Column

学法石川高等学校(福島)【前編】

2016.01.18

 春3回、夏9回の甲子園出場を誇る学法石川。昭和から平成にかけて、福島の高校野球を牽引した。しかし、1999年夏を最後に甲子園から遠ざかり、近年の福島県といえば、聖光学院が台頭している。学法石川は監督交代劇が続くなど落ち着かなかった時期もあったが、昨秋、11年ぶりの東北大会に出場し、12年ぶりの1勝を挙げた。そんな昨秋を振り返り、今季への意気込みを伺った。

ルールは選手たちで決めさせる

グラウンド(学法石川高等学校)

 学法石川のグラウンドは、学校からやや離れたところにある。商店街を抜け、山道に入ると急勾配な坂が出現。さらにヘアピンカーブが3つ続く。この先にグラウンドがあるのだろうかと疑ってしまうが、レフト後方のネットが姿を見せると、山を切り開いた両翼96メートル、中堅122メートルの立派なグラウンドが登場する。バックネット裏には、学法石川を全国区に育て上げた故・柳沢 泰典監督の座右の銘「苦の中に光あり」がドーンと掲げられており、学法石川ナインはこの7文字に見守られながら、練習に励んでいる。

 学法石川は昨夏、初戦で須賀川桐陽に5対8で敗れた。春夏通じて12回の甲子園出場を誇る名門の初戦敗退は、実に12年ぶりのことだった。
「夏に負けて、好きにやろうと思いました。叩かれるのは僕。責任はこちらにある。選手たちを信じてやろう、と。あの負けがあったから、思い切って変えることができました」

 そう話すのは、13年秋に就任した上田 勇仁監督。現2年生は1年生から指導してきた初めての学年で、1年以上かけて信頼関係を築いてきた自信もあった。例えばルールを決める時、押し付けた方が簡単だが、考えさせるようにした。負けたことで制約を強めるのではなく、その逆。「以前から、この学年が上になったらいい意味で自由にしようとは思っていました。選手たちに決めさせるスタイルにしたんです」と上田監督。

 グラウンド、部室、寮、学校生活に至るまで、選手たちでルールを決めさせるようにした。その1つが、携帯電話。学法石川は校則で学校での使用が禁止されているが、それを破った部員がいた。選手たちが出した結論は、学校で毎日、集めて先生に預けるというものだった。

 夏の敗戦は7月11日。新チームは小柄な選手が多いが、その分、器用でもあった。そのため、守備、走塁に力を入れ、バントやエンドランといった小技を徹底した。秋季大会の支部予選。4番の小宮山 武が「初戦の入りが難しかった」と話すように、選手たちの心の中には夏の初戦敗退という悔しさが残っており、公式戦の恐怖はあったようだ。そんな中、初戦の白河戦は6回に勝ち越して4対2で勝利。続く清陵情報にコールド勝ちすると、光南との決勝は9回裏に2対2の同点に追いつかれたが、延長12回表に1点を勝ち越して勝利した。

 夏の初戦敗退を二塁手として経験したショートの鞆谷 翔は、「夏、負けた時は頭が真っ白になり、現実を受け止めるのが嫌でした。秋は、夏のトラウマがあったけど、やっているうちに『負けたくない』『負けられない』と思うようになりました」と話す。

 夏の苦い思い出を糧に、支部予選3連勝で県大会へ。初戦の磐城戦は延長11回、サヨナラ勝ちで突破した。そして2回戦を完封勝ちすると、準々決勝は小宮山の2点タイムリーで勝利。準決勝は8回コールド勝ちし、11年ぶりの東北大会出場を決めた。

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聖光学院、盛岡大附と戦って感じた精神力の差

北郷 辰憲選手(学法石川高等学校)

 県No.1の座をかけて挑んだ聖光学院との決勝は、6回まで0対0の緊迫した投手戦となった。学法石川は走者を出すものの、ホームが遠く、得点できない焦りが出始めた。そして7回、聖光学院に先制を許した。まだ0対1だったが、8回に崩れ、5点を失った。先発したエース・北郷 辰憲は「気持ちが未熟でした。バッティングのチャンスで1点が取れない中、逆に1点を取られて動揺しました」と振り返る。
結局、福島の雄を倒すことはできなかったが、秋季大会では久しぶりの東北大会出場権を経た学法石川。舞台は青森の地へと移った。

 東北大会では、初戦(2回戦)で能代松陽を9対2で下した。秋季東北大会での勝利は、03年以来、実に12年ぶり。ちなみに、この03年の大会で選手だったのが上田監督と伊東 美明部長だ。弱小校だった学法石川を鍛え、甲子園常連校に育てた故・柳沢監督は「山を越えてまた山があった」と言ったそうだが、11年ぶりの東北大会、12年ぶりの勝利の先に“山”があった。

 準々決勝の相手は、盛岡大付。シーズン中は練習のほとんどを打撃に費やす強打のチームだ。14安打され、1対9の7回コールドで敗れた。この試合に先発した北郷は「力負けでした。何もできずにコールド負け。根本的に力の差があると感じました。バッティングにパワーがあり、ピッチャーもスピードがある。レベルの違いを見て、このままでは甲子園に出ても勝てない。上には上がいると感じました」と話す。

 盛岡大付に「力負けした」と話すのは北郷だけではない。学法石川の選手たちが皆、感じたことだった。では、福島県大会決勝で敗れた聖光学院には――?
北郷は「実力差というよりは、気持ち、精神的な面」を挙げ、小宮山も「聖光学院とは力の差はないと思った」と言い切る。そして、鞆谷もこう話す。
聖光学院とは何度も決勝を経験していますが、自分たちは決勝の経験がありませんでした」

 選手たちは、この敗戦がきっかけとなり、冬場のトレーニングでも自分たちが目指すレベルがイメージしやすくなっている。

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学法石川がこだわる『走る力』

ランメニューをこなす選手(学法石川高等学校)

 冬場は3班に分かれて個々の力を磨いている。上田監督が掲げるポイントは3つ。(1)パワーアップ (2)走る力 (3)振る力。
パワーアップや振る力というのは、おそらくどこのチームでも力を入れている点だろう。走る力、とは?

 今年の夏休み、学法石川は遠征に出ているのだが、練習試合の相手校は大阪桐蔭龍谷大平安近江前橋育英浦和学院……。甲子園常連で日本一の経験があるチームがズラリと並んだ。
大阪桐蔭には手も足も出ず、0対8で完敗したのですが、大阪桐蔭の選手たちが走っている姿を見て全然違うなと。まるで大学生とやっているようでした。体つき、投げる球、振る力がまるで違う。走る一歩、一歩の強さもありました」と上田監督。そんな“大学生”のようなチームがエンドランや盗塁を仕掛けてくる。足を警戒すれば、簡単に打たれる。そんな経験が、この冬の軸になっている。

 また、龍谷大平安では、トンボがキレイに並んでいたのが印象に残っているという。
龍谷大平安さんも一時期、低迷していましたが、野球どうこうではなく、最初に変えたのは部室や寮をきれいにしようということだったと聞きました」

 学法石川も寮の掃除に力は入れていた。新チームからは「より隅々まで」(寮長の小宮山)徹底するようにしていたが、環境整備から復活を果たしたチームはいい手本だ。
「夏前だったら、トップダウンで『平安がやっているんだからやれ』と言っていたと思います。今は『どうしたらいいかな?』というボトムアップを求めるようになりましたね。当番を決めるべきなのか。そもそも一人ひとりがきれいにしていれば掃除当番はいらないよね、と。選手たちは未だに模索しています。この冬をかけて答えが見つかれば、二段も三段もレベルアップすると思うんですよね」(上田監督)

 掃除は一例に過ぎず、チームとしてどうしていくべきかという課題は沢山ある。冬の模索が春、どんな形を表すのか。「答えを言うのは簡単なので、我慢しています」と上田監督は笑う。

 前編では、新チームスタート直後の話と秋季大会の振り返り、オフの取り組みについて紹介しました。後編では選手を大人にしたいと願う首脳陣の方針について詳しく迫りました。

(取材・写真=高橋 昌江


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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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