Column

富士重工業「自分の特徴を知り、ティーに活かせ」

2016.02.18

 これまでに都市対抗26回出場、社会人野球日本選手権15回出場・優勝2回(1981年・2006年)。2014年には都市対抗野球大会で準優勝するなど群馬県太田市をホームに社会人野球を代表する強豪として君臨する富士重工業。現在までに5度の国際大会に出場し、豪快なフルスイングから本塁打を量産する林 稔幸(外野手・侍ジャパン社会人代表)を軸に、巧打、長打力ある選手が揃うことでも知られている。

 では、どのようにして富士重工業の強打は築かれているのか?今回はその源となっている「ティーバッティング」の目的、中身を紹介していきたい。

「動くボール」に対応するティーバッティング

選手の数だけティーがある!(富士重工業)

 例年、高校野球においてオフシーズンにはスイングスピード、振る力をつけるためにスイング量が多くなっていくチームが多いが、それは社会人野球の世界、もちろん富士重工業でも変わりはない。冬の打撃練習の基本は、素振り、フリーバッティング、ティーバッティング、ロングティーの4つになる。

 その中で富士重工業において「ティーバッティング」はどのような役割を果たしているのだろうか。創価高では1995年夏にはいきなり1年生で甲子園メンバー入りを果たし、高校通算48本塁打。2002年に明治大から4番の林 稔幸外野手(土浦日大高~立正大)と同期入社すると、2010年のスポニチ大会で首位打者・MVPを獲得するなど主力外野手として長く活躍後、現在は打撃指導を飯野 勝利監督から託される岩元 信明コーチに聞いてみよう。

「社会人野球の投手はストレートのスピードだけではなく、変化球の切れ味もハイレベル。そんな投手に対応するためにティーバッティングは重要な役割を果たしています」と、最近では高校生でも多くの投手が操るツーシーム・カットボールなどの「特殊球」への効果をまずは語る岩元コーチ。さらに岩元コーチによると「ティーバッティング」は対応力を磨くためだけではなく、技術的なことを鍛える意味でも、かなり大きな効果を発揮するという。まずは打つポイントを修正する場合は「真横から投げて打つポイントを確認しながら振る」という。

 また、バットが下から出たりするなど、上半身の動きに課題を抱えている場合は「イスやバランスボールに乗って下を使えない状況にして、上半身だけの動きを覚えるティーがいいですね」。体が開きやすい場合は「投げ手を逆側に座らせて投げて打つティーですね。背中越しに来たボールの場合、右打者の場合でしたら、左肩が開いてしまうと、打ち返すことができませんから」。岩元コーチからはポンポンとその修正法のティーバッティングが導き出される。

 よって、富士重工業のティーバッティングは何種類と限定することはできない。では、岩元コーチはこのような多彩なティーバッティングをどのようなきっかけで採用したのだろうか?
「私が現役時代から実践していたものもあれば、私がコーチになって、プロ野球選手がティーバッティングをしているWEB動画を見て取り入れたものもありますね。ティーバッティングの引き出しというのはだんだん増えてきています」

 ということで今回は岩元コーチと選手たちにご協力いただき、普段行っているティーバッティングを実践していただいた。動画で紹介するので、ぜひ注目してほしい。

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[page_break:富士重工業が実践するティーバッティングを動画で紹介!]

富士重工業が実践するティーバッティングを動画で紹介!

 紹介していただいたのは9種類。大まかなタイプを区分すると

1.打撃の基本的な流れを覚えるティーバッティング
2.飛ばす感覚を身に付けるティーバッティング
3.変化球、コースの対応力を磨くティーバッティング
この3種類である。これを分けて解説していこう。

1.打撃の基本的な流れを覚えるティーバッティング

・横から来たボールを打つティーバッティング
狙いとしては自分の打つポイントを確認するために体が前に流れてしまう癖を修正するためにある。3番を打つ入社5年目の副主将・竹田 育央報徳学園高~明治大)は、「自分のポイントを確認するために、もしずれがあったら、修正するために取り組んでいます」と、このティーバッティングをするときの意図を話してくれた。

・歩行しながらのティーバッティング
早いテンポで打っていく。狙いは打撃における一連の流れの記憶。足を上げて、しっかりとトップを作って、体重移動をして打ち返す。歩きながら覚えていくこと。

2.遠くへ飛ばす感覚を身に付けるティーバッティング

・エックス打ち
エックスを描くようにスイングをして、これを何回か繰り返して、打ち返すもの。狙いはヘッドを走らせて打球を飛ばせるスイングをつかんでいくことだ。

・バランスボールを打つティーバッティング
不安定な姿勢にあっても、頭の位置がぶれずにしっかりと打ち返すことができるか。体幹が弱いと、支えることができず、姿勢が崩れやすい。また下半身を使えないので、上半身の動きだけで力強い打球を打つにはどんなスイングをすればよいのか、それを覚えていく狙いもある。

・大股ティーバッティング
スタンスを広げて打ち返す。これは下半身強化が目的で、特に鍛えたいのは軸足の内転筋だ。内転筋を鍛え、遠くへ飛ばす筋力をこのティーバッティングで養っていく。

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[page_break:「自分だけのティーバッティング」で自らを知ろう]

3.対応力を磨くティーバッティング

・後ろから来たボールを打つティーバッティング
狙いとしてはしっかりとトップを形成し、バットの内側から出たスイングができるため。そして後ろから来たボールを真っ直ぐ打ち返すにはタイミングも重要だが、これがなかなか難しい。実は社会人野球の選手たちでも悪戦苦闘する場面があった。

・インコースを打つティーバッティング
いろいろとコースを打つ練習はあるが、今回はインコース打ちを教えていただいた。インステップ気味にして、インコースを打つ。この時、スイングした時に右腰が浮かないようにする。体が開いてしまう選手は、腰が浮いた状態になりやすい。

・背中越しからのボールを打つティーバッティング
投げ手は普通、打者の顔が見える位置にいるが、ここでは打者の背中越しに立つ。これは背中側からくるボールに対し、体が開かずに打ち返すことができるか。体が開いた状態になると、外角へ逃げる球を打ち返すことができない。強い打球ではなくても良いので、身体が開かずに真っ直ぐに打ち返すことができればよい。ただこのティーは上級編なので、しっかりと投げ手の防球対策をした上での実践が必要だ。

・ワンバウンド打ち
これは変化球への対応力をつけるのが目的。ワンバウンドは一定の変化になることはない。様々な変化をするからこそ、練習になる。このバウンドに対し、どのタイミングで打ち返していけば良いのか。その積み重ねをすることで、変化球の対応力を磨いていく。

「自分だけのティーバッティング」で自らを知ろう

岩元 信明コーチ(富士重工業)

 このようにティーバッティングは実に種類豊富。ただ、選手はすべての種類のティーバッティングをやるわけではなく、現状の課題と照らし合わせて適合したティーを採用していく。例えばインコースを打つことを苦手にしている選手なら、インコースを打てるようになるためのティーバッティング、体が開きやすい選手なら開かないためのティーバッティング、自分のポイントを正しくしたい選手は横から打つティーバッティングと、工夫しながら実践をしている。

 よってティーバッティングをする上での前提条件は・・・岩元コーチは力説する。
「まずは自分の打撃の欠点、そして自分の打撃の特徴を知ってほしいですね。自分もそうやって現役当時から考えて、ティーバッティングの引き出しを増やしてきましたから」

自分を知り、ティーバッティングを選択し、自らの打撃向上へつなげる。これは社会人野球に限らず、高校球児をはじめ野球にかかわる全ての皆さんに共通する理論だろう。

 このように確固たるティーを築き上げ、北関東の雄「SUBARU」イズムを形成していく富士重工業野球部。近年、チーム内では若手、ベテラン問わず激しい競争が行われており、2015年からチームを指揮する飯野 勝利監督も、
「私は個々の力を伸ばすことをテーマにしてやってきましたが、だいぶ選手の能力は底上げができていて、都市対抗上位を狙えるベースは出来上がっているように感じます。あとは高い潜在能力を大舞台で発揮するだけですね」とチーム作りに手ごたえを感じている。

 1981年・2006年に制した社会人野球日本選手権3度目の優勝と、群馬県太田市代表として悲願の都市対抗初優勝へ向け、彼らは今日も「自分だけのティーバッティング」を貫いていく。

(取材・文/河嶋 宗一


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【2月特集】実践につながる ティーバッティング

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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