Column

県立いなべ総合学園高等学校(三重)【前編】

2016.05.01

 右の本格派投手を2人擁し初の選抜出場を果たしたいなべ総合。しかし初戦高松商相手に延長10回の末、1点及ばず。僅差の終盤で競り負け、惜しくも甲子園初勝利はならなかった。ただその試合内容は2点を追う7回に逆転に成功すると8回にも2点を追加、9回裏一死までリードを保つ。昨秋の神宮王者であり、今選抜でも準優勝まで上り詰めた高松商を最も苦しめたチームと言ってもいい。今回はそんないなべ総合の投手調整法を伺った。

投手はただ投げているだけでは成長がない


選抜では先発マウンドを任された山内 智貴(県立いなべ総合学園高等学校)

 この大事な試合で先発したのは山内智貴(3年)。コントロールに優れる右腕は6回3失点と試合を作り、尾崎 英也監督も「よく投げてくれた」と合格点を与えた。打線がリードを奪うと7回からは下級生ながら背番号1を着ける渡辺 啓五(2年)がマウンドへ。必勝リレーのように見えたが、実はこれは渡辺が病み上がりであるための苦肉の策だった。

 渡辺は3月に入ってすぐの紅白戦で背中に痛みを訴えていた。最初は単なる軽い疲労かと思われたが、時間が経っても症状は良くならず、レントゲン検査でも原因がわからない。そして念のため撮ったCT検査で1番上の肋骨にヒビが見つかった。エースの骨折が判明したのが3月10日、選抜開幕まではあと10日しかなかった。渡辺が高松商戦までに実戦で投げたのは選抜前最後の練習試合の、最後の1イニングのみ。

 投げられるかどうかの確認だけをしてほぼぶっつけ本番で大会を迎えていたのだ。そんな状態でベストピッチを望むのは難しく、7回こそ三者凡退に抑えたがその後は高松商の反撃を許し「自分の力不足がわかった。自分のペースで投げれず、攻めることが出来なかったです」と反省の言葉が口をついた。

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[page_break:目的意識を持ってやることが大切]

目的意識を持ってやることが大切

尾崎 英也監督(県立いなべ総合学園高等学校)

 山内と渡辺、この2人の投手歴は対照的だ。山内は背番号5が示すように元々野手で、本格的に投手を始めたのは高校に入ってから。中学時代にも時たまマウンドに上がることはあったが、練習でブルペンに入るようなことはなかった。逆に渡辺は小学校低学年の頃から投手を務めマウンドに上がっている。しかし、全く違う経歴を持ちながら、高校での成長を尋ねると2人とも同じような答えが返ってきた。

「中学まではただ打って、投げて、守って、ってしてたんですけど高校来てから配球とか、今は考えて投げられるようになりました」(山内)

「中学の時はただ思い切って腕振ることだけを考えてたんですけど、高校に入ってからは配球とか間の使い方を考えるようになりました」(渡辺)

 これは尾崎監督の指導によるところが大きい。尾崎監督が大切にしているのは目的意識。「ただ投げてるだけのピッチャーはいつまでも変わらない。球が遅いのに速くなげようとしてもうまくいかない。自分が何で生き残るか考えないと。でもトレーニング積んでスピード出るようになったらピッチャーの本能で、力で抑えたろ、と思って自分を見失うことになるんですよね。それを自覚させるのが大事です」

 この落とし穴にはまってしまったのが水谷 優(3年)だ。入学時の球速はそれほどではなかったが、真面目に努力して球速が上がり、今では130km/h台中盤のストレートを投げられるようになった。そして、冬が明け、選抜を間近に控えての紅白戦でマウンドに上がると力で抑えようとしてメッタ打ちをくらった。危うくメンバーから外れかけた。

  ここまでいなべ総合で大事な投手についての考え方を紹介しました。後編ではいなべ総合独自の投手メソッドについて紹介します!

(取材・文/小中 翔太


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【5月特集】大会から逆算した投手調整方法

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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