Column

恩師が語るヒーロー 比嘉 公也監督×東浜 巨選手(沖縄尚学) 「投手として巨(なお)に教えることはほとんどなかった」

2015.06.03

 群雄割拠の東都大学リーグ4年間で35勝。今もトップスコアラーの通算22完封・420奪三振を残し、2013年にドラフト1巡目で亜細亜大から福岡ソフトバンクホークスに入団。今季は4月に2試合先発するなど、3年目の飛躍が期待される東浜 巨(ひがしはま・なお)。

 その東浜 巨沖縄尚学高(沖縄)時代に育て、2008年に同校2度目となる全国選抜高校野球大会優勝旗をもたらしたのが、自身も現役時代・エースとして1999年春に初の甲子園優勝を成し遂げた比嘉 公也監督(沖縄尚学)である。あれから約7年。時を超え、当時の愛弟子を恩師が改めて振り返った。

投手として巨(なお)に教えることはほとんどなかった

東浜 巨選手(福岡ソフトバンクホークス)

「(東浜)巨(なお)に対する第一印象は『細い』。顔も幼く見える。だけどボールを投げると柔らかくしなる。もう凄かった。『これは……』と唸るピッチャーでした」

 うるま市立与勝中軟式野球部時代、九州大会3位に輝き、沖縄尚学の門を叩いた東浜 巨の投ずる硬式ボールは、いきなり比嘉 公也監督のど肝を抜く。
「柔らかさを持っているピッチャーは何名も見てきましたが、それを上手く使って、ボールに伝えられる子というのは、そんなにいないんです」

 2006年から沖縄尚学の監督として、多くのピッチャーを見て育ててきた比嘉監督ですら「巨のようなピッチャーには彼の後、未だにお目にかかったことが無い」と語る。ピッチャーとして必要な全てを持ち、且つそれら全てを余すことなくボールに伝えることが出来た東浜 巨

 しかも彼は15歳にして自らの能力におぼれる選手では無かった。
「何も教えることが無い。そんな選手でしたね。黙って見ていると、とにかくブルペンで投げる姿しか見ない。投げている子がいれば、それが巨と言えるほどです」

「好きこそものの上手なれ」という言葉がピッタリはまる姿。これが2年後にセンバツを制する原動力ともなる。

備わっていた「名投手」の条件

「努力って普通は自分にとって厳しく辛いもの。でも巨にとって、ピッチャーとしてのスキルを向上させる努力は『好きだから』なんでしょうね。好きで投げ続けて、自分のモノにしていった、と思わせる子でした」

 そんな東浜に対し、比嘉監督が指示することは『走っておくことも大事だぞ』。というセリフくらい。しかも「投げ込み方」には、プロフェッショナルな意識が備わっていた。
「ただ投げ込むのでなく、ストレートのキレとカーブ。基本をとにかく磨いて、それから沈む球へ。そんな段階を踏むのが巨でした」(比嘉監督)。

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第97回全国高等学校野球選手権大会
僕らの熱い夏 2015
[page_break:ある練習試合での「叱責」を経て / 「延長11回」死闘の裏で ]

 東浜 巨の代名詞と言えるのが、アウトローいっぱいに決まるストレート。それにスライダーや打たせてとるツーシームなどが絡まってくる。が、比嘉 公也監督に言わせれば「そのツーシームだって投げさせれば最初から投げることが出来ただろう」と語る。

さらに凄かったのは投手ばかりではない。
「内野をさせても上手かった。このまま内野手としても十分いけるのではないかなと思いましたもん」

 興南高校の我喜屋 優監督(関連コラム)も重要視する、一流ピッチャーのスキルのひとつであるのがフィールディング。往年の名投手である桑田 真澄2013年インタビュー氏に近いものが、東浜 巨にも備わっていた。そんな完璧なピッチャーと思われる東浜だが、実は比嘉監督にしか知り得ない練習試合のエピソードもあった……。

ある練習試合での「叱責」を経て

東浜 巨選手(福岡ソフトバンクホークス)

「ストレートで空振りや見逃しを奪ったときは何もしないのですが、甘く入って打たれたときにキャッチャーと『今のちょっと高かった?』というような仕草を見せていました。何かこう、打たれたことに対して言い訳じみた、正当化するようなことがありましたね」

 ここで比嘉監督はすかさず東浜を呼ぶ。
「あたかも『今のはホントの自分の球じゃなかった、本気の球ではなかった』というような言い訳を、仕草で見せることはダメだと叱りました」

 甘く入ってしまったのは投げた自分の責任だし、投げた本人が一番分かっていること。それを言い訳にするような一つの仕草も、見逃さなかった比嘉監督。その叱責は彼の心中で「責任感」として刻まれていく。

「延長11回」死闘の裏で

「思い出に残るのは、準決勝の浦添商業さんと一戦での脱水症状ですね」(比嘉監督)。

2007年夏の沖縄大会
。2年生の東浜 巨は既にチームのエースでもあった。甲子園まであと二つと迫った準決勝の舞台。沖縄尚学の前に立ちはだかったのが浦添商。エースは東浜と並び沖縄県屈指の右腕と称されていた伊波 翔悟(現:沖縄電力)である。

 試合は7回を終えて2対2の同点と緊迫。ベンチの裏には塩分や黒糖は用意されていたが、東浜は余りにも試合のピッチングに気を取られ過ぎていたのだろう。本人の後日談いわく「水だけしか摂っていなかった」ことと、うだるような暑さで体が悲鳴を上げる。走者を送るためにバントをした東浜は、その直後に両足が攣り、グラウンドに倒れてしまった。

 「倒れた巨は、救急車で運ばれ病院へ。点滴を打った後『ドクターから家で安静にしておきなさい』と言われたのですが……」(比嘉監督)

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第97回全国高等学校野球選手権大会
僕らの熱い夏 2015
[page_break:「NPB投手」東浜 巨へのエール]

東浜 巨選手(福岡ソフトバンクホークス)

 2点を追う9回裏に一度は同点に追いついた沖縄尚学だったが、延長11回の死闘の末に敗れてしまった。そして東浜 巨は、点滴を終えたその体を起こしその足を学校へと向けた。

「先輩たちに謝りに来たのです。『背番号1を背負う立場の僕が倒れてしまい申し訳ない』と。翌日でもなく、その日に来て謝るというところを見て、この子は変わる、もっと強くなるなと正直思いましたね」

 比嘉 公也監督の直感は見事に当たる。秋の県大会からセンバツ出場を決めた九州大会、そして全国の頂点へと一気に上り詰めたのだ。

「倒れて迷惑を掛けたあの試合に、時計の針を戻すことは叶わない。けど、そのあと自分たちが勝ち続けることが、せめてもの償いだと思っていたのではないかな」
比嘉監督は当時の胸中を思いやる。

「NPB投手」東浜 巨へのエール

 2008年春、沖縄中を沸かせた沖縄尚学の歓喜。その中心にあった東浜 巨。それから7年が経過した。
亜細亜大学時代は「活躍出来て良かったなぁ」と電話をすることはあっても、プロ入り後は滅多に連絡することがなくなった比嘉監督。だが、「NPB投手」東浜 巨を応援し続ける思いはあふれている。

 そんな恩師から愛弟子に、最後にメッセージを送ってもらった。
「巨ちゃんは高校、大学と優勝も経験して順風満帆のままプロ入りしましたが、向こうの世界では自分の思い通りにいかない。そういう状況に直面しているけど、でもそこは投げることで培ってきたところがあるように、何かのきっかけで成績がついてくることになれば良いなと思うし、またそうなると信じています」

 その世界に身を投じた者だけが分かるNPBの厳しさ。ただそこにあるのは同じマウンドである。「怖いな」とか、「マウンドに立ちたくないな」といったマイナスのメンタルに支配されず、「沖縄尚学」を胸に刻んできた時と同様、自分の居場所を確保してきたとき。

 さらに言えば「投げるのが好き」ということを忘れずに持ち続けていればきっと、NPBという最高峰の世界でも花を咲かせることが出来る。恩師である比嘉監督は、心からそう願ってエールを送る。そして私からも。
「チバリヨー!巨!」

(取材・写真:當山 雅通

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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