2011年から甲子園初出場を果たし、わずか10年ほどで過去6回出場の健大高崎。そのうちベスト4は1回、ベスト8は2回。通算13勝6敗と高い勝率を誇る。その健大高崎の強さを生んだのは緻密な理論を生んだ機動力野球「機動破壊」だ。その理論は打撃、投球など幅広く踏み込んで行っていることはあまり知られていない。
今回は次々とブームを呼び込む健大高崎を計3回に分けて特集。今回は高校野球のレベルを超えたハイレベルな練習内容に迫っていきます!
午前:アップ~ノックまで
ラダートレーニングに励む選手達
まず青柳博文監督に練習メニューをいただくと、その内容は高校の野球部を超えた練習メニューが用意されていた…。そして練習の意図を指導者陣に聞くと、練習の目的を明確に答えていただいた。
アップ:ラダー×ミニハードル、縄跳び、切り返し系
冬場になると使用する頻度が増えてくるラダーやハードル。メニューはそれほど多くないが、生方啓介コーチが選手たちに常々指摘するのは飛び方。口々に選手たちに「膝を使わない」ことを伝えていた。
「膝を曲げてしまうと力を逃がしてしまうので、地面からの反発力をもらうことが出来ない。また、股関節と膝の動きがアジャストすることが出来ないため、バッティングの時に回転が遅くなってしまいます。そうすると結果として上半身だけが開いてしまい、ドアスイング。そしてボールは詰まるし打球に力を伝えられずに飛ばないんです」
バッティングの動作に繋げるために、アップの段階から体の使い方を覚えさせる。そんな意図を持たせて「膝を使わない」ように飛ぶように指示を出すが、生方コーチの中では他にも明確な狙いをもって取り組ませている。
「シーズン中でもこういったメニューをやっても良いと思っています。とにかくただ単調に練習をするのではなく、様々なメニューを組んで脳に色んな刺激を与えてあげる。そうしてあげることで、脳と神経系が鍛えることが出来るので、結果として反射や反応といった少ない力でプレーをする。自分の体を正確にコントロールして欲しいと思っています」
キャッチボール:30メートル、40メートル(ワンバウンドスロー)、中継プレー
取材日は野手たちの遠投はなかったが、代わりに30メートルではライナー性のボールを投げ、40メートルではワンバウンドで正確に相手に投げる。さらに、中継プレーを想定した6人1組のキャッチボールと、ただ漠然と肩を温めるのではなく実戦を想定しながらキャッチボールをするのが印象的だった。
ノックを受ける健大高崎の選手
ポジション別、シートノック、ケースノック(サインプレーまで)
取材日が初めての実戦的なノックで、主将の戸丸秦吾も「まだまだ課題があります」と反省を口にしていたが、1つ1つのプレーを全員がテキパキ取り組む。こうした緊張感ある練習がチームを強くするのだろうが、気になったのはポジション別。
耳を傾けると、「薬指で探れ」や「受けろ」。さらには「引いてもいいじゃん」と気になるフレーズが飛び交う。ノックを打っていた生方コーチに話を聞くと、深い理論が見えてきた。
「拍手とかがそうだと思うのですが、薬指の辺りで叩きますよね。だからその辺りで捕球をするために、打球を『薬指辺りで探って』あげて、お腹の前にグラブを出させます。
こうしてお腹の前に出してあげると、打球を取ってから受ける=吸収するための間、つまり距離が作れます。ここがあると、ボールを受けながらステップを踏めるので、スムーズに次の動作に移行することが出来ます」
実際にプロ選手の動きを見ていても、次への動きはスムーズな選手が多い。生方コーチも「プロとか見てもプレーは速いけど間、ゆとりがある選手は上手いですよね。だから選手たちにもその時間を作ってほしい」と考えているからこそ、スピードの中に間を作れるように選手たちの守備を鍛えている。
[page_break:午後:ロングティー~トレーニングまで]
午後:ロングティー~トレーニングまで
ロングティーをする健大高崎の選手達
ロングティー
数をこなすのではなく球数を設定して各選手がスイングをする。ここで大事なのは骨盤の使い方を確認することにある。
「ロングティーを通じて、骨盤を使ってどうやって遠くの打球を飛ばすのか。また、骨盤を使ってどうやって打球の角度を付けるのか。その動作を覚えさせる、確認をしています」
この骨盤を回すために大事になってくるのが膝。つまり、アップで膝を意識させてきたことがここで活きてくるのだ。
「打球の角度を付けるためにも骨盤を大事にしていて、その骨盤回転させるには膝をあまり曲げないことなんです。曲げてしまうと、膝と股関節がリンクせずに膝だけが回ってしまうんです」
こうした感覚を覚えさせるために、生方コーチは「みぞおちから下が下半身。みぞおちから上を上半身」と伝えて指導することで、開くことなく骨盤を使って回転をさせている。
さらにロングティーに入る前に、生方コーチは選手たちに向けて、耳をしきりに触りながら指導をしているのが目に留まった。話を聞いていても、耳という言葉が聞こえてくる。この真意に迫ると、再び生方コーチから目からうろこの話が飛び出す。
「生理学的に耳の位置でバランスを捕っていると考えられているみたいなんです。耳が塞がっていたり、肩のラインから外れていたりするとバランスを崩しやすいようなんです。だから、トップを入れすぎてしまう選手は耳でバランスをとる感覚がないので、バランスを崩していると思うんです」
後日調べてみると、耳にある三半規管が前後左右だけではなく回転といった、三次元までの敏感に反応している。そのため目によるバランス以上に大事な役割を担っているそうだ。その耳を意識してバッティングをすることで、バランスを保ったままスイングをさせようとしていたのだ。
また「前の目で見ろ」という指示も聞こえてきたが、「後ろの目で見ようとしてしまうと、しっかりボールを見ようとしてしまい突っ込んだり開いたりしまう。ですので、前の目で見た方がしっかりボールとの距離を作れる」とわかりやすく解説してもらえた。
バッティング
ここで驚きなのは、ピッチャーとバッターの距離が5メートルであること。スナップスローで正面から来るボールを打者は打たなければならない。「メジャーとかで近い距離で正面から速いボールを打つらしい」というが、実際にやると非常に高度な練習。この練習の効果を生方コーチがこのように語る。
「5メートルくらい距離から反応でボールを判断しないと、好投手に対応ができないんです。そのための練習なのですが、これができて突っ込むことがなければ、遅いボールや18.44メートルでも時間を感じながら対応ができると思うんです」
5メートルの距離だと、反応ができても対応するのは難しい。しかし生方コーチは「ロングティーと同じで、逆方向にはフェンス直撃。引っ張るなら骨盤で角度を付けて自分のスイングをしてほしいと思っています。そうしないと実戦には繋がらないですから」とあくまで試合で戦うための準備段階だと語る。
順番を待つ健大高崎の選手達
フリーバッティング
今度は通常のフリーバッティング。各選手がフルスイングで気持ち良く打球を飛ばしているのが印象的で、打者の調子が上向きにあることが伺える。一方で「もっとバットを振れる」と指摘を飛ばす声もある。また、思い切り反り返ったスイングをしている選手もおり、「大振りではないか」と心配をしてしまう。だがそういったモノにも理由はある。
「イチローさんとかは冬場や試合前のバッティングって、最初はガンガンさく越えをしていくんですよね。そこから調整で逆方向に打つと思うんですが、そこから勉強してとにかく選手にはフルスイングをさせます。そうすれば逆方向やエンドランで当てに行くのが簡単になります。
逆にバットを振れない選手だと当てに行くことしかできないので、とにかくフルイングをさせてそこから、力加減を調整できるようにさせています」
シートバッティング
この日は、橋本拳汰、今仲 泰一、朝井優太、下慎之介の主力投手相手にバッティング。初の実戦形式に投手陣には課題が残ったが、打者は橋本脩生などが存在感を示した。また、待っている間に素手でバントのやり方を確認。「吸収するように」やることを意識しながら取り組むなど、隙間時間を無駄にしなかった。
最後はウエイトトレーニングで、選手たちが現在上げられる数値を計測して終了。解説してもらった生方コーチの指導理論1つ1つが理にかなっており、興味深い内容だった。
しかしそれ以上に1日練習に密着して、充実の練習設備、スタッフを含めた練習環境を無駄にしない健大高崎のそつのなさを見ることが出来た。時間単位で組まれた練習メニューや質を求めた練習内容は、プロのキャンプと遜色ない。ここに健大高崎の強さの秘密を見られた。
(取材=河嶋宗一・田中裕毅)
健大高崎の野球部訪問練習メニュー編はここまで。打者育成編・投手管理編を配信予定!また主力選手の単独インタビュー、選抜のキーマンのコラムなど数多くの特集記事を配信予定です!!
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