Column

アメリカと日本の高校球児の違いは?横浜隼人に密着したニューヨーク在住の映像監督に聞く

2020.10.02

 10代の頃は、アメリカのベーブルースリーグに所属し、自身も野球少年として白球を追いかけてきたマイケル・クロメットさん。現在は、アメリカで映像監督の仕事をしています。

 2018年にニューヨーク在住の山崎エマ監督の『甲子園 フィールド・オブ・ドリームス』の撮影で、約半年、日本の高校野球チームを追い続けました。

 神奈川県の強豪・横浜隼人高校と、岩手県の花巻東高校の練習を撮影し続けたマイケル・クロメット監督が、日本の高校野球から学んだこと。そして、アメリカの高校野球との違いについて、今回おはなしいただきました。

アメリカと日本の高校球児の違いは?横浜隼人に密着したニューヨーク在住の映像監督に聞く | 高校野球ドットコム
マイケル・クロメット監督

―― 撮影初日、横浜隼人高校のグラウンドに入って、驚いたことは何でしたか?

マイケル監督:全員が坊主で、同じ格好で、同じことを指示通りに動いている光景に驚きました。圧倒的な「統一感」は、僕の想像をこえるものでした。

―― 映画では、横浜隼人の水谷監督や花巻東の佐々木監督と、そして部員たちとの関係性が丁寧に描かれていますが、日本の高校野球のような「監督と選手」の関係性は、アメリカでも同じようにあるのでしょうか?

マイケル監督:アメリカでは、日本のような「監督像」はないですね。もっといろんな関係性があって、僕の場合は、監督から「お前は打つのだけが取り柄だけど、走るのはセンスがないな」と厳しく言われたりしていました。日本の場合は、高校野球の監督はこんな感じというのが大体ありますが、アメリカの監督イメージは、こんな感じというのはなくて、もっと幅広いです。

―― チームメイトとの関係性はどうですか?

マイケル監督:これも日本の高校野球とは全く違います。アメリカの場合は、競争社会なので、一緒に夢に向かってというよりも、「アイツより打てなきゃ4番になれない」とか「あそこのチームのアイツよりも打てるようにならないと」とか、そうやってコーチからも言われながら鍛えられてきました。

 でも、日本の高校野球の場合は、戦うのは「アイツ」ではなくて、「自分たち」自身と戦っているんですよね。チームメイトと一緒に、「より良い自分たち」になるために戦っているのが素晴らしいと思いました。


アメリカと日本の高校球児の違いは?横浜隼人に密着したニューヨーク在住の映像監督に聞く | 高校野球ドットコム
練習中、綺麗に並べられている横浜隼人ナインの野球用具

―― 高校野球の世界に触れて、新たな発見は他にもありましたか?

マイケル監督:高校野球を通じて、日本の在り方を見た気がします。
自分個人よりも、集団としてチームをよくする。それは今のアメリカ社会とは逆で、アメリカの場合は、個人が活躍することを求められていて、才能がある人や個性がある人は活躍できる社会ではあるけど、それがゆえに、あまり良い方向に行かなくなっている現状があります。

でも日本の場合は、自分ひとりが良くなることよりも、社会全体が良くなるように考えている。それを日本に半年間いた中で、高校野球を通じて分かりました。そういった考えが、高校野球に象徴されていましたね。それは今のアメリカが、日本の高校野球から学べることなんじゃないかなと思いました。

―― 高校球児たちをみていて、多くの気付きもあったのですね。

マイケル監督:そうですね。なにより、高校球児が持っていた素直さには驚きました。素直に、必死に頑張る純粋な姿は、アメリカでは前面に出すことをよしとされません。
アメリカの高校生は「クールでいないといけない」と教えられるんですよね。

僕もそうでしたが、野球も頑張ってやってきても、努力をしていることは隠しながらやらないといけなかった。必死に勉強しても、必死に練習しても、「僕、思い入れなんてないよ!」みたいな態度がよしとされるので。

でも、日本では、純粋に必死に頑張る姿のほうが評価されていました。それはアメリカと真逆の部分でしたね。

―― U18ワールドカップで取材してきたアメリカ代表の選手たちも、とてもクールで、インタビューでも努力についてはあまり口にされませんでした。そういった違いもあったのですね。今回の撮影を通じて、横浜隼人の水谷監督から学んだことは何かありましたか?

マイケル監督:僕の家は野球一家で、おじいちゃんもセミプロで野球をやっていたりしていました。
だけど、横浜隼人では、今まで僕が聞いたことのない野球の哲学がたくさんありました。

とくに、「野球はホームに帰ってくるスポーツだ」という言葉が印象的でした。
アメフトでもバスケでも勝つためには相手を上回る発想が多いけど、野球は振り出しに戻るというか、ホームに帰ってくることを求める。だから、野球って美しいスポーツなんだなっていうことを改めて水谷監督の言葉で気付かされました。それは、他のスポーツにはない部分ですよね。

でも、今、アメリカではアメフトやバスケのように時間を優先して考えてしまっているので、もう一度、原点に戻って、野球の面白さを日本の高校野球を通じて、改めて考えていくべきなんじゃないかなと撮影を通じて感じました。

マイケル監督、貴重なお話ありがとうございました。

今回、マイケルさんが映像監督を務めた映画『甲子園 フィールド・オブ・ドリームス』(山崎エマ監督制作)は、現在、全国各地の劇場で放映中です!

マイケル監督が撮影してきた日本の高校野球の姿を是非、劇場でご覧ください。

映画公式サイトはこちら→『甲子園 フィールド・オブ・ドリームス』

アメリカと日本の高校球児の違いは?横浜隼人に密着したニューヨーク在住の映像監督に聞く | 高校野球ドットコム
アメリカと日本の高校球児の違いは?横浜隼人に密着したニューヨーク在住の映像監督に聞く | 高校野球ドットコム
アメリカと日本の高校球児の違いは?横浜隼人に密着したニューヨーク在住の映像監督に聞く | 高校野球ドットコム
アメリカと日本の高校球児の違いは?横浜隼人に密着したニューヨーク在住の映像監督に聞く | 高校野球ドットコム
アメリカと日本の高校球児の違いは?横浜隼人に密着したニューヨーク在住の映像監督に聞く | 高校野球ドットコム
アメリカと日本の高校球児の違いは?横浜隼人に密着したニューヨーク在住の映像監督に聞く | 高校野球ドットコム

(取材=安田 未由

関連記事
美しいフォームは天性のもの 巨人・井上温大(前橋商出身)を飛躍させた2つの転機とは。
【日程・結果一覧】秋季関東地区高等学校野球大会 群馬県予選
【トーナメント表】健大高崎や前橋育英など秋季群馬県大会の組み合わせは?

この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

関連記事

応援メッセージを投稿

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

RANKING

人気記事

2024.07.26

新潟産大附が歓喜の甲子園初出場!帝京長岡・プロ注目右腕攻略に成功【2024夏の甲子園】

2024.07.27

昨夏甲子園4強・神村学園が連覇かけ鹿児島決勝に挑む!樟南は21度目の甲子園狙う【全国実力校・27日の試合予定】

2024.07.26

名将の夏終わる...春日部共栄・本多監督の最後の夏はベスト4で敗れる【2024夏の甲子園】

2024.07.26

報徳学園が3点差をひっくり返す!サヨナラ勝ちで春夏連続甲子園に王手!【2024夏の甲子園】

2024.07.26

「岐阜県のレベルが上がっている」県岐商が2年ぶりの決勝進出も、岐阜各務野の戦いぶりを名将・鍛治舎監督が称賛!【24年夏・岐阜大会】

2024.07.25

まさかの7回コールドで敗戦...滋賀大会6連覇を目指した近江が準決勝で涙【2024夏の甲子園】

2024.07.24

享栄、愛工大名電を破った名古屋たちばなの快進撃は準々決勝で終わる...名門・中京大中京に屈する

2024.07.21

【中国地区ベスト8以上進出校 7・20】米子松蔭が4強、岡山、島根、山口では続々と8強に名乗り、岡山の創志学園は敗退【2024夏の甲子園】

2024.07.21

愛工大名電が今夏3度目のコールド勝ちでV4に前進!長野では甲子園出場37回の名門が敗退【東海・北信越実力校20日の試合結果】

2024.07.21

名将・門馬監督率いる創志学園が3回戦で完敗…2連覇狙う履正社は快勝【近畿・中国実力校20日の試合結果】

2024.06.30

明徳義塾・馬淵監督が閉校する母校のために記念試合を企画! 明徳フルメンバーが参加「いつかは母校の指導をしてみたかった」

2024.07.08

令和の高校野球の象徴?!SJBで都立江戸川は東東京大会の上位進出を狙う

2024.06.28

元高校球児が動作解析アプリ「ForceSense」をリリース! 自分とプロ選手との比較も可能に!「データの”可視化”だけでなく”活用”を」

2024.06.27

高知・土佐高校に大型サイド右腕現る! 186cm酒井晶央が35年ぶりに名門を聖地へ導く!

2024.06.28

最下位、優勝、チーム崩壊……波乱万丈のプロ野球人生を送った阪神V戦士「野球指導者となって伝えたいこと」