Interview

東北楽天ゴールデンイーグルス 聖澤 諒選手【後編】「考える作業と行動する勇気を持つ重要さ」

2016.02.03

 前編では聖澤 諒選手の走塁における考えを紹介していただいたが、その考えはまさに一流。言葉1つ1つの意味にも実感がこもっていました。後編では用具のこだわりや、聖澤選手の思考の原点に迫りました。

試行錯誤を続ける重要性

聖澤 諒選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 こういった自分を研ぎ澄ませた結果のオリジナル理論は、道具に対しても通じている。これも前回のインタビューで話していたが、聖澤選手は守備手袋を着けない。
「グローブは薄い生地でシュビテ(守備手袋)はしないですね。なぜかというと、キャッチした際、グローブのどの位置にボールが入っているのかを痛みの感覚で知るためです。キャッチして送球動作に入るためボールを握り替える時に、ボールがグラブの芯に入っているのか先に入っているのか、手前に入っているのかを感触で知っておけば瞬時にスムーズに判断ができますから」

 スパイクに関しては、優秀な走者に共通する「軽さ」を追求しつつ、また別のこだわりがある。
「ミズノさんのスパイクを使わせてもらっていますが、最軽量のもので。正直、スパイクを履いている感覚がないほどです。アップシューズや陸上選手が履くランニングシューズに刃が生えている感覚。そして重要なのはインソール、中敷きだと思っています。型を採って足の裏とスパイクとに間が生じないようにフィット=一体化させることで、スパイクの中で足がブレないようにするんです」

 納得のいくスパイクを履けるようになったのはここ2、3年の話。それまで幾度となく試行錯誤を繰り返してきた。
「1年の間に2、3回は担当者の方と意見交換して突き詰めていきました。特に自分に合った中敷きを探すのは高校生にとっても大事かと思います。通常の平坦なものより、オーダーとまでは言いませんが、土踏まずなど足裏の凹凸にアーチをかけてフィットさせているようなものを選んでもらえばいいのではないでしょうか」

 試行錯誤。自分を研ぎ澄ますうえで欠かせない作業だ。聖澤選手の高校球児に対する盗塁上達のアドバイスにもこの作業は出てくる。

「盗塁の上達には実戦が一番です。ただ、単に盗塁を続けるのではなく、回数を重ねながらその一つ一つを自己分析してほしいんです。自分もいろんな考えをしている中、100%納得のいく盗塁なんて、年に数回しかできません。リラックスしていたつもりでもスタートで力んで身体が浮いたとか、遠目からスライディングしてセーフのタイミングがアウトになったとか。セーフでもアウトでも結果関係なく、今のは何がよくて何が悪かったのか分析することを続けていくことが大切です」

 聖澤選手はこの分析を、盗塁が終わった瞬間に行うという。
「最初はメモしてもいいでしょう。自分は頭の中にインプットして盗塁が終わった瞬間に分析してます。成功したら塁上で、アウトになったらベンチに戻りながら。アウトになった時は、“今のケースはこうしたらセーフになっていた”という走りを頭の中で再現して成功させてからベンチに戻る。“次はこうすればいいんだ”という結論を得られれば、例えアウトになった盗塁も、それは失敗ではなく成功になると考えています」

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[page_break:行動してはじめて研ぎ澄まされる]

行動してはじめて研ぎ澄まされる

聖澤 諒選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 改めて言うが「考える人」である。野球に限った話ではないが、思考にはゴールがない。時間的制約の中結論は出すが、それでたとえ結果が出たとしても、それが絶対的な答えとはならない。野球選手ならば、年齢やチーム状況、任される役割が刻々と変わる中、常に考え続けその時々のベストと思われる選択を考え続けていかなければならないのだ。

 2012年に盗塁王を獲得した聖澤選手も、その結果に満足せず考え続けてきた。
「目標としてきたわけですから、盗塁王のタイトルを獲得したことで達成感はありました。でも研ぎ澄ますことを止めようとは思いませんでした。研ぎ澄ますことは永遠の課題というか、終わりがないと思うので。プロ入り後から今まで、レベルは上がってきたと思いますが上には上がいます。

 チーム内では松井 稼頭央選手2015年インタビューとか、それこそイチロー選手とか、もっとレベルの高い研ぎ澄まされた選手がたくさんいる。自分がもっと上手くなるための答えはもっとあるだろうし、そのためのいい練習ももっとある。引退するまで全てに対して上手くなりたいから、現状にOKは出せないですね」

 そのために常にアンテナを張り続けている。
「必ずどこかにヒントが落ちているんじゃないかと、練習でも私生活でもアンテナを張ってます。アンテナを張りながら、他の選手の行動を見て盗むというか。この世界ですから直接話を聞いたりはあまりしないんですけど。練習をやっているだけで満足している現状から抜け出すためには、そのようにアンテナを張りながら考え、そして行動まで移せるか、だと思います」

 この「行動まで移せるか」ということが実は最も難しいのかもしれない。考えても実際に行動しなければ、それは考えていないに等しい。つまり、研ぎ澄まされない。

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[page_break:一歩抜け出す勇気があれば、可能性を広げられる]

一歩抜け出す勇気があれば、可能性を広げられる

聖澤 諒選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 聖澤選手が行動することの重要性を感じたのは、高校時代の経験にあったといえる。
長野の長野松代高校3年時、夏の県大会は初戦敗退。当初はそこで野球を辞めるつもりだった。

「野球は高校で終わる予定だったんですけど、大学からセレクションの通知が来て、監督に『行くだけ行ってみなさい』と言われたんです。そこで甲子園に出ていた人といっしょに2日間、セレクションを通じてプレーすることによって野球観が広がった。高校までよくやってきたなと思っていた野球人生、辞めたかったはずの野球に知らなかった深みを感じたといいますか。上手い人たちといっしょに野球をやってみたい気持ちが芽生えたんです。それでセレクションに合格して國學院大に進んだから今がある。高校時代の自分では、今の自分の姿を想像することはできませんでした」

 高校球児として目の前の野球に全身全霊打ち込む。100%で取り組んでいるからこそ、自分で自分の限界を設定しまうこともある。納得させてしまうことがある。それは分かる。しかし、実はまだ気付いていない野球の楽しみや上達法が隠されている場合も少なくない。その可能性を、聖澤選手の例から知っておいた方がいいかもしれない。聖澤選手の場合、その可能性を大学のセレクション会場で知り、大学野球で開花させ、プロ入りしてさらに伸ばし続けることでタイトルを取るまでになった。もし大学のセレクションに行くという「行動」を起こさなかったら…今の聖澤選手はいない。

 だからこそ、次の言葉は重い。
「高校生でも、レギュラーになりたい人と聞いたら全員が手を挙げると思います。では、レギュラーになるために何をしているか。そこで考えて答えを導き出す選手、行動している選手は少ないのではないでしょうか。考えて行動するまでいってみてもらいたいと思います。実際、考えるようになったら与えられる練習ではなく、自分でやりたい練習が見つかるはずです。

 監督、コーチといった指導者に自分から意見を言っていくことはすごく意味のあることですし、指導者からしても嬉しいことのはず。上手くなるために考えているからこそ自発的な言葉が出てくるわけですから。与えられたことをやっているだけでは、たとえ技術が伸びたとしても上手くなったうちに入らない――それぐらいの心構えを持って取り組んでもいいかもしれません」

 考えるという作業は目に見えるものでない以上、難しい。そして行動に移す勇気を持つのは、もっと難しい。しかしその難しい段階をクリアできれば、そこには競争から抜け出るチャンスが広がっている。

(インタビュー・文/伊藤 亮


注目記事
・【走塁特集】走塁を極める

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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