進学校・太田の強さは自主性を育むことにある]進学校・太田の強さは自主性を育むことにある
ノックを受ける太田の選手たち
公立の強みを生かそうと、澤田主将をはじめとした選手たちが主体的に考えて、岡田監督に提案した。それを岡田監督が採用して夏休みは午前中に練習。残りの時間を個人練習に充てて、1人で使える時間を増やした。
それだけではなく、取材日を含めて選手たちで普段から練習メニューを決めるという。自分たちで練習テーマを決めて、それに即したメニューを岡田監督に提案するそうだ。どうして岡田監督は選手たちの主体性を尊重するのだろうか。
「たしかに私の現役時代は、こうした雰囲気ではありませんでした。しかし、前任の利根実業で10年間指揮を執っている時に変わりました。実業高校ですので、高校を卒業したらすぐに社会人になる選手もなかにはいたんです。だから自分で考えて行動ができる生徒に育てる必要がありました。そうしたら野球でも結果を残すようになったので、母校・太田に戻ってきても継続しているんですよ」
人としての成長が、野球人としての成長に繋がる。そう信じて岡田監督は選手たちの主体性を尊重したが、夏休みは上手くいかなかった。学校から課せられた宿題など個人練習の時間を上手く活用できず、大会では「自滅でした」と常磐の前に5対10で敗れた。
普段から練習試合もやる間柄で、常磐の強さは監督も選手も十分理解していた。だからこそより課題は浮き彫りになり、「準備不足で半信半疑のまま大会に入って、試合では普段の力を出し切れなかった」と岡田監督は当時のチーム状態を的確に指摘する。
この反省を踏まえて、練習から試合を想定したプレーや、基本動作の反復など、土台作りと試合で普段通りのプレーを発揮するべく練習を重ねた。もちろん、選手たちがメニューを設定するなど、主体性を維持したまま活動は続いたが、新チームから課題になっていたチーム力はどう磨いたのか。そこには選手と監督たちの間で交わされるノートが鍵を握っていた。
(取材=田中 裕毅)