八戸学院光星vs誉
勝負を分けた初回の攻防
1回表の攻防がすべてだった。誉の先発、左腕の杉本恭一(3年)に対し、八戸学院光星は1番武岡龍世(3年)が死球で出塁、2番がバントで送り、3番近藤遼一(3年)が四球、2死後に5番大江拓輝(3年)が死球で満塁とし、6番下山昂大(3年)が1ストライク後の2球目を振り抜くと打球は左中間に飛び込む満塁ホームランとなり、早々と4点を先制した。
杉本は120キロ台とのストレートに変化球を交え、内・外に揺さぶるコーナーワークに持ち味がある。しかし、この1回は武岡に2ボールから死球、近藤にストレートの四球、大江には初球を死球と、1球もストライクを取れていない。これほどストライクとボールがはっきりしたら打者は好球必打を徹底できる。この1回に杉本が投じた球数は15。プロ野球で最近、ソフトバンクのスアレスが1回に50球を投じて無得点に抑えたことが話題になったが、15球投げただけで4点取られた杉本も逆の意味ですごい。
杉本は5回投げて4死球、2四球を与えているが、三振も6個取っている。その内の4個の勝負球がスライダー。もちろん、キレ味がよかったわけだが、理由はそれだけではない。八戸学院光星各打者の極端なアッパースイングが低めのボールゾーンに沈むスライダーに空振りを繰り返したのである。序盤の制球難がなければ勝てないまでもこれほどの大差の試合にはならなかっただろう。
八戸学院光星の先発、後藤丈海(3年)はストレートが最速142キロを計測したが、ほとんどは130キロ台中盤で、115、6キロのスライダーを交えた内・外の揺さぶりに特徴がある。目立ったのが外角低めのコントロールのよさだ。5回投げて与四死球はゼロ。初回こそ内野手のエラーもあり17球を投じたが、2回から5回は打ち気にはやる誉打線を翻弄、球数42、奪三振1は杉本と真逆である。
誉の攻撃で疑問だったのは0対5で迎えた4回裏だ。先頭の2番手塚陸斗(2年)がレフト前ヒットで出塁したあと3番澤野聖悠(3年)にバントを命じたのだ。澤野は愛知大会でチーム2位の打率.364を記録し、打点7はチームトップ。最も信頼できるポイントゲッターである。愛知大会を8試合戦い、1点差が2試合、2点差が2試合あり、チームの犠打数26は出場校中4位という多さだから、これが誉のやり方なのはわかるが、チーム打率.425、本塁打15を誇る強打の八戸学院光星に立ち向かうには弱腰すぎた。
強打の八戸学院光星でこの日目立ったのは投手の安定感のほうである。青森大会を振り返ると、後藤が投げたのは1試合・1回だけで、2番手の山田怜卓は4試合・7.1回。最も多く投げたのは横山海夏凪(3年)の4試合・15回、次が下山の3試合・10.2回なので、結果だけ見れば八戸学院光星は主力を温存できたことになる。2回戦の智弁学園戦で誰が先発してどのようなピッチングをするのか今から楽しみである。
(記事=小関 順二)
[page_break:試合後のコメントと個人成績] 八戸学院光星が9対0で誉との開幕戦を制した。試合後、八戸学院光星の仲井宗基監督は、
「この試合はなんとしても先攻をとってほしかった。というのは始球式もあり、調整が難しい。だから先攻を取る必要があったんです。主将の武岡(龍世)には、先攻を取ってほしいとお願いしました。ただ武岡は青森大会でじゃんけん6連敗中だったので不安がありましたが、今日はジャンケンを勝ってよく先攻をとってくれました」と振り返った。
その後、この試合の打撃のテーマについて仲井監督に聞くとポイントは低めへ見極めだった。「今日は低めに落ちるスライダーやチェンジアップに手を出さないことでした。それをうまく見極めができていたと思います」
そして初回に先制となる満塁本塁打を放った下山昂大は満塁本塁打については、「まさか入るとは思わなかったので嬉しいです」と素直に喜びを話した。このホームランは主将の武岡龍世も、「(下山のホームランは)打った瞬間、入ったと思いましたね」と会心の一発だった。
その武岡は今日の自分の打撃を振り返ると、「最初はボール球に手が出ていたんですけど、第3打席のヒットはストレートを打ち返すことができました。第4打席のセンターフェンス直撃の三塁打は入ったかなと思いましたが、惜しかったです。今日は3安打を打ちましたが、ようやく自分のスイング、打撃フォームで打てるようになっていると思います」と調子が上がってきていることをコメントした。
次の智辯学園戦に向けて「総力戦で臨みます」と意気込みを語った仲井監督。八戸学院光星は昨年に続き、初戦突破を決めた勢いで八戸学院光星が智辯学園の壁も越えていく。