Interview

甲子園総括コラム~意図がある前進守備~

2014.08.29

セーフティーリードがなくなった高校野球で不変の守備位置

 両チーム合わせて5本塁打――。

 初回に満塁本塁打と先頭打者本塁打から始まった準決勝の大阪桐蔭敦賀気比の試合(試合レポート)に代表されるように、近年の高校野球の打力向上はめざましい。
今大会でもその準決勝で大阪桐蔭が5点差、1回戦で大垣日大が8点差を逆転するなど、セーフティーリードがなくなってきている。
150キロを超えるマシンで打ち込むことができ、食事や筋力トレーニングなどで身体つくるチームが増えてきた今、特に夏の大会はある程度の失点を覚悟して戦わなければいけない。確実に時代は変わっている。

 ところが、時代が変わっているにもかかわらず、変化していないものがある。

 それは、守備位置だ。

守備練習の様子

 これだけ打力上位になっても、走者が三塁に進むと何の疑問も持たずに前進守備を選択するチームが数多くあるのだ。それも、ベースとベースのラインを結ぶオンラインよりも前。中には投手のすぐ後ろに守るようなチームもある。

 8点差の大逆転が話題になった大垣日大藤代の試合(試合レポート)では、大垣日大が初回一死満塁の場面でかなり浅めの前進守備を敷いた。
そして、直後の5番・小林慧太の打球はセカンド後方への当たり。併殺狙いの中間守備ならば確実にセカンドフライだったが、ポトリと落ちるタイムリーヒットとなり、先制点を許した。そこから、死球、サードの失策、ライト前安打、ランニング本塁打と続いて一挙8失点。大苦戦の原因を作ってしまった。

大垣日大の打線は全国でもトップクラス」

 藤代菊地一郎監督がそう言ったように、大垣日大打線は力があった。チーム力を考えても、大垣日大の方が上。初回の1点ぐらいならば、はね返せる力はある。「1点ぐらいやってもいい」という余裕があれば、いきなりの8失点はなかっただろう。

 監督自身が悔やんでいたのが、武修館
八戸学院光星相手に3投手の継投で7回まで1対0とリード。金星が見えてきた8回表の守りだった。

 無死からレフト前安打の後、送りバントを三塁手がフィルダースチョイス。さらに投手前の送りバントの処理が遅れて安打にしてしまい、無死満塁のピンチを迎えた。
打者は3番の森山大樹。ここで武修館内野陣は前進守備を敷いた。それも、セカンドとショートが投手のすぐ後ろに守る超前進守備。この後、森山の打球はショートゴロだったが、守備位置が前すぎてセンター前への逆転2点タイムリーになった。試合後、小林正人監督は言った。

「ノーアウト満塁で守備を後ろにしておけば、ゲッツーを取れた。(1点を守るのではなく)同点にしとけばという悔いはあります。あれはひとつ、勉強になりました」

  無死満塁の作られ方も、打たれたものではなく、バント処理のミスが2つ絡んでのもの。ミスで出した走者が複数いて、一人も返さないというのは、流れからしても簡単なことではない。
金星まであとアウト6つ。勝利が見えた場面だけに「1点もやりたくない」と思うのは仕方がないが、「無死満塁にしてしまったのだから、1点ならOK」という気持ちが必要だった。

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[page_break:前進守備で涙をのんだ戦い]

不用意な前進守備で涙をのむ

 大量リードしているにもかかわらず、前進守備を選択する場面も目立った。

 3回戦の三重対熊本城北の試合(試合レポート)。三重は序盤から打線が爆発。2回に5点のビッグイニングを作るなど、4回を終わって6対0と一方的にリードしていた。

 ところが、5回表。先頭の7番打者の死球から安打、四球で無死満塁のピンチを招くと、1番の安達勇輝を迎えたところで前進守備を敷いたのだ。
安達の打球はセンター前に抜けてまず1点。さらに一死後、守備はやや下がってオンラインの位置にはなったが、ファーストの失策、セカンドゴロ併殺崩れと続いて一気に4点を失った。

 三重中村好治監督は「右バッターなら後ろに守る(熊本城北の1~3番は左打者)けど、左バッターだとウチの守りだとゲッツー崩れの可能性がものすごいある。それで残ったら必ずやられるんです。(就任4ヵ月で)もうちょっと時間あったら(練習が)できるんですけど」と説明したが、それでも点差を考えれば中間守備でよかったはず。
その証拠に熊本城北・末次敬典監督はこの前進守備について、「相手チームのことなので、どうこうは言えませんけど……」と前置きをした後、こんな感想を漏らした。

「0点で勝ちたかったんですかね。ウチだったらしません。ありがたかった。あれで4点取れたのかなと思います」

 同じようなことがあったのが、2回戦の二松学舎大附対長崎海星の試合(試合レポート)。

 6対2と4点リードする二松学舎大附が5回表の守り、一死二、三塁、打者が4番・平湯蒼藍という場面で前進守備を敷いたのだ。このときは、レフトもかなり浅めだった。結果的に平湯は死球、5番が中飛で二死の後、押し出しの死球、センター前タイムリー、押し出しの死球と続き、1点差まで迫られてしまった。
4点のリードがあり、クリーンアップを迎える状況。ビッグイニングだけは避けたい場面だったが、前進守備で「1点もやれない」という意識が2つの死球につながってしまったように映った。

 3回戦の日本文理富山商の試合(試合レポート)では、8回表。3対1と2点リードする日本文理が一死二、三塁で前進守備を敷いた。ここで2番・横道詠二の打球は前進守備のファーストの横を破るライト線への逆転2点三塁打。続く3番の坂本潤一朗にもタイムリーが出て、逆に2点差をつけられてしまった。

 勝利まであとアウト5つ。2点のリードがあるのだから、ここは三塁走者よりも二塁走者を還さない守備位置取りが必要。三塁打になった当たりは、後ろに守っていれば、ファーストゴロの打球だった。

 ピンチになると、どうしても余裕がなくなり、周りが見えなくなる。何点リードしているのかも忘れてしまう。
相手が好投手で1点も取れそうにない状況ならば仕方がないが、三重二松学舎大附日本文理はいずれも打線に自信を持っているチーム。「1点ぐらいやってもいい」という気持ちがあれば、気分が楽になり、無失点で切り抜けられたかもしれない。
3チームとも勝ったからよかったものの、負けていたら大いに悔いを残しかねない守備位置だった。

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[page_break:状況を確認したうえでの守備位置]

状況を確認したうえでの守備位置

 前進守備ではないが、守備位置で悔いを残したのが近江。3回戦の聖光学院との試合(試合レポート)。1対0で迎えた9回裏に一死二、三塁からセカンドゴロで同点に追いつかれ(このときの前進守備もセカンドが前、ショートが後ろと中途半端だった)、なおも一死一、三塁の場面だった。

 1点取られたらサヨナラ負けのため、内野陣は前進守備を敷いたが、ファーストが一塁ベースについていたのだ。三塁走者が生還した時点で試合は終わる。一塁走者は無視していいはずだが、一塁手は状況を把握できておらず、ベンチも含めた周りも気がついていなかった。そして、カウント1-1から聖光学院石垣光浩にファースト前へセーフティースクイズを決められサヨナラ負け。惜しい星を落とした。
聖光学院斎藤智也監督は言う。

「初球は強攻だったんですけど、ファーストが(ベースに)ついてたので。きちっと転がせばセーフになる。堅実にいった方がいいと思って、思い切って(サインを)切り替えました」

実戦形式の守備練習

 勝敗には関係なかったが、2回戦の星稜鹿屋中央の試合ではこんなこともあった。

 4対1と星稜リードで迎えた9回裏。一死二、三塁のピンチで星稜内野陣は後ろに守った。あとアウト2つで3点差。2人の走者が還っても勝敗には関係ない。賢明な選択だ。ところが、この場面でサードの梁瀬彪慶がベースについていた。しかも、投手の投球と同時に、ベースから斜め前に出る。ヒットゾーンを広げてしまっていた。

「点差はあったんですけど、足使ったりとか、相手のやりたいことをされるのが嫌でした。投球と同時に前に出るのは? クセです(苦笑)」(梁瀬)

 このときは三振で事なきをえたが、三塁線を抜かれて長打になったりすれば、一気に同点にされてしまう可能性もある。イニング、アウトカウント、点差を頭に入れ、状況を確認したうえで守備位置を決めること、周りも他の選手がどこに守っているかを確認することが大事。投げる前に守備位置を確認。これを習慣にしてもらいたい。

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[page_break:ビッグイニングを作られないために]

ビッグイニングを作られないために

 最後に、これと対照的な守備位置をとっていた2チームを紹介したい。

 ひとつめは、岩国健大高崎との試合(試合レポート)でこんな守備を見せた。
1対0と1点リードで迎えた2回一死二、三塁で内野は前進守備を敷かず、後ろに守った(三振、セカンドゴロで無失点)。3回は1点を返され3対1となり、なおも盗塁、暴投などで一死三塁となったが、後ろに守った(サードゴロの間に1点を返されるが、好守で出塁は許さず)。3対2で迎えた4回表は無死三塁で、ここも後ろに守った(ショートへの痛烈なゴロ。三塁走者が一度止まり、本塁に投げればアウトだったが一塁に送球して1点)。4回の1点は河口雅雄監督も悔やむ判断ミスがあったが、いずれも最少失点にとどめることには成功した。

 昨秋の明治神宮大会でも2回戦の白鷗大足利戦(試合レポート)で1対2とリードされた5回一死二、三塁で前進守備を敷かない場面があったが、これが岩国のスタイルだ。ちなみに、この試合では1対4で迎えた8回裏に一挙5得点して逆転勝ちを収めている。

「守るべきところはきっちり守る。大量失点したら、普通、高校生は太刀打ちできませんから。前進守備をしないのがウチのスタイル。7回までに3点差でいければいいと思ってます。7回で3点差ならバントも使えますから」(河口監督)

 もうひとつが、春日部共栄敦賀気比との2回戦(試合レポート)で0対3とリードされた2回裏、一死満塁の場面で二遊間が後ろに守っただけでなく、一、三塁手もベースにつかず、深く守った。

「(敦賀気比打線は)当たりも、振りも違った。あれで前に守らせたら何点入るかわからない。いつも思うけど、絶対そっちの方がいいと思います」(本多利治監督)

 結果的に失点し、効を奏すことはなかったが、ひとつの考え方として選択肢に入れておくのはありだろう。

ビッグイニングを作られないために

 セーフティーリードがなくなってきたとはいえ、失点は1点でも少ない方がいいに決まっている。それゆえ、守るときに、一番に考えなければいけないのが、ビッグイニングを作られないこと。打力の弱いチームの場合、序盤に大量失点してしまっては、その時点で試合終了といってもいい。
そうならないためには、1イニングの失点を1点でも少なくすること。最少失点にとどめること。岩国・河口監督の言うように、終盤まで食らいついていけば、相手も高校生。何が起こるかわからない。接戦になれば、実力や能力よりも精神力の勝負になることもある。

 最後まで試合を壊さず、いかに食らいついていくか――。

 データや投手の力量で大胆なシフトを敷くチームは多くなってきた。だが、かつての「1点をやらない野球」という部分はそのまま。それが前進守備に表れている。シフトよりも大事なのは、状況を確認し、準備と確認を怠らないこと。試合展開、試合の状況を把握し、どの走者は還してはいけないのか、何点までならあげてもいいのかを考えること。

 前進、中間、普通。

 どの守備位置を選択するのか。それこそが勝敗に直結すると肝に命じ、オートマティックに前進するのではなく、考える習慣をつけてもらいたい。

(文=田尻賢誉

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この記事の執筆者: 高校野球ドットコム編集部

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