Column

強豪・早稲田大ボート部から学ぶ!もっと強くなるトレーニング術【前編】

2016.10.03

 このところ高校野球でも、強豪校を中心にエルゴメーターを導入するチーム増えているようだ。ただ、実際の使い方や漕ぎ方、正しいフォームを理解しないまま、速さだけを競っているチームもあると聞く。そこで1902年の創部以来、数多くの日本一タイトルを獲得し、日本ボート界を牽引する存在であり続けている早稲田大漕艇部を訪ねた。早稲田大学漕艇部は、9月22日から開催された全日本大学選手権大会でも、女子チームは総合優勝し、大会5連覇を果たしている。今回は、そんな強豪チームを率いる内田 大介監督にエルゴメーターの正しい使い方・フォームを教えていただくとともに、ワセダのボート部の選手が日頃、どのようにトレーニングで活用しているかなど、お話をうかがいました。

ボート初心者を育てるためにエルゴメーターを活用

早稲田大漕艇部・内田 大介監督

 野球の世界でエルゴメーターが浸透してきたのはここ10年ほど。それに対し、もともとボート競技の向上のために開発されたエルゴメーターとボート界の関わりは古く、早稲田大漕艇部の内田 大介監督によると「日本でも1962年の東京オリンピックの前あたりには使っていたと思います」

 高校球児にはあまり馴染みがないかもしれないが、今年、監督就任3年目の内田監督は早稲田大漕艇部のOB。在学中は4年時に主将を務めた。卒業後、1983年から2007年まで監督として山梨・富士河口湖高を指導し、多くの選手が世界ジュニアやインターハイ、国体などで好成績を残した。昨年2015年は、「One WASEDA」の理念のもと、全日本大学選手権・女子全種目完全制覇、女子総合優勝7連覇を果たすとともに、男子エイトを19年ぶりの日本一に導いた名指導者である。

ずらりと並んだエルゴメーター

 現在も埼玉・戸田市にある早稲田大漕艇部・合宿所のトレーニングルームには、12台のエルゴメーターがずらりと並ぶ。とはいえ、ボート部の選手がいつもエルゴメーターを漕いでいるかというとそうではない。早稲田大漕艇部の場合、あくまでクロストレーニングの一部を成すためにエルゴメーターは存在する。それでもエルゴメーターが果たす役割は大きいようで、内田監督はこう話す。

「ウチは高校ボート経験者のトップクラスはそれほど多くなく、異種目からの転向組など初心者が、部員の半数くらい占めます。そのため、選手を『育てる』ことが大切になってくるのですが、エルゴメーターがこれをアシストしてくれています。水上ではオールの操作やバランス、あるいは他のメンバーの動きに気を配らなければなりませんが、エルゴメーターならそういったことを排除して、モーションパターンに集中することができますからね」

明確な目的に即してエルゴでのトレーニングを行う

 では早稲田大漕艇部は、具体的にどのような目的で、エルゴメーターを使ったトレーニングは行っているのか?主な目的の1つが、ボート競技において必要となる体幹部を中心とした大きな筋肉を鍛えることにある。内田監督は「漕ぐ時にその部分を合理的に使えるようにしながら、股関節回りの筋肉の強化もしていきます」と説明する。

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[page_break:明確な目的に即してエルゴでのトレーニングを行う]

息が上がった状態でどうプレーするか

 2つ目は“「筋肉と神経の連動」を図る”。これは「たとえ筋力が劣る選手でもスピードがあれば、筋力のある選手と同等のパワーを発揮できるからです」。パワーとは力×スピード―。そのため、エルゴメーターの負荷を軽くしての、スピードを主眼とした神経系のトレーニングを行っており、選手は自分に合った軽い負荷で20秒最高スピードで漕ぎ、休息を2分取り、これを10セットといったメニューに取り組む。

「スピードが求められる野球でも、エルゴメーターを使った神経系のトレーニングは有効になると思います」

 そして3つ目の主目的は、“最大酸素摂取量レベルを高める”。
「ボートの選手は筋疲労した、乳酸が溜まった状態で、オールを漕がなければなりません。ですが、テクニックが未熟だと、先も言ったように、オールを合わせるとか、それ以外が主体になるので、水上での高負荷のトレーニングはできません。そこでエルゴメーターを使って、1分間の心拍数が180拍程度になる負荷で、たとえば20秒~40秒漕ぎ、20秒~40秒休んで、これを8セットから10セットといったメニューで、最大酸素摂取量レベルのトレーニングをしています」

 野球では、ボート選手のように息が上がった状態で運動(プレー)するケースはまずないが、投手は球数が増えた夏場の時期はこれに近くなる。三塁打を放って三塁まで全力疾走してきた選手もそうだろう。いささか本末転倒ではあるが、厳しい練習を乗り切る、という観点からも、最大酸素摂取量レベルのトレーニングも野球選手には必要かもしれない。

エルゴなら高い負荷をかけてもケガをしにくい

 これらの他にも早稲田大漕艇部では、ボート上でのモーションパターンを定着させ、毛細血管を発達させることを目的に、20分から40分、あるいは6000mを1、2セットというメニューをエルゴメーターで行っている。
「繰り返しになりますが、ボートの上ではモーションパターンを意識することができません。そこで陸上でエルゴメーターを使って、これを無意識で正しくできるレベルまで持っていく必要があるのです」

 エルゴメーターを使ったトレーニングを様々な目的に即して行っている早稲田大漕艇部。内田監督はエルゴメーターには「高い負荷をかけてもケガをしにくい利点もある」という。

「もしランニングで同じように高い負荷をかけたら、ケガにつながるでしょう。しかしエルゴメーターなら、出しているスピードに比してケガをする可能性が低いので、しっかり追い込むことができるのです。もっともこれは、いかに自分を追い込めるか、にかかっていますが…それとエルゴメーターは、故障明けの選手がトレーニングする時も役立っていますね。あと、もちろん正しいフォームで使うことが前提になりますが、体幹を中心に股関節を伸展させるので、一般的に鍛えるのが難しいとされている太腿の裏側(ハムストリング)が強化できるメリットもあると思います」

エルゴメーターの正しい漕ぎ方を動画で公開!

「エルゴメーター」の詳しい情報はこちら!

 後編では漕ぎ方の良い例と悪い例をさらに詳しくお伝えしていきます!

(文・上原 伸一


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【9月特集】「試合の振り返り方」

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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