Interview

自粛期間をプラスにした153キロ右腕・山下舜平大(福岡大大濠)をドラフト上位候補に押し上げた急成長の裏側【後編】

2020.10.23

 今年の高校生投手でトップクラスの評価を受けているのが山下舜平大福岡大大濠)だ。

 189センチの長身から振り下ろすアベレージで140キロ後半を記録する圧倒的なストレートは角度があり、ブレーキの利いた精度の高いパワーカーブ。この夏の独自大会、甲子園で開催された練習会では高い潜在能力をこれでもかという程見せつけた。

 この1年でドラフト1位候補に挙がるまでとなった山下は一体どのような思考、鍛錬があって昇り詰めることができたのだろうか。後編の今回は、球速アップの裏側に迫った。

地道な基礎固めに終始した活動自粛期間

自粛期間をプラスにした153キロ右腕・山下舜平大(福岡大大濠)をドラフト上位候補に押し上げた急成長の裏側【後編】 | 高校野球ドットコム
山下舜平大(福岡大大濠)

 「速いカーブ」という大きな武器を手に入れた山下だが、それでも最大の武器はやはり迫力満点のストレートだ。

 ストレートのターニングポイントは活動自粛期間にある。

 入学時には78キロほどだった体重は、春先には93キロにまで増加して体作りは順調に進んでいた。
しかし、146キロを秋に記録して以降はなかなか球速が伸びず、チームメイトの山城航太郎が春先の紅白戦で149キロを記録する横で焦りを感じていた。

 当時の心境を「とても悔しかった」と口にするが、新型コロナウイルスの感染拡大により思わぬところでチームは活動自粛に入る。
 山下は危機感を持って日々を過ごしたと振り返る。

 「日頃から基本が大事だと言われていました。特別なことをした訳ではなく、股割りや下半身を意識したシャドーピッチングをよくやりました。
キャッチボールの中でも股割りを意識して、トレーニングも器具を使うことが出来なかったので家の近くの階段でダッシュをずっとやっていました」

 地道な基礎固めに終始して、活動自粛の期間を過ごしたという山下。体重も増やすよりも維持することに努め、下手に発想を変えてチャンスと捉えるよりも、雌伏するように日々を過ごした。
 そしてその効果は、活動開始直後に目に見えて表れた。

 活動再開後、初めてとなる練習試合で何と153キロを記録。
 カーブにもより一層磨きがかかり、福岡独自大会では東福岡戦で、7回12奪三振の快投を見せ、決勝戦の福岡戦では延長になっても150キロ台をマークするなど、ポテンシャルの高さを存分に示し、一気にドラフト上位候補へと名乗りを上げたのだ。

 この急成長の要因を、山下はフォームに「間」を作ることが出来るようになったためと分析する。
 「横向きで捕手を見る時間が、少し長くなったかなと感じています。下半身主導のシャドーピッチングを続けたことが、結果的に『間』を作ることに繋がったのだと思います」

 また八木監督も山下の成長の要因について、「それもももちろんなんですけれども、力強さが増したというのが一番です。

 力を溜められる時間。そういったところが「間」だと思うんですけれども力をうまくボールに乗せれるようになってきたというのは確かに感じます」

 山下の急成長を目の当たりにして、八木監督はプロ志望届を提出することを提案。山下本人は「それ以前からプロは目指していた」と笑って振り返るが、他人から認めてもらえたことはプロ入りに向けて大きな自信になった。

[page_break:大谷翔平、ダルビッシュのようなスケールの大きい投手になりたい]

大谷翔平、ダルビッシュのようなスケールの大きい投手になりたい

自粛期間をプラスにした153キロ右腕・山下舜平大(福岡大大濠)をドラフト上位候補に押し上げた急成長の裏側【後編】 | 高校野球ドットコム
山下舜平大(福岡大大濠)

 さらに8月29日、30日に開催された練習会にも参加し、打者5人相手に3奪三振の好投を見せた。

 「プロの方々にアピールするというのはもちろんですけれども、レベルの高い選手達が集まっていましたので、自分も素晴らしい選手とコミュニケーションが取れて、他校の練習の取り組みなどが聞けて、非常に良い機会でした。
 何より自分が行けなかった甲子園で開催してくださったので、とても良い場所で野球ができたなと終わった後に感じました」

 

 こうして評価がだんだん上がっている山下だが、最後の夏の決勝戦でサヨナラ負けしたことは、自分の課題を再認識する試合だったと振り返る。

 「やはりまだまだ勝てる投手じゃないなと改めて感じさせられましたし、大会を通じて色々と課題がありましたので、今はその課題を克服しようと思って練習しています」

 ドラフトも近づいてきたが、プロ入りが実現できれば、いろんなポジションを経験したいと思っている。

 「先発をしたいという気持ちはありますけれども、こだわりは特にありません。自分としてはいろんなポジションを経験したいので先発も中継ぎも色々経験できた方がいいかなという感じています。将来的にはなんでもこなせるようなピッチャーになりたいと思っています」

 また最速153キロのストレートに注目が集まっているが、もちろん速球にはこだわりがある。

 「ストレートの球速にかなりこだわっているので、やはりスピードボールを投げ込めるピッチャーにとても魅力を感じています。やはり、MLBで活躍する大谷翔平花巻東出身)選手、ダルビッシュ有(東北出身)選手の2人は小さい頃からの憧れで、自分もすごいボールを投げてメジャーで活躍できるようなレベルの高いところで活躍できるようになりたいと思います 」

 山下の壮大な夢に、八木監督は、山下には大きなスケールのまま世界を目指して欲しいと期待を寄せる。

 「プロ野球に入ることは、野球やってる者にとっては大きな目標だと思いますが、彼には入ることで満足するのではなく、もっと大きな夢を持って欲しいと思います。
 まだまだ伸びしろもあると思いますので、世界でも活躍するピッチャーになって欲しいと思います」

 無論、山下自身もそのつもりだ。

 地元・福岡ソフトバンクホークスの千賀滉大投手(蒲郡出身)のように、世界を相手に戦っていける選手を目指す。
 無限の可能性を秘めた右腕が、これからどこまで羽ばたくのか目が離せない。

(記事=栗崎祐太朗)

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.07.26

新潟産大附が歓喜の甲子園初出場!帝京長岡・プロ注目右腕攻略に成功【2024夏の甲子園】

2024.07.27

昨夏甲子園4強・神村学園が連覇かけ鹿児島決勝に挑む!樟南は21度目の甲子園狙う【全国実力校・27日の試合予定】

2024.07.26

名将の夏終わる...春日部共栄・本多監督の最後の夏はベスト4で敗れる【2024夏の甲子園】

2024.07.26

報徳学園が3点差をひっくり返す!サヨナラ勝ちで春夏連続甲子園に王手!【2024夏の甲子園】

2024.07.26

「岐阜県のレベルが上がっている」県岐商が2年ぶりの決勝進出も、岐阜各務野の戦いぶりを名将・鍛治舎監督が称賛!【24年夏・岐阜大会】

2024.07.25

まさかの7回コールドで敗戦...滋賀大会6連覇を目指した近江が準決勝で涙【2024夏の甲子園】

2024.07.24

享栄、愛工大名電を破った名古屋たちばなの快進撃は準々決勝で終わる...名門・中京大中京に屈する

2024.07.21

【中国地区ベスト8以上進出校 7・20】米子松蔭が4強、岡山、島根、山口では続々と8強に名乗り、岡山の創志学園は敗退【2024夏の甲子園】

2024.07.21

愛工大名電が今夏3度目のコールド勝ちでV4に前進!長野では甲子園出場37回の名門が敗退【東海・北信越実力校20日の試合結果】

2024.07.21

名将・門馬監督率いる創志学園が3回戦で完敗…2連覇狙う履正社は快勝【近畿・中国実力校20日の試合結果】

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.07.08

令和の高校野球の象徴?!SJBで都立江戸川は東東京大会の上位進出を狙う

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.27

高知・土佐高校に大型サイド右腕現る! 186cm酒井晶央が35年ぶりに名門を聖地へ導く!

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」