鹿児島城西vs鹿児島商
鹿児島城西が逃げ切り2年ぶりV!継投策に元プロ監督らしさ
鹿児島城西・津波辰弥
大会序盤は早めの梅雨入りに泣かされた本大会だったが、準々決勝以降は梅雨の中休みの晴天に恵まれ、順調に日程を消化できた。この夏から準々決勝以降が土日開催となるのをにらんで、各チームの調整、大会の運営共に絶好のシミュレーションができた。
決勝の顔合わせは鹿児島城西と鹿児島商。それぞれ準決勝で鹿児島実、鹿屋中央と春の鹿児島大会決勝に勝ち進んだシード勢に競り勝っての決勝進出だった。どちらも打力は県下トップクラスにありながら、柱となる投手不在でこれまで思い描くような結果を得られずにいたが、この大会では「継投」に活路を見出し、鹿児島城西は2年ぶり、鹿児島商は9年ぶりに決勝進出を決めた。
鹿児島城西は2年生左腕・津波辰弥が先発。5、6回まで試合を作り、残りは1イニングずつ細かく投手をつないでいく。高校野球ではあまりお目にかからない継投だが、元プロ野球選手の佐々木誠監督らしい斬新な発想がうかがえる。
鹿児島商は三浦颯真(2年)、伊地知塁斗(3年)、坂口竜也(3年)の3本柱を調子、相手の状況、試合の流れの中で自在に使い分ける。どちらも継投のやり方はそれぞれだが、球数制限が導入され、1人のエースだけでは勝ち上がるのが困難になっていく中、甲子園出場を目指すチームとしては、それぞれの選手の能力、適性を見極めながら、投手起用を試行錯誤しているのがうかがえる。
鹿児島城西・津波の先発は2回戦・加治木戦をのぞいて4戦目。左のサイドよりはやや上、スリークオーターよりはやや下の変則フォームで、直球の最速は125キロ程度と決して速くはない。制球が安定しており、手元で微妙に変化するボールで打者の狙いを外し、打たせて取るのが身上だ。この日も6回二死まで1人の走者も出さないパーフェクト投球。6回までわずか64球のテンポの良い省エネ投法で0封し、「先発」の役目を果たした。遊撃手・乗田元気主将(3年)が再三の好守でピンチを救うなど、好投が守備のリズムも作った。
鹿児島城西2点目
鹿児島商は右サイドハンドの坂口が先発。初戦の伊集院戦に続いて2度目となる。こちらは直球の最速は120キロに届くかどうかだが、時折100キロを下回るスローボールが威力を発揮し、緩急差が生命線。7安打を浴び、初回はエラー、3回はタイムリーで失点したが、各イニングを最少失点以下で切り抜けた。強打が自慢の鹿児島城西打線が狙い球を外され、体勢を崩す場面を多く見かけた。ここまで1イニングに大量得点を挙げてきた鹿児島城西に対し、長打を許さず、6回2失点は先発としてこちらも上出来だった。
試合の流れは終盤勝負の様相を呈す。先に「次の1点」を挙げたのは鹿児島城西だった。
7回裏、先頭の7番・鍛冶屋成希(3年)がこの試合チーム初の長打となるレフトオーバー二塁打で出塁。1番・林誠人(3年)のライト前タイムリーで待望の追加点を得た。
7回まで散発2安打と打ちあぐねた鹿児島商だったが8回、一死一塁から相手の連続エラーで反撃の口火となる1点を手にする。
9回表、簡単に二死となったが、代打・山口煌士郎(2年)の内野安打を皮切りに3連打。9番・金川翔(3年)のライト前タイムリーで1点差とした。なお一二塁と一打同点、逆転のチャンスだったが、最後は三振で打ち取られゲームセット。
鹿児島城西が2年ぶり3回目となる「夏の前哨戦」を制した。終盤、両チームとも細かく投手をつないだ中、大きく試合が動き、流れが二転三転した。夏前最後の県大会はこの2チームが頂点を争ったが、どちらも決して盤石な勝ち方ができたわけではない。これから夏に向けて1カ月あまり、絶対的な優勝候補はなく、優勝争いが混戦になることは間違いないと確信できた大会だった。
(文=政 純一郎)